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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
1 姉妹の影
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 村松に紹介された陸上部は、部員が20名ほどいて、いずれも活発そうな生徒達だった。既に3年生は受験のため引退しているので、現在の部員は2年生と1年生だけだ。入部を申し出ると、部で揃えているジャージも早速注文してくれた。


 その週はあっという間に過ぎていった。金曜日の夕方に、陸上部のジャージを受け取りるため商店街の衣料品店に行ったが、翌日の土曜日は雨で部活が休みになった。何となく残念な気持ちになったが仕方がない。


 朝からすることもなく家の居間で何気なくスマホを触っていると、父がやってきてドライブに行こうと言い出した。夏休み中は引っ越し後の生活で必要になった棚や小物などを買いに、甲府市郊外にある大型ショッピングセンターに行ったりしたが、主に家の関係の買い物がメインだったので、単なるドライブには行っていなかった。どうせなら、竜弥の住んでいる増沢町がどんなところなのか、行ってみたいと父にお願いした。


 市山町は、県内を流れる2つの大きな河川が合流する甲府盆地の南部にあたる場所にある。ここから合流した川は隣の静岡県まで山間を縫うように流れて海に至っている。その川の合流地点に近い場所に掛けられた増沢大橋を渡れば増沢町だ。そこにもスーパーやホームセンターが一体となったショッピングセンターがあり、川沿いに作られた道路に沿っていくつかの店が並んでいた。警察署や消防署などの公共施設もあって、この辺りでは中心的な町だそうだが、それでも人口は2万人もないらしい。竜弥は役場に近い辺りに住んでいると聞いていたが、役場の周辺を少し離れると、人家もすぐに少なくなった。


「少し山を上がってみるか。景色が綺麗なところがあるんだ」


 父はそう言って車を走らせると、すぐに山を上がる坂道に入った。センターラインがある道幅はすぐに終わり、車がすれ違うのも難しい程の狭さとカーブが続く。車はその細い道をしばらく上がり、山林が途切れて僅かに集落が広がる場所に出た。斜面に棚田が作られ、その周りに家屋が点在している。その辺りの少し広くなっている道路脇に、父は車を停めた。いつの間にか雨もあがり、雲間から日差しが見えてきている。父がドアを開け、僕も同じようにして車を降りた。


「いい景色だろう」


 父が望む方角に、青い大きな富士山の山頂が見えていた。その下はまだ雲に覆われていて、ほんの少しだけ頭をのぞかせているだけだったが、その存在感は周りの山々を圧倒する。


「ここは日の出が綺麗なんだ。特に初日の出は最高でさ。ちょうど富士山の向こうから太陽が昇るんだ。その代わり、滅茶苦茶寒いけど」


 父は笑顔でそう言った。富士山の斜面の脇から太陽が昇る風景を想像する。確かにそれは、かなり感動的かもしれない。


「父さんは、昔、この辺によく来てたの?」


 尋ねると、父は「まあ、たまにな」とだけ答えて、車に戻っていく。僕も同じように車に乗り込む。


「じゃあ、もう少し上がった辺りで転回して戻るか」


 父はそう言って、車を動かした。細い道はその少し先で三差路になっていた。父はそこで車を転回させようとハンドルを切る。その時、ふと三差路にあった看板が目に入った。


「ミカゲ——」


 父が車を停めた。


「何か言ったか?」


「この辺って……御影みかげっていう地区?」


 窓の外に見えていた看板を示して、父にそう尋ねる。父もそれを見つめた。


「ああ……そうだな。もう少し上がった所に、神社があるんだ」


「神社?」


「そう。御影神社。行ってみるか」

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