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時刻は23時。
現実に戻ってきた皇愛海は、ヘッドギアを外す。
あの後、フェルマータと名乗ったドワーフとフレ登録を済ませ、
時間も時間だからと、翌日に会う約束をして、別れた。
ログアウトする前に、愛海は何度も確かめた。
確かに、フレンドリストに、フェルマータの名前が刻まれていることを。
たった一人だけだけど。
やっと、トモダチが出来た。
まだ、まともに会話らしい会話は何もしていないし、一緒に雨宿りしていた時間は僅かなものだった。
しかし、フレンド登録してしまったのだ。
これはもうトモダチ、いや、シンユウと言っても良いのでは?
真っ暗な自室。
勉強机の横に設置されたVRゲーミングスペースに座る愛海。
そこで。
ふへへ……。
にへら、と愛海は気色の悪い笑みをこぼす。
トモダチいや、シンユウを得て、さらにパーティにまで入ってしまった。
一瞬、引退という文字がよぎったが。
とんでもない。
今日からは、ゲームの世界が本当の現実だ。
しかし。
はぁ。
溜息。
愛海の脳内に咲き誇っていた薔薇色が、一瞬で灰色に枯れ果てる。
明日も学校だ。
また『空気』として過ごす苦行が始まる。
同時に、やるべきことを思い出した。
「明日の予習しなきゃ……」
愛海は気だるげに立ち上がる。
勉強用の机に移らねば。
確か明日の授業の予定は……。
いや、
そういえば。
予定と言えば、フェルマータは明日、街のとある冒険者亭に、20時に来てほしいと言っていた。
冒険者亭は、クエストなどを斡旋してくれる、お仕事大好き系プレイヤーと、誰かとわいわい騒ぎたい系プレイヤーがたくさん集まる場所だ。
そんなところに、果たしてたどり着けるだろうか……。
不安になる。
不安はそれだけではない。
ずっとパーティプレイを夢見ていたから、パーティプレイのセオリーをネットで勉強したり、脳内でイメージトレーニングをしたり――そういう準備は常日頃からしていた。
でも、いざやるとなったら、ちゃんとできるか、不安でしかない。
もう一度、第二世界の攻略サイトや、ブログを漁って
勉強し直す必要があるのではないか?
『あ、パーティ組もうって言ったけど、そんなに使い物にならないんじゃダメね、やっぱり外れてくれる?』
そう言われないとも限らない。
そんな想像をしていると、わなわなと震えてくる。
そうだ。
失望されたらおしまいだ。
パーティを組もう、と約束をしただけだ。
すぐに、やっぱり要らないと言われる可能性を考えていなかった。
放り出されたくはない。
せっかく掴んだチャンスなのに。
99Kという数字の強さにだけ頼るわけにはいかないのだ。
VRMMOは、プレイヤースキルのウェイトがとても高いのだから。
「や、ややや、やっぱり学校の予習とかしてる場合じゃない……!」
もうVRゲームが生きがいになってしまったのだから。
ゲームが本当の現実だというならば。
気は抜けない。
予習すべきは、学校の事ではなく。
「第二世界の予習しよう、うん、そうしよ」
こうして、愛海は、さらにVRゲーム廃人化が加速しました。