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インターフェースのどこにもマップなんて表示されないし、目的地までのガイドマーカーも無い。
そもそも非戦闘時のインターフェースは全画面がただの背景で、単なるリアルバーチャル散歩。
ゲームをリアルに近づけすぎると、どんどん不親切になる、という良い例かもしれない。
リアルがどれだけ不親切かってことを良く解らせてくれるゲームシステムになっている。
ただ、ローリエのスキルで進むべき方角や、建物の配置だけは解るため、迷うということは無いけれど。
ローリエは、フェルマータから聞いた目印を頼りに、首都の街を往く。
目的の『ミミズクと猫』という冒険者の宿は、首都のど真ん中にあるらしい。
なんてリアルマネー的な家賃の高い場所にお店を作ったんだ、店主は。
ど真ん中という事は、大通りが一堂に交差する場所だ。
おかげで、ローリエはどんどんと流れてくる人々をかき分けて進まなければならない。
しかし、ど真ん中を進むような勇気も忍耐力も無いので。
大通りの両脇に並ぶお店や建物の壁をなぞる様に、へばりついて進むローリエは、不審者まがいの怪しさを醸し出している。
身体を正面に構えては人に押し流されるから。
少しでも日陰に、少しでも他人から遠くに。
身体を横にして縫うように歩く、そんな苦肉の策は、他人の河を泳ぐ魚のようだろう。
そして時刻は20時ちょうど。
精神的なストレスが限界を迎えそうなころ。
ローリエはようやく、目的地らしきお店の前にたどり着いた。
はぁ、はぁ。
死ぬかと思った。
真っ青な顔で、荒い呼吸を繰り返すローリエは、既に疲れていた。
学校の授業中ほとんど寝ていたとはいえ、まだ残る寝不足の影響と、人混みに酔ったことも重なっている。
正直、愛海は、ローリエがしんどいのか、中の人がしんどいのか判別がついていない。
しかし、これから今まで待ちに待ったパーティプレイの第一歩が始まる。
ここでギプアップするわけにはいかない。
懐から取り出した、エリクシルを、栄養ドリンクか何かのように一気に飲み干して気合を入れる。
「よし!」
背筋を伸ばす。
雑踏や、雑音、他者の話声が渦巻く中。
大きく新しい二階建ての建物。
ローリエの姿が、そんな店の前に立つ。
目の前には、建物の扉。
その上には、かわいらしいロゴとともに描かれた『ミミズクと猫・亭』 という看板。
よし。
いざ。
ローリエが、扉の取っ手に手をかけようか。
と思ったところに、客が出てきて、一度、びくぅ、と驚き。
もういちど覚悟を決め終わるまでさらに5分。
約束の時間はとうに過ぎている。
――遅刻したので、死刑。即追放。
そう言われないとも限らない。
今度こそ絶対に行かねば。
ローリエは、再度、意を決して扉を開く。
そーっと。
できた扉と壁の隙間からお店を除く。
中は、広かった。
入ってすぐ目の前に階段が見え、そこを境に右半分はイスやテーブル等が設置されたカフェスペース、左半分は依頼書を貼った掲示板等があり、仕事を斡旋するスペースになっているようだ。
視界内に店主やスタッフの姿が見えない瞬間を狙い。
するり、とローリエは店内に身体を滑り込ませた。
店内は、淡い照明が設置されていてそれなりに明るく。
新築の木材の匂いも漂っていて、ゲームの細かな演出に感服する。
しかし、ひとがあまりいない。
勿論、ゼロではない。
疎らだという話。
首都のお店なのだから、もっとわらわら居ても良い筈なのに。
もしかして、ローリエは他人が苦手だと気づいて、フェルマータが気を利かせて、人払いしてくれたのだろうか。
まさかね?
そんな感想を覚えていると。
バサバサバサッ。
びくっ!?
店内の奥から、フクロウ……いや、ミミズクがばさばさと飛んできて、照明のぶらさがっているインテリアに止まった。
こわぁ!
そして、よく見たら、静かに気配を殺している黒猫が店の入り口の近くに座っていた。
なるほど、ミミズクと猫、という名前の由来はこれか、とローリエは思う。
それにしても驚かせないでほしい。
ドキドキしていると、奥から声がかかる。
「あ、ロリちゃん、こっちです」
ろ゛!?
呼び名に猛抗議したい気持ちになりながら。
前を見ると、フェルマータの姿があり、手招きをしていた。
どうやら衝立に隠れた席に陣取っているようだ。
ローリエは呼ばれるままに、フェルマータが居る方へ向かいつつ――。
「フェルマータさん。すいません、お待たせし……」
!?
呼ばれた席に着くと、フェルマータの隣に、見知らぬ銀髪の誰かが座っていた。
どちら様!?