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 「そういえば、ロリちゃん、何か頼む?」


 「え?」


 唐突に、フェルマータが聞いてきた。



 「ほら、ここ一応カフェだから」


 「あ、いえっ! 大丈夫、です!」


 STP(スタミナ)は満タンだし、美味しいかどうかもかなりあやしい。

 なにせ、味覚の伝達においてはまだ発展途上のVRだ。

 STP(スタミナ)の回復以外の用途で、ゲーム内での飲食は、本当にただの趣味で。

 特に、お店を経営しているプレイヤーのメニュー開発のセンスの具合によっては、緊急ログアウトが必要になるかもしれない。ダッシュで、お花畑に水をやる羽目になる。

 

 まぁ、ローリエはお店で何かを食べたことは1度もないので、全部攻略サイト情報だけれど。


 「そう? ここの料理はけっこう頑張っているのよ」

 しかし、フェルマータはここの料理を試したことがあるのだろう。

 すこし残念そうだ。

 

 マナも、ここの料理は食べたことが無い様子で、「そうなの?」とフェルマータに尋ねる。


 「ええ、なんでもスフェリカの料理を研究するって、お店を建てたみたいだし期待はできると思うわ。たぶん、今もマスターはメニュー開発しているんじゃないかしら」


 そういえば、お店の店員はまばらで、店主の姿は見えない。

 開発中だというのなら、バックヤードに居るのかもしれない。

 

 しかし、店員も少ないが、客も少ないのは気になる所。

 ここは仮にも首都のど真ん中なのに。


 それに、この仄かに香る木材の香。

 予想できることは一つ。


 ローリエは、何気なく尋ねる。


 「そ、そういえば、このお店、出来たばかり……ですか?」


 「そうよ。まだオープンして一週間くらいじゃないかしら。だから、斡旋できるクエストも少ないし、メニューも少ないし、稼ぎが少ないから店員もそんなに雇えないみたい」


 へぇ。

 こんなすごい立地にこんなに広いお店を建てるなんて、結構なリアルマネーが必要なのに。

 と、ローリエは感心してしまう。


 そして確かに、まだお店としては未完成らしく。

 たまに入ってくる客は、まるで美術館に来たかのように、店内を一巡すると出て行ってしまう。

 階段という境界を隔てた対岸のクエスト斡旋所からは、「ろくな依頼ねぇじゃねえか? なんかねぇのか? まだ貼りだしてないやつとかよォ?」なんて、客のクレームが聞こえてきている。



 「露店の代行も、まだ受けてない?」


 マナが口を挟む。

 「たぶんね――」とフェルマータ。

 「――そもそもお店に知名度が無いのよ。ここでアイテムを売るとなれば、代行費用を取られるわけだし、疎らにしかお客が来ないお店で、アイテム売っても効率悪いでしょ?」


 「まぁそうね」


 「せめて何か、ものすごいレア物の露天販売の代行を取り付けることが出来たら、ちょっとは違うんでしょうけどね」

 


 確かに、現状、広い店内は遊んでいる空間が多いようにみえる。

 おそらく、その遊んでいる空間が、代行販売のための場所なのだろう。


 今はがらんとしている。


 ローリエはさらに問う。


 「2階は何に使ってるんです?」


 「2階は、宿よ。長期滞在も出来るわ。今の所、宿が一番の収入源みたいだから、良かったらロリちゃんも使ってあげてね」


 「私たちも使ってる」

 「うん、一番安い部屋なら、一泊5000グランで、首都の中ではリーズナブルな方よ」


 うん。どうだろう。

 ずっと森に居て、宿を使ったことが無いローリエには、高いか安いか分からない。

 

 それにしても、二人はこの宿を拠点にしているのだろうか。

 だとしたら、ローリエも使う必要があるだろう。

 自分だけ、使わないというのは、なんか……疎外感を感じるので。



 ローリエもこの宿の利用を検討しよう、と思っていると。


 フェルマータが立ち上がった。

「さて、では、せっかくだし、このまま三人で今日の宿代でも稼ぎに行きましょうか」

 

 続いてマナも席を立つ。

「そうね。ロリの実力も見たい」



「へっ!?」

 ローリエは驚く。

 二人を見上げて。


 

「――場所どこにする? いつもの場所?」

「そうね。急にランクを上げても上手くいくか分からないわ。今日はロリの戦いぶりを観察するだけにする。あそこなら、雷属性の魔物は出ないし、ロリにも戦いやすい筈」

「おっけー」


 オォ!?

 おっけーではない!

 勝手に話が進んでいく。

 それに、ロリというあだ名が定着してしまっている。

 

 なんということでしょう。


 フェルマータとマナは、今から出立する気満々で、ローリエの行動を待っている。


「え、行くんですか? 今から!?」


「そうだけど、このあとなにかリアルで用事でも?」


「いえッ……。別に、無い、ですけど」


「じゃ、行きましょ」


「大丈夫。フェルが守ってくれる」


「うんうん。私、治癒も出来るし、盾スキルもマスター済みよ」

 安心して、とフェルマータは魔銀(ミスリル)のブレストプレートに掌を置く。


 


 ――これは断れない流れ。

 そして、パーティを組むという事は、一緒に戦うのは当然で。

 むしろ、それが一番の目的で。

 そもそも。

 雑魚とすら戦えないというのなら、大精霊なんて相手にできる筈もない。


「解りました」

 ローリエが立ち上がる。



「よし、では各自、準備が出来たら首都の南門に集合!」


「心得たわ」


「りょ、了解、です!」

 

 


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