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 というわけで。

 ローリエ、ゼナマ、ユナ、ヒューベリオン、ウィスタリアの4人と1匹は、カイディスブルム城までやってきた。


 今は、時空結晶(ゲートクリスタル)をくぐって、エントランスに到着したところだ。

 

 初めて来たゼナマは、あたりを見回し。


「エスペクンダの城とは、まるで正反対のような城じゃな……。窓を閉め切っておるのは、吸血鬼の城ならではといったところか?」

 

 真冬の大地に、漆黒の古城。

 なかなか、風情があるな、と笑うゼナマと。


 暇なのでじゃれ付くヒューベリオンの相手をするローリエと。


 それを、窘めるユナと。


 その集団から、一歩前に出る、キツネ耳。 



「マスター、ウィスタリアただいま戻りましたぁ」


 その声に。

 奥から、子供のような声が答える。


「ああ、ウイスか?」


 少しして。


 黒くダークで広い。

 魔王の城のようなエントランスからみえる階段。

 その上の踊り場に、城主が姿を見せる。


「あら? お客さんもきてたんやね? ローリエと、ユナと、ヒュベリンと。 ……あと……」


 フードをかぶった、吸血鬼の見知らぬ老人。

 闘技場で、先に退場したジルシスは、あのときゼナマの姿を見ていない。


 無論、ゼナマも同じだ。

 ただ、有名な吸血鬼の領地の、その城主の名くらいは風の噂で知っているから。


 初対面のゼナマは、足袋でひび割れた城の床を踏みしめ。数歩前に出て、ウィスタリアの横に並ぶと。

 エントランスから、踊り場を見上げる。


 ウェーブのかかった金髪のショートボブに、古風な伯爵服という昔ながらの吸血鬼スタイル。

 そんな小柄で子供のような吸血鬼に向けて。


 一礼を。


「お初にお目にかかる、ジルシス公。ワシは、ゼナマ・クラインという剣士を自称しておる者だ」


「ああ、あの、なんとかバスいうギルドの……?」

  

「いかにも。ただ、今はギルドを抜けた身でしてな。このローリエ殿の世話になっておる」


「ろーりえの?」


 その件については、店先であった時にユナにも一通り説明がされている。

 ユナも、未だに本当か冗談か解らない話で。

 ジルシスも同じように、嘘か真かどっちなんだろう、と聞き返す声が訝しむ。 


 だからユナはしみじみつぶやく。

「……やっぱり、そういう反応になりますよね」と。


 

 ジルシスは、その追及をするよりも。

 

「それはそうと、このお客様はどうしたん、ウイス?」


 

「最近またアンデッドの領地侵入が増えておりますし、討伐依頼もあまり受けてもらえませんので、いっそローリエさん達に、城の衛兵の鍛錬をして頂こうと思いまして」


 それに、ジルシスは顔を綻ばせ。


「ああ。それはええ考えやね。是非やってもらお。あとで正式にギルドの依頼書作って来るわな」


「お願いします、マスター」


「あとウイス」


「はい?」


「そろそろ、食糧庫が、期限切れになりそうやから」


「解りました、そちらの調達もしてきます」


「うん、まかせたでウイス」


 ジルシスは、配下のメイドとのやり取りを終えて。


「ほな、あたし依頼書作ってくるさかい、その間皆さんは、好きにくつろいでて。そのへんのメイドに言うたら、お茶も出てくるし」



 そう言って、ジルシスは奥に引っ込んでいった。


 

 その姿を見送って。

 まず、ユナが聞き返す。


「食料?」


「はい、ウィスタリアはとりあえず、食糧庫の様子を見に行きます。皆さんは待っていてください」


「そうか。あまりよそ様の家をうろつくのも、どうかと思うし。ワシは、大人しく待たせて頂こう」


 ローリエは、どうするのかと思うゼナマだが。


 既にローリエは、ヒューベリオンの相手で忙しそうだった。

 

「わ、私は、ヒューベリオンさんと、あそんで、ます!」 


 それなら私も、とユナも待機する素振りで。 


 

