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 マナの手から、

魔力瞬間増幅(ブーステッドマジック)】の籠められた、6枚の【魔投刃エニグマティック・スライサー】が射出され、前後左右、六方向から、宙を飛ぶアゲハを襲撃する。


 周囲に布陣している昆虫兵を切り刻み、貫通し。

 高速回転で飛翔する無属性魔法の円月輪。


 しかし、やはり周囲に展開されている鱗粉の効力で、魔力を散り散りにされ、減衰され、消失させられる。

 さらに、アゲハの周囲に布陣する幾つもの『小さな光の蝶』に、6枚のうち、1枚が接触すると――。


 マナは思わず声を荒げる。


「やっかいね……!」と。

 

 続いてマナは冷静に考察をつぶやく。

「あれは……反射(リフレクション)?……それとも複製(コピー)かしら?」 


 その驚きの通り。

 アゲハの『光の蝶』はマナの魔法――【魔投刃エニグマティック・スライサー】1枚を、そのまま術者(マナ)に対して撃ち返してきた。


 そしてさらに。

 アゲハに収束する多種の現象核(オリジン)。 


「諦めなさい魔法使い。無駄だと言ったはずです!」


 そうして、空のアゲハが、色とりどりのレーザーを撃ち放つ。


 それは、無属性の【魔光線(ファンタズムレーザー)】だけでなく。

 熱属性の光線(サーミック・レイ)

 雷属性の光線ホリゾナルライトニング

 冷属性の光線(チル・ブラスト)

 日属性の光線(パーティクルレーザー)

 月属性の光線(ルナライト・レイ)


 という、各属性の魔法形状が光線(レーザー)だけを選出して習得したものたちで。


 しかも四方八方に放たれたレーザーは、数々の『光の蝶』によって反射され、急角度に方向を変更され。

 疑似的な誘導兵器、および多角攻撃となって。


 頭上、前方、後方から。


 シールドスキルでカバーしきれない方向から。

 

 地上の、フェルマータ達に向かって雨のように降り注ぐ。



「……多属性攻撃ですって!? あいつ……」



身代わり(カバーリング)

魔法防御瞬間強化(マナプロテクション)

【物理倍増/魔法半減マジカルブロッキング】 

全体化(アドバンスド・)|状態異常治癒+耐性付与リカバリーオール

 

 マナに跳ね返ってきた魔法の刃。


 そして数々の魔法レーザーを、フェルマータはスキルで耐えながら――。


 フェルマータが庇いきれなかった分の威力を、マナも浴びながら。

 

 フェルマータは苦悶の表情で言う。

 

「なかなか、カッコイイスキルビルドしてるじゃない……!」


 言葉とは裏腹に、語尾に、クソ、と付きそうなほどの濁った声色。


 フェルマータとマナを攻め立てた七色のレーザーたちは、見た目も美しいが。

 そのやっかいさは最悪で。

 冷気に凍らされ、熱に焼かれ、雷に焦され、月に抉られ。

 

 特に、フェルマータにとって月属性の魔法だけは弱点属性なので捨て置けず。

 多種の付属効果で甲冑を焙られながら。


 氷結、火傷、麻痺、盲目。

 そしてその状態異常の全てをリカバリーの付属効果で、辛うじて無効にしながら。


 それでも軽くないダメージを受けたフェルマータとマナ。

 そして、マナを守り切ることが出来ていないことに、フェルマータは苛立ちつつ。


 魔法ダメージで少しボロくなっているマナを見る。


「あの鱗粉、解呪(ディスペル)できない? 先生?」


「いえ。ダメよ、それは既に試したわ。あれは魔法じゃない、種族スキル――もしくは種族スキルと何かで実行されている魔法戦技(コーディネート)なのだわ」 


 フェルマータは再び、上空のアゲハを見やる。

 その周囲に浮かぶ、光る蝶も視界に納め。


「まさか、魔法を分解するし、撃ち返すなんてね」



「しかも、あの撃ち返しは、たぶん自動だわ」

 

「まったく、面倒なことこの上無いわね」


 そうして、フェルマータは『赤の眼鏡』を装着する。


「フェルの方は? 何か詳細見える?」


「――総SP72K、HP338、外骨格のHPが360……。鱗粉は先生が言う通り種族スキルね。そんで、あの虹色に光る可愛らしい蝶々は、見ての通り、魔法の方向を変更できる魔法製のドローンみたい」



 フェルマータが、ありったけの守護スキルで亀のように、自分とマナを防衛しつつ。


 幾多も降り注ぐ、色とりどりの光線に耐え忍ぶ中。


 マナが、ローリエ産の範囲HP回復薬を使用し。

 二人のHPを治療しつつ。


 フェルマータに倣って宙の敵を見る。

 近接攻撃の届かない空中。


 遠距離攻撃ができるのは、マナだけだ。 

 

