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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
5 一瀬の影
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(6)

 白い壁の建物に「真田動物病院」という看板がかかっていた。その建物の前には駐車場があるが、今は一台も停まっていない。建物入口には「CLOSED」の表示が掛かっていて、張り紙を見ると年始の営業は4日かららしい。その隣には、茶色の洋風の建物が建っていて、中に電灯がついているのが見えた。珠洲はその入口のドアを開ける。


「いらっしゃいませ——」


 中にいた少女がこちらを振り向いて声を掛けてきた。


「久しぶり。香菜」


「あれ? 珠洲じゃない」


 その少女が笑顔を向けた。彼女の黄色のエプロンの前には、「HAPPY JOTO CAFE」と書かれている。


「何か、久しぶりじゃない? 最近、ここに来てくれてた?」


「ごめん。結構、2学期に色々あって忙しくて。多分、夏休みに来て以来かも」


「そうなんだ。何か、充実してそうね」


「いや、そうでもないんだけど。……それより、今日はまだ営業してるの?」


 店内を見回してみるが、客の姿はない。


「今、ちょうど店を閉めるところ。動物病院の方はもう今日からお休みなんだけど、カフェの方は午前中だけでも開けようってお母さんが言ってね。でも、さすがにお客さんも少ないから、午前中でおしまい」


 そう言うと、「ちょっと待ってくれる?」と言って香菜は窓側のテーブル席に座るように案内した。そして、入口の表示を「CLOSED」に変えると、奥のカウンターの中に入った。


「何か飲む? 寒いから、自家製のジンジャーハーブティーがお勧め」


「あっ、いいよ別に。気にしないで」


 まあまあ、と香菜は言いながら、ポットでお湯を沸かし始めたので、「じゃ、遠慮なく」と答えた。珠洲は椅子に座りながらカウンターの向こうの彼女に声を掛ける。


「高校生活はどう? 通学とか大変そうだけど」


「うん。まあ、遠いけど、今は部活も特にしていないから、通学はそうでもないかも。それより試験ばっかりで、クラスの子も頭がいい子が多いから、もうついていくだけで大変」


「そうなの。さすがに進学校は違うね。ウチなんか、全然。授業中に寝ている奴も多いし」


 香菜の通う高校は、市山本町駅から電車に乗って30分ほどかかる、甲府市内の中心部に近い場所にある。そこは私立高校で県内でもトップクラスの進学校だ。彼女は中学時代から優秀で、確かその高校にも数少ない特待生扱いで入学していると聞いたことがある。


 しばらくして、香菜がトレイにティーポットとカップを乗せてやって来た。彼女は白いティーポットをテーブルに乗せて、珠洲の前に座ると、こちらを見て少し笑った。


「珠洲……何か、変わったね」


「えっ、そう?」


「フフッ……可愛くなったってこと」


「そんなことないよ」


 香菜はテーブルの上で両手を合わせてこちらをじっと見た。


「気になっている人がいるな」


 そう言われて、ハッして彼女の顔を見る。


「なっ……何言ってるのよ」


「いいじゃん。珠洲は本当はすごく可愛いんだから。羨ましいわ。……私なんかもう全然駄目だから」


 香菜はそう言って、ティーポットを持ってカップに注いだ。薄いオレンジ色の液体から湯気が上がっていく。彼女が珠洲の前にカップを置いたので、「ありがとう」と言って頭を下げた。


「あのさ……香菜」


 彼女が自分の前のカップにもハーブティーを注ぎ終わると、珠洲は声を掛けた。彼女がふとこちらに顔を向ける。


「竜弥の事なんだけどさ——」


 そう言うと、彼女は一瞬、顔色を変えたが、すぐに元の表情に戻った。


「うん……どうしたの?」


「まだ、戻れないの? あの頃みたいに」


 そう尋ねると、香菜はカップを持って一口飲む。そして、ため息をついた。


「竜弥って、最近元気にしてるの?」


「うん……どうかな。同じクラスだけど、ほとんど話さないから。でも、アイツはまだ誰とも付き合ってないみたい。だから、きっとあなたの事を気にしてる。そろそろ何とかならないのかな、って」


 珠洲が言う前で、彼女は窓の方を見た。真冬ながら、部屋の中には暖かな日差しが漏れてきている。それが彼女の顔を白く輝かせる。


「私ね。結論が出るのが怖いのかもしれない」


「結論?」


「そう。竜弥との関係が、戻れないことになる、っていう結論」

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