 ウィスタリアは、それでは、失礼します、と皆から離れ歩き出す。


 そうして、エントランスのサイドにある扉から出て行こうとした時。


 突然、ヒューベリオンが猛ダッシュで、ウィスタリアに駆け寄った。

 それに、噛みつかれていたローリエが、


「あぁ、ちょと、どこにぃ!?」


 拉致されていった。



 残されたゼナマは、嘆息し。

 ユナはポカンと見ていた。


 そして。


「行ってしまったぞ。お主は良いのか?」


 ゼナマの問いに。

 ユナは逡巡する。


 先輩についていきたい。

 と言う気持ちはあるのだが。


 だが。


 今はチャンスだと。


「ゼナマさん」


「なんだね?」


「あなたが、アシュバフの衛兵を訓練していた、というのは本当ですか?」


「まぁ、な。その代わり、あの洋風な街の景観に似合わない、和風な戦い方になってしもうたがな」


 このゲームの領地を守護する衛兵は、ギルドスキルで設置する。

 だが、その兵士の強さは、そのままでは弱すぎるのだ。

 だから、ギルドマスターが指南役に抜擢したプレイヤーが、その者達を訓練する。


 そして、訓練した兵士は、指南役となったプレイヤーの戦い方やスキルに少しづつ影響を受けていくのだ。

 無論、指南役が強ければそれだけ、兵士も強くなる。


 剣聖ゼナマは、アシュバフギルドの衛兵の『白兵戦』を担当していた。

 

 ユナは、その情報をどこかで見たか聞いたのだろう。

 まぁ、そもそも、その話はゼナマの『剣聖』という呼称と共に、意外と有名なのだが。

  


「それって、私にも教えてもらえるんですか?」


「お主にか……?」


 ゼナマは、闘技場で見た時の事を思い出し、現在のユナの漆黒の甲冑姿を眺め。


「お主の得物は、槍術、あるいは、長物だろう?」


「はい、そうです」


ゼナマは腰に差した、日本刀をみせ。


「ワシはこの通り、カタナを使った居合い抜きしか、芸の無い男だ。現実でも、この無想の中でさえ。ワシはこの生き方から離れられぬ。――、そんなワシが、長物など扱えるわけなかろう」


「……でも、とても強いのでは?」


「どうかのう。距離を詰めた1対1ならば、おいそれと負けはせんだろうが。この世界は、まだまだワシが知らぬ不思議な事ばかりじゃからな。……ワシが今どの程度なのか、ワシ自身も良く解らんのだ」


 だからこそ、もっと新しい世界を見たいと思い、ずっと居た場所から出てきたのだがな。


 そんな小さすぎる呟きは、ユナの耳には入らない。


 そしてユナは黙ってしまった。

 

 少し悪いことをしたか?

 そう思うゼナマは言う。


「ま、ワシと打ち合うくらいならば、いつでも付き合ってやろう。そこから、何を学ぶかはお主次第だがな」


「ホントですか!?」


「ああ、だが覚悟しておけよ。ワシは剣術の指南はしたことあるが、槍の事は知らぬからな、手加減が効かぬかもしれんぞ」


 それにユナは笑顔を返す。


 そうして、ユナの習い事が、また一つ増えた。

 ――かもしれない?






 ◆ ◆ ◆ ◆ 




 一方。


「結局ついてきたんですか?」


 ウィスタリアは呆れていた。


 魔法の明かりだけの長い廊下を歩きながら。



 その傍らで、ヒューベリオンにしがみ付いているローリエを見ながら。


 ローリエは、竜の頭蓋骨に噛みつかれたまま引っ張られている服を剥がそうと頑張りつつ、答える。 


「……な、成り行きで」

 




 そうして、ウィスタリア、ローリエ、ヒューベリオンは城の階段を何段も降りて行った。


 石材を積み上げて作られた地下は、ジメジメしており、その不気味さと冷たさは。

 この場所を作ったCG班の気合の入りようが見て取れるほどだ。


 しかも、時々、うめき声のようなモノが聞こえてきて。


 そんな城の地下を目指すプレイヤーの恐怖心を駆り立ててくる。


 もちろん、ローリエもカイディスブルム城の地下へ行くのは初めてで。

 

 ローリエが、急にホラーゲームのようになってきた景色と音に。


 ビクビクおびえながら、ウィスタリアに付いていくと。



 暫くして。


 たどり着いたのは、趣のある金属扉の前だった。

 

 

 中からは、ずっと聞こえていたうめき声が、聞こえてくる。

 声の大きさからして、その中からで間違いない。


「まるで、監獄のようです」


 そんなローリエの呟きに。


「そうですよ」


 とウィスタリアは、あっけらかんと言いながら。


 まるで看守のように、取り出したカギで、さび付いた金属扉を開ける。




 そこは、まさしく、牢獄であり。



 扉を開けた先の広い部屋には。


 檻が設置されており。


 拷問器具などもおかれており。



 そして、牢屋の中には、幾人かの『人』が入れられていた。



 でも、ここは、食糧庫だと言っていた筈だ。



「ま、まさか……」



 ローリエは今、ここが吸血鬼の城だという事を思い出した。

 


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