 しかし、その頼みの綱の魔法が効果を発揮できないのでは、この戦いに勝ち目はない。



 陰鬱としそうな気分の中。

 フェルマータがおどけて言う。


「あぁ~あ、こんな時にロリちゃんがいれば、矢で撃ち落としてくれそうなんだけど……」


 それにマナは嘆息し。


「無い物ねだりをしても始まらないわよ」   



 とはいえ、『このままでは私がこの戦場に居る意味がない』。とマナは自責に駆られる。

 これは、いずれ魔法を極め、最高の魔法使いになる、と夢見ているマナの心をくじく強敵だ。



「……どうしようかしらね」


 そんな弱音を吐きながら。

 マナは考えを巡らせる。


 そのホムンクルスの少女は。

 ゆるふわでくるくるの巻き毛の銀髪で。


 ニーハイに、フリル満載のドレス。

 その上に纏ったケープ付きのローブに。 

 ピエロのような魔法帽子。


 そのすべてが真っ黒な。


 魔女然とした佇まい。


 それもすべて、数々のスキル群から、魔法だけを選出するつもりだったからで。


 その名も。


 魔素の名を借りた、生粋で。


 ゲームを始める時から、魔法を極めようと決意して始めた……。

 そんな自称、魔法使い――。



 それが、マナというキャラクターだ。




 そして。

 そもそも魔法使いとは。

 魔法を、活用できる(使える)からこその、魔法使い。


 故に。

 活躍させる場を奪われてしまったら、特化型の魔法使いの出る幕はない。 


 けど。

 きっとどこかに打開策はある。


 多種多様な効果を網羅するこの世界の魔法で。

 出来ないことはそんなにない。――とマナは思っている。


 そして。

 魔法使いとは。

 魔法の、魔力の巡る『法則』と、それを辿る『術』を網羅してこその、魔法使い。

 

 

 だからどこかに、打開する術があるはずだ。



 プライドにかけても。

 このまま引き下がることはできない。


 そんなマナに。

 今しがたフェルマータが言った一言が閃きを呼ぶ。


(あぁ~あ、こんな時にロリちゃんがいれば、矢で撃ち落としてくれそうなんだけど……)


 その言葉の中。 



 『矢』


 つまり、物理攻撃だ。


 アゲハは言っていた。

 私の鱗粉は『魔法』を弾く、と。



 そして、スフェリカで魔法といえば考えられることは二種類ある。


 問題は、アゲハが言った『魔法』が二種のうちどちらを指しているのかだ。

 すなわち。


 魔素を利用する属性スキル(まほう)全般が通用しないと言っているのか。

 物理攻撃に対する魔法攻撃……現象魔法(まほう)が通用しないと言っているのか。




「フェル!」


「何、先生? その顔は、何か良い事思いついた?」


「ええ、シールドブーメラン使ってみてくれる?」


「シールドブーメラン? そんなんじゃ倒すのは絶対無理よ?」


「良いのよ。試すだけだから」


「了解! そんじゃ先生を信じて、試してみようじゃない!」


 そうして、フェルマータは、自身の盾をアゲハに向かってぶん投げる。


 しかし、アゲハに容易く回避されてしまい。

 空を切り、用を成さなかった盾は、速やかにフェルマータの左手に戻ってきた。


 アゲハが、悪戯に笑う。


「なぁに? そんなもので撃ち落とそうとでも? たとえそれが私に命中するとしても、その程度の攻撃では私を倒すころには日が暮れるでしょう。その前に、あなたたちの城は陥落してしまいますよ?」


 確かにその通り。

 チンタラしている時間はない。


 でも。


「ありがとう、フェル。今ので分かったわ……」


 アゲハは、回避を選択した。

 そして、シールドは鱗粉の干渉を全く受けていなかった。


 つまり――。





 マナは、唱える――。



「我が契約の元に、――出でよ、『メルクリエ』!」



 漆黒の魔法使い。


 その傍らに、拳大の正八面体が現れた。

 

 真っ青に輝く、太陽に満ちた海面のような美しさで――。



 

「先生……!?」



 フェルマータは、召喚した結晶が、マナにどれだけのMPを要求するのかを知っている。

 プレゼントしたMPの持続回復のついた指輪をもってしても。

 長く維持することは困難な筈だ。


 それを圧してまで召喚するなんて。


 そして。


「『氷柱飛礫(クールビレット)』!!」


 マナの手から、鋭利な氷の剣が、一本、アゲハに向かって放たれた。



 冷属性には。

 冷気――つまり魔法攻撃力を参照する魔法ダメージ、『現象魔法』と。

 氷――つまり、魔法攻撃力を参照する物理ダメージ、『物質魔法』。


 その二種が完備されている。


 マナから放たれた『物質魔法』は、鱗粉に邪魔されず。

 光の蝶にも撃ち返されることも無く。



「……!!」


 アゲハの雷属性魔法ホリゾナルライトニングで撃ち落とされた。


 

 迎撃したのだ。


 そのままでは命中するから。



「やっぱりね……魔法は防げても、物理は防げない……! 現象魔法は防げても、物質魔法は防げないんだわ……!」



「なるほど、そうと分かれば、さっさとやりましょう、先生」


 フェルマータは、いつになく真剣で。

 怖い程の真顔と、真っ直ぐな眼で言った。


 なぜなら。


 そうしないと、まず。

 先生(マナ)の身体が持たないから――。





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