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「くそっ、見えていたのか、貴様! 隠密特化のこの俺がッ!」


 

 PKは、そのような戯言をほざきながら、器用に体を捻って受け身を取り。

 地面に、ズザァ……と、手足をへばりつけて踏みとどまった。



 さらに、その反動、屈した膝の力を利用して、ローリエに躍りかかる。


 

 全身黒ずくめの分かりやすいコーディネートの暗殺者。

 その手には、短剣が握られている。


 その凶器を、ものすごい攻撃速度で、ローリエに叩きつけてきた。

 

 蹴りを放った時から。


 否。

 

 近づいてきているPKの存在に気づいた時から。

 

 ローリエは、少しマジモードになっていた。

 だから咄嗟に、危うく『自分の剣』を掌に、作り出しかけた。


 しかし、寸出で止める。


 その隙に、一撃、刃を身に浴びた。

 ダメージエフェクトと、血潮の演出と共に、ローリエのHPが削られる。

 指輪の効果で、HPが半減している上に、VITも1(種族補正込みでも5)しかないので、割と馬鹿にならないダメージ量だ。


 さらに、暗殺者は――。


 「よくもこの俺を暴いたな! しねしねしねしねしねしねぇ!」


 短剣スキルを使って、無数の斬撃を一瞬で繰り出す。

 その数は、全部で12斬。そのすべてを浴びたら、紙装甲のローリエは死ぬ。


 だからそれを――。


 『風の羽根杖(フェザーワンド)』をナイフのように扱って、いなし、パリィングし。

 高DEXを活かした、素早い杖捌きで3()をさばき。

 補正こみ135というトップクラスの俊敏性(AGI)を活かして3()を回避し。

 半分ののこり6()を、身体で受けた。


「う、くっ――ッ!」


 プレイヤーに、きわめて緩和された痛みが、伝達されていく。


 怪しまれたくないから。

 ローリエは、あえて必要最低限だけを躱した。


 それでローリエは瀕死に陥る。

 これ以上は受けられない。

 

 「はははははっ!」


 「ロ、ロリちゃん!?」

 「ロリ!?」


 調子に乗ったPKの馬鹿笑いと、フェルマータとマナの心配する声がする。


 横目で見る。



 フェルマータが、駆けてくる。

 マナが魔法を紡ぎ出す。


 ふたりは、PKの相手をしようとしてくれている。


 うれしい。

 本当に仲間のようで。 

  

 でも、まずい、とローリエは思う。

 今、ゲーム内は日中だ。

 木属性の光合成(フォトシンセシス)がHPを再生してしまう。

 そうすれば、ウソがばれるかもしれない。


 やっと入れたパーティだ。

 ローリエは、フェルマータとマナに嫌われたら終わりだ。



 風の魔法使いであり続けなければいけない。

 一度始めたうそを、つきとおさないといけない。

 そう考えて。


 「まず一人目ェ!」


 一撃(トドメ)を振り下ろす暗殺者。


 それを――。

 短剣もろとも、垂直に、強烈に蹴り上げる。


 「なにぃ!?」


 ローリエの、白いサイハイソックスに包まれためしべのような足。その爪先が。

 暗殺者の顎にめり込み、身体を浮き上がらせた。


 キックの反動を、身体を回転させて殺しつつ。

 掌底のように、間髪入れずに叩き込む。


 「『大衝撃波(ショッキングブラスト)』!!」

 

 「ぐへ、はッ」


 蹴り上げから、1秒もおかずに放たれた、ノックバックに特化した風の魔法、その衝撃波が、暗殺者を物凄い勢いで吹き飛ばす。


 ここは山岳地帯。

 その先は崖だ。

   

 それを追いかける。

 この場には居られない。

 フェルマータが近づいてきている。

 マナの魔法が届く。


 【超高度跳躍(ハイジャンプアシスト)


 足裏から発する衝撃波の反動で、跳躍力を、瞬間的に超増強する風の魔法。

 そのベクトルを、真横に転じれば、それは超加速スキルとなる。


「ロ、ロリちゃ……!?」


 間近に来ていたフェルマータが、一瞬で遠ざかる。

 今、吹き飛んでいる最中の暗殺者の身体に。

 まるで突風のように、ローリエは追いついた。


 そのまま膝蹴り(ニータックル)で突き飛ばす――。


 さすれば。 


 そこはもう空中で。

 断崖絶壁の突破先。


 視界には、真下のはるか遠くに、流れる河が見て取れる。



 ローリエの身体が。

 落とされた、暗殺者と。

 ふたりして、真っ逆さまに、落ちて行く。


 高い崖が、背後を凄い速さ縦スクロールしていく。


 そして。

 単身で遠ざかったことで、パーティ行動の圏外扱いになり、メンバーのステータスが黒くなり。

 状態の把握が出来なくなる。


 その瞬間、ローリエの自動回復が1回分作動した。

 HPとMPが10%、スタミナが5%回復する。 


 もう今は、この崖がフェルマータ達の視界を遮っただろう。

 あの二人が、この距離、この遮蔽での視認スキルを持っていないことを、節に祈りながら。



 落ちながら。

 ローリエは、武器を紡ぐ。

 

 「『大自然の弓(フォレストアーク)』、『木製矢製造(クリエイトアローズ)』、『猛毒付与(ポイゾナスウェポン)』」



  


 その手に、短弓(ショートボウ)を。

 矢に、神経、血液、腐食の毒をこめて――。


 

「貴様ァ!」


 受け身を取り、悪あがきにナイフを投げてくる暗殺者の


 その短剣を、ローリエは容易く躱し。


 少し距離の開いた、直下を落ちる身体に向けて。

 



 矢を、撃ち放つ。


 『弓の武芸(アーツ)』と『木の魔法(エレメンツ)』の合わせ技、


 

魔法戦技(コーディネート)――『死毒の棘(アキューリアス)』!!」



「ぐはぁ!」


 空中で放たれた毒矢が、暗殺者の身体に突き刺さり、



「覚えてろよ、貴様ァァァァァ!」


 捨て台詞を残して、そのまま奈落へと落ちて行った。

 

 

 まだ暗殺者は死んではいない。

 けど、かなりの高所からの落下ダメージだ。

 何か対策していないのなら、絶対に死ぬ。


 そして、PKを仕掛けたもの、そして、PKに応じたもの。

 この双方は、絶命した時、または、HPが1/4になった瞬間に、ペナルティドロップの判定が発生する。

 この確率は、絶命した時の方が圧倒的に高く、PKを仕掛けたほうが2倍高い。



 その結果か。


 落ちて行く暗殺者の落し物が、ひらひらと、キラキラと、宙を舞って。



 ローリエはそれを掴み取る。



 筋力を大きく補正してくれるアクセサリーだった。




 そして、ローリエは――。


 

 そもそも落下ダメージは無効で、空中機動も可能なので。 

 

 弓を解除しつつ、良い感じに減速してから。


 適当に崖に生えている枝を掴んで、ぶら下がる。




「はぁ」

 

 一息。


 そして思う。

 

 ごまかせただろうか、と。

 ……ローリエは、そんな心配をまずするのだが。

 


 すぐに、ローリエは首を振って。

 恥ずかしい自分の性格に自己嫌悪する。




 だって。

 この行動の全ては保身のためなのだ。 

 マナを守るため。

 PKという悪を懲らしめるため。


 そういう、真っ当な理由じゃない。



 そういうとこだぞ、私。

 だから、嫌われるのだ。



 崖の上からフェルマータが顔をのぞかせるまで。

 その自己嫌悪は続くのだった。


 

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