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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
6 御影家の影
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(10)

 近くに人の気配が無くなった暗闇の中で、誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。


「優馬……こっちへ来い」


 青山の声だと思った。「こっちじゃ」という声を頼りに手探りで歩いていくと、彼の履いていた装束の感触があった。僕の手を温かな手が掴む。


「うむ、ワシの隣に座るのじゃ。……婆さんは、大丈夫じゃな。美姫、寧々。珠洲もいるか?」


「うん。大丈夫」


 姿は見えないが、珠洲の声が聞こえた。


「婆さん……どうじゃな?」


「ええ。もうすぐお月様が顔を出しますぞ。綺麗な三日月ですじゃ」


「うむ。では、参ろうか。皆、しっかり手を繋ぐんじゃぞ」


 青山が言う声が聞こえると、突然、その季節にしては生温い風がどこからか吹いてきた。それはあっという間に強い風になっていく。


「優馬。影の中に入る時の感覚を思い出すんじゃ」


 青山の声が聞こえた。真っ暗な中で何が起きているのか分からないが、まるで体が浮き上がるような感じがしていた。確かに影の中に入った時のような感覚だ。その時、辺りに僅かに光が戻った。空を見上げると、木々の向こうの空に、雲の隙間から三日月が顔を出している。その月から降り注ぐ僅かな光が辺りを照らし出しているのだ。そして、周りを見ると、僕の隣に青山、花代、美姫、寧々が手を繋いでいるのが見えた。そして、優馬はハッとした。


 寧々の向こうに、さっき僕達に銃口を向けていた彼女の父が、寧々と一番端にいる珠洲の間に入ってしっかりと手を握り、正座していたのだ。


(えっ? どういうこと……)


 訳が分からないでいると、月の光がさらに強くなり、背を向けて走っていく武田や黒装束の人間たちの後ろ姿をはっきりと照らし出した。20人、いや、それ以上いるかもしれない。すると、体がさらに浮き上がるような気がした。ハッとして下を向くと、そこには舞台の床板があった筈なのだが、今はただの暗闇に変わっている。まるで大きな影の上に浮いているような感じだ。


「御影家秘術、星影ほしかげの舞!」


 青山が叫ぶ声が聞こえた。すると、足元の暗闇が見る間に広がって行く。それは渦を巻きながら、どんどん大きくなる。


(心配することはない。手を繋いでおけば大丈夫じゃ)


 青山の声が耳元で聞こえたような気がした。それで妙な安心感が広がり、ただ空中に体が浮いているような心地よい感じになってきた。足元の暗闇は、あっという間に逃げる武田たちの辺りまで広がり、黒装束の人間達をその暗闇の中に次々と引きこんでいく。


「畜生! どうしてこんな暗闇で、そんな影が……」


 武田の声が聞こえた。彼は必死にその中から這い上がろうとしているが、渦が彼の体を呑み込んでいく。そしてついに、彼も渦に巻き込まれて回りながら沈んでいく。


 その時、隣の青山が「ウッ」と呻き声を上げた。


「おじいちゃん!」


 僕は慌てて声を掛けると、青山は少し咳込んでから「大丈夫じゃ」と言って再び顔を上げた。しかし、その間に渦が小さく、弱くなっていく。やはり、先ほどまで浴びていたあの怪しい光のせいで、力が弱っているのかもしれない。すると、武田が渦の流れに逆らって、急速に僕たちのいる方に近づいて来た。


「きゃあっ!」


 ハッとして叫び声の方を見ると、一番端にいた珠洲の腕を武田が掴んでいた。


「すぐにこの渦を止めろ! さもないと、この娘を殺す」


 武田は珠洲の体を後ろから羽交い絞めにすると、ナイフを珠洲の首元に向けた。


「やめろ!」


 珠洲の父が叫ぶのが聞こえた。その瞬間だった。


「お父さん……ごめん」


 珠洲は、自分の腕を握っている父の手に何かを当てた。小さな光が現れたと思うと、彼が「うっ」と呻き声をあげ、その手を放してしまった。すると、珠洲と武田の姿がみるみるその渦に消えていく。


「珠洲っ!」


 僕は叫ぶと同時に、反射的に青山の手を放して、彼女の体が消えた渦の方に向かって飛び込んだ。

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