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仮想空間。
――VRという物は、利用方法も、空間の設定も、多種多様になっている。
特に、それを利用したゲームが、近年、爆発的にヒット、シェアを拡大してきている。
VRゲームは、元々は大型の商業施設で展開されていたものだが、今では家庭でも手軽にできる。
そんな仮想空間は、現実逃避するには持ってこいだ。
仮想現実という言葉がある通り。
仮想空間に降り立った時、そこはもう、もう一つの現実になるのである。
第二世界、そう呼ばれるMMORPG。
キャラクターネーム:ローリエ。
今日もその姿が、森林地帯の奥に現れる。
たった一人。
パーティプレイ推奨の高難度地域に、ローリエはひとりだけ。
軽装に身を包んだ、金髪のエルフ。
その声がつぶやく。
「――「『身軽さ上昇』『生命力上昇』『自己治癒力上昇』……」
唱えられる単語の度に、短いエフェクトが奏でられ、ローリエのステータス数値を彩っていく。
強化の魔法だ。
やがて持ちうる10種以上、すべての強化を終えたローリエは、1本のレイピアを手に、駆けだした。
森を徘徊する、厄介者――魔物を狩るために。
最高難度の地域だけあって、出会う魔物の強さも、雑魚とはいえすさまじい。
それを慣れた所作で、ローリエは狩っていく。
また1匹が、血潮を噴きだしながら、その身体を霧散させながら、消えうせて行った。
ローリエは、手を止める。
空を見上げれば真昼間の太陽が。
19時という現実世界の時刻を無視して、煌々と輝いていた。
その眩しさを、翳した掌で遮りながら。
ローリエ――いや。
プレイヤー:皇愛海は、ぽつりと零す。
「……どうしてこうなっちゃったのかな」――と。