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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
5 一瀬の影
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(4)

 ヒーターはついているが、外気温が下がっているせいか何となく部屋の中も寒くなってきた。3人とも布団にくるまっている中で、僕は尋ねた。


「竜弥はどうなの?」


「そうそう。クラスの女子もそうだけど、他のクラスの音楽部の女子でも、竜弥の事をカッコイイって言ってる女子って結構聞くんだよね」


「何もねえよ。俺は完全にフリー」


 竜弥がぶっきらぼうに答えると、葵が重ねて尋ねる。


「でも、気になっている人はいるんじゃないの?」


「いないな……。今は」


「今……ってことは、昔はいたの?」


「そりゃ、付き合ってたこともあったけど。まあ、中学時代の話。でも、もう終わった話だな」


 竜弥はそこで黙ってしまった。そこで僕は、気になっていた事を尋ねる。


「その相手って、もしかして……御影、珠洲?」


 すると竜弥は僕の方に顔を向けた。そしてじっと見つめて来る。その沈黙に僕は胸がドキドキしてきたが、必死にそれを隠して見つめ返す。すると竜弥は、ハハハと笑い出した。


「お前、どうかしてるぜ。どうしてアイツなんかと俺が?」


「だって、前に御影の事を聞いた時に、結構詳しく知ってたから」


「だから、あの時も言ったと思うけど、アイツとは中学から同じだからな。クラスも2クラスしかなかったから、ほとんどの同級生の事をお互い良く知ってるんだ。それに俺も2年と3年の時は御影とクラスが一緒だったし、アイツと仲が良かった奴が近所にいたから、色々と聞いてたんだよ」


 ややドキッとした。「珠洲と仲が良かった奴」というのはどういう人だったのだろう。それを尋ねようとすると葵が先に言った。


「でも、前からよく知ってるからこそ、高校も同じになって、改めて好きになっちゃったとか」


 すると竜弥は首を振った。


「いや、ないな。ただ……」


「ただ?」


 僕は竜弥に尋ねる。すると、彼はニヤッとした。


「寧々さんの事は、昔から気になってた」


「えっ——」


「だって、あの人は中学時代から相当可愛かったから。ただ、俺は当時1年生だし、近づく事さえできなかった。だから、優馬のような恐れを知らない積極性がマジで信じられない」


 再び僕に話が戻ってきたので、ドキッとする。


「だから僕はそんな事は……」


「ハハハ、分かってるよ。だけど、中学の時の寧々さんは、可愛かったのは事実だけど、今ほどには人気は無かったかもな」


「どうして?」 


「地元だと色々と情報も入って来るんだよ。いい情報だけじゃなくて、悪い情報もな」


「悪い情報……?」


「そう。あの御影の家の裏の話」


「何それ? 面白そう」


 葵が無邪気にはしゃいで言う。


「いいか。本当にここだけの話だからな」


 竜弥が小声になって話し始める。


「あの神社はな。実は、昔からヤバイ事をやっているんじゃないかっていう噂があるんだ」


「ヤバイこと……何それ?」


「あそこはここよりもかなりの山奥なんだが、意外とやってくる人が多いみたいなんだ。それも結構な高級車が来るみたいでな。あの御影姉妹の母親も綺麗な人なんだけど、父親の姿は昔からほとんど無かったらしいんだ。だから実は、父親はどこかの政治家か、金持ちか、もっとヤバイ人で、あの姉妹はその隠し子なんじゃないかって。それで時々、高級車でやって来る」


「まさか……」


 思わず声に出た。彼女らの父親については、東京での単身赴任中に行方不明となったと聞いたはずだが、確かにそれ以上の詳しい話は聞いていない。


「それにあの家の事を調べようとして、行方不明になった人とかもいるらしい。そういう話もあるから、この町では表向きはともかく、本心から御影の家と仲良くしている人は少ないんだ。まあ、俺だってそんなの全部信じてる訳じゃないけど、何となくそういう話を聞くと近寄りにくくなるだろ? それに妹の方は同級生とはいえ、寧々さんと比べても可愛い訳でもないし、そもそも無口だからよく分からねえし」


「そうなんだ……。何だかそんな事を聞くと、御影さんを見る目が変わっちゃうな」


 葵がため息をついて言う。


「まあ、同じクラスでも御影と話をすることも無いから、今はどうでもいいけどな。あっ、優馬は前の席だから、少しは関係あるか」


「いや……でも僕もほとんど話をしないし……」


 何となく言葉を濁すと、竜弥は頷いてから言う。


「まあ、あんまり気にするなよ。……さあ、そろそろ眠くなってきたし、寝ようぜ」


 彼はそう言って部屋の明かりを消す。真っ暗な中でヒーターの音だけが響いていたが、僕はそれからしばらく寝付けなかった。

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