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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
1 姉妹の影
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(3)

 教室に戻ると、しばらくして三枝先生が白い紙箱を持って入ってきた。そして、「席替えをするぞ」と言い、教室がザワザワとする中で黒板に1から36までの番号を書いていく。箱の中に番号を書いた紙があって、その番号が自分の席になるということらしい。


「どうしても最前列の席が良い人はいるか」


 先生が尋ねるが生徒から反応はない。当然、そういう結果になる。僕の席は一番後ろなので、できればそのままの方が良いが、それは皆の希望だろう。


「じゃあ、1列目から優先的に引いてもらうか。ほら、中村から」


 先生は窓側の女子生徒に声をかけた。細い縁の眼鏡をかけた彼女は立ち上がって先生の前に置かれた箱から紙を取り出す。それを見て先生に渡し、先生が番号の横に名前を書いていく。どうやら彼女は、廊下側の中ほど辺りの席まで後ろに下がることができたようで、小さくガッツポーズをした。


 生徒達は次々に紙を引いて行く。「まじかー」という声や「やった」と歓声を上げる声が響いて行く。僕は最後尾の列なので、かなり最後の方になって箱の中に手を入れた。


 番号は31番だった。


 一瞬、番号が大きいので後ろの席だろうと思ったが、黒板を見ると窓側の最前列の席だった。ガッカリして自分の席に戻る。


 席が決まったので、それぞれが新しい席に移動していく。机も比較的新しいので、どの席に移ったとしてもあまり代わり映えしない。ただ、やはり最前列は先生との距離がかなり近い。


(最悪だな……)


 後ろの方の席になった生徒が楽しそうにしているのを羨ましく感じる。一瀬も石原も真ん中より後ろの方になったようだ。改めて黒板に書かれた名前を見ながら周りを見回すと、右隣は伊藤という男子生徒で、挨拶すると「よろしく」と笑顔で返してきた。続いて後ろの席の生徒の名前を黒板で確認する。


(この子……何て読むんだ?)


 黒板には「御影」という漢字が書かれているが、フリガナがないので、何と読むのか分からない。振り返ると、太い黒縁の眼鏡と、長い髪を頭の後ろの高い所で縛っている女子生徒がいて、下を向いて荷物の片付けをしている。せめて、挨拶だけはしようと声をかけた。


「あの……よろしく。さっき挨拶した佐野です。ええと……ゴエイさん?」


 推測してその読み方で呼びかけると、相手は不思議そうな顔をした。眼鏡の奥から、大きな瞳がじっとこちらを見つめる。しばらく間があってから、彼女は答えた。


「ミカゲです。御影珠洲みかげすず


「あっ……ご、ごめん」


「大丈夫」


 彼女はそれだけ答えて、視線を合わせずに机の片付けを続けていく。怒っているのでは無さそうだが、何となくそれ以上は声をかけづらかった。すると、先生の声が聞こえた。


「では、夏休み中の宿題だけこれから回収するぞ。科目毎にホチキスで止めてあるか確認して、後ろから回してこい。じゃあ、現代文から」


 再び教室がザワザワとしてくる中で、僕も宿題をリュックから取り出した。転校自体は夏休みが始まる7月初めには決まっていたので、夏休みになるとこの高校から宿題が送られてきた。三枝先生からは「全部やることはないし、引っ越し優先で構わない」と言われていたが、宿題をやらないことで特別扱いされたと他の生徒から思われても嫌だったので、ほとんど終わらせていた。ただし、やや苦手意識のある古文以外だが。

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