(4)
ヒーターはついているが、外気温が下がっているせいか何となく部屋の中も寒くなってきた。3人とも布団にくるまっている中で、僕は尋ねた。
「竜弥はどうなの?」
「そうそう。クラスの女子もそうだけど、他のクラスの音楽部の女子でも、竜弥の事をカッコイイって言ってる女子って結構聞くんだよね」
「何もねえよ。俺は完全にフリー」
竜弥がぶっきらぼうに答えると、葵が重ねて尋ねる。
「でも、気になっている人はいるんじゃないの?」
「いないな……。今は」
「今……ってことは、昔はいたの?」
「そりゃ、付き合ってたこともあったけど。まあ、中学時代の話。でも、もう終わった話だな」
竜弥はそこで黙ってしまった。そこで僕は、気になっていた事を尋ねる。
「その相手って、もしかして……御影、珠洲?」
すると竜弥は僕の方に顔を向けた。そしてじっと見つめて来る。その沈黙に僕は胸がドキドキしてきたが、必死にそれを隠して見つめ返す。すると竜弥は、ハハハと笑い出した。
「お前、どうかしてるぜ。どうしてアイツなんかと俺が?」
「だって、前に御影の事を聞いた時に、結構詳しく知ってたから」
「だから、あの時も言ったと思うけど、アイツとは中学から同じだからな。クラスも2クラスしかなかったから、ほとんどの同級生の事をお互い良く知ってるんだ。それに俺も2年と3年の時は御影とクラスが一緒だったし、アイツと仲が良かった奴が近所にいたから、色々と聞いてたんだよ」
ややドキッとした。「珠洲と仲が良かった奴」というのはどういう人だったのだろう。それを尋ねようとすると葵が先に言った。
「でも、前からよく知ってるからこそ、高校も同じになって、改めて好きになっちゃったとか」
すると竜弥は首を振った。
「いや、ないな。ただ……」
「ただ?」
僕は竜弥に尋ねる。すると、彼はニヤッとした。
「寧々さんの事は、昔から気になってた」
「えっ——」
「だって、あの人は中学時代から相当可愛かったから。ただ、俺は当時1年生だし、近づく事さえできなかった。だから、優馬のような恐れを知らない積極性がマジで信じられない」
再び僕に話が戻ってきたので、ドキッとする。
「だから僕はそんな事は……」
「ハハハ、分かってるよ。だけど、中学の時の寧々さんは、可愛かったのは事実だけど、今ほどには人気は無かったかもな」
「どうして?」
「地元だと色々と情報も入って来るんだよ。いい情報だけじゃなくて、悪い情報もな」
「悪い情報……?」
「そう。あの御影の家の裏の話」
「何それ? 面白そう」
葵が無邪気にはしゃいで言う。
「いいか。本当にここだけの話だからな」
竜弥が小声になって話し始める。
「あの神社はな。実は、昔からヤバイ事をやっているんじゃないかっていう噂があるんだ」
「ヤバイこと……何それ?」
「あそこはここよりもかなりの山奥なんだが、意外とやってくる人が多いみたいなんだ。それも結構な高級車が来るみたいでな。あの御影姉妹の母親も綺麗な人なんだけど、父親の姿は昔からほとんど無かったらしいんだ。だから実は、父親はどこかの政治家か、金持ちか、もっとヤバイ人で、あの姉妹はその隠し子なんじゃないかって。それで時々、高級車でやって来る」
「まさか……」
思わず声に出た。彼女らの父親については、東京での単身赴任中に行方不明となったと聞いたはずだが、確かにそれ以上の詳しい話は聞いていない。
「それにあの家の事を調べようとして、行方不明になった人とかもいるらしい。そういう話もあるから、この町では表向きはともかく、本心から御影の家と仲良くしている人は少ないんだ。まあ、俺だってそんなの全部信じてる訳じゃないけど、何となくそういう話を聞くと近寄りにくくなるだろ? それに妹の方は同級生とはいえ、寧々さんと比べても可愛い訳でもないし、そもそも無口だからよく分からねえし」
「そうなんだ……。何だかそんな事を聞くと、御影さんを見る目が変わっちゃうな」
葵がため息をついて言う。
「まあ、同じクラスでも御影と話をすることも無いから、今はどうでもいいけどな。あっ、優馬は前の席だから、少しは関係あるか」
「いや……でも僕もほとんど話をしないし……」
何となく言葉を濁すと、竜弥は頷いてから言う。
「まあ、あんまり気にするなよ。……さあ、そろそろ眠くなってきたし、寝ようぜ」
彼はそう言って部屋の明かりを消す。真っ暗な中でヒーターの音だけが響いていたが、僕はそれからしばらく寝付けなかった。




