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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
5 一瀬の影
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(2)

 竜弥の家では、漫画を読んだり、テレビを見たりと、自由に時間を過ごしていた。すると竜弥が「そろそろ飯にしようか」と言った。窓の外を見ると既に真っ暗だ。本当に、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。


 竜弥の父は銀行員で、その日は休みだったが、近所の人たちとの忘年会があって遅くなるらしい。母の方は弁当工場で働いているが、ちょうどおせち料理の準備で多忙だと聞いていたので、ここに来るときから夕飯はどこかで食べるか、弁当でも買いに行こうという話になっていた。


 3人で自転車に乗って川に近い場所にある比較的新しいショッピングセンターまでやって来た。年末の夕方で人出も多く、広い駐車場もかなり埋まっている。その一角にあるスーパー「ハギノ」の入口までやって来た。


「男3人で仲良く買い物するのも何だから、それぞれ好きな物を買って、後でそこのイートインで待ち合わせしようぜ」


 竜弥が示した方にあるイートインスペースを確認すると、彼はすぐに歩いていってしまった。葵も「じゃあ、後で」と言ってから、その後に続いて歩いて行く。僕もカゴを手にして店内に入った。


 年末で総菜の需要も多いためか、ライトアップされた台の上には、様々な総菜や弁当が並べられている。その周りには沢山の人が群がっていたので、後で来ようと思い、一旦別のコーナーに歩いていった。店内をフラフラとして、「スナック菓子」の表示のある列に入っていく。ポテトチップスや煎餅、ピーナッツなど、定番の菓子類が多数並んでいる。僕はいくつか迷った挙句、目についたサワークリームオニオン味のポテトチップスをカゴに入れた。その時、横から声を掛けられた。


「あれ。優馬?」


 振り向くと、珠洲がそこに立っていた。ハイネックの白いセーターに、茶色のロングスカートを履いて、長い髪を後ろで縛っている。珠洲はカゴを入れたカートを押し、横には母親の美姫もいて、僕に笑顔を向けてきた。思わず「こんにちは」と頭を下げる。


「今日は、一人で買い物?」


「いえ……竜弥の家に泊まりにきていて。今は食料品の買い出しです」


「えっ、竜弥もいるの? ヤバイ、隠れないと」


 珠洲は持っていたバッグから慌てていつもの眼鏡を出して掛けた。


「いいじゃないの、別に。それにしても楽しそうねえ。……あら? そのポテトチップス——」


 美姫が僕の持っているカゴの中を見て言う。


「優馬くんも、それ好きなんだ」


 ええ、と頷くと、美姫は珠洲の方を振り向いた。


「あなたたち、好みが同じなのね」


 美姫が笑顔で言うと、珠洲はハッとした様子で顔をそむけた。


「べ、別に……そんなに好きじゃないし。もう、行こう。お母さん」


 カートを転回させて逆方向に歩いて行く珠洲の姿に、美姫はフフと笑って、僕に頭を軽く下げて去って行った。


(そうか。珠洲も一応、同じ町に住んでるんだよな)


 そう言えば、竜弥は珠洲とは中学校が同じだと言っていた。彼女は中学時代からあんな感じで、みんなに自分の素顔を隠していたのだろうか。折角なので、竜弥の中学の頃の話と併せて、彼女のことも聞いてみたくなった。


 それから、弁当コーナーに戻ると、やや人が少なくなっていた。迷った挙句に牛丼弁当を選ぶ。レジも混雑していて、しばらく待たされてから支払いを済ませ、先ほど確認したイートインコーナーに向かった。



 イートインコーナーでは既に竜弥が待っていた。まだ葵の姿はない。彼は、2リットルの緑茶のペットボトルを買っていて、ビニール袋に入れたそれをテーブルの上に置いていた。


「結構時間かかったな。例によって、まだ葵は来ていないけど」


「ごめん。何だか色々あったから迷っちゃって」


 竜弥は唐揚げ弁当を買っているようだ。きっと彼のことだから迷わずさっと買ったのだろう。コンビニで何か買う時も、彼はいつも決断が早く、葵はじっくりと選ぶ方だ。


 イートインコーナーには色々なポスターが張ってあった。暇つぶしなのか、竜弥は何気なくそのポスターを見て回っている。僕も何気なく竜弥の傍に近づいた。見ると、そこには犬の写真が何枚も載っているポスターがあった。


「保護犬の譲渡会?」


 僕がポスターに書かれた文字を声に出すと、竜弥がハッとしたように振り向く。


「ああ、それな……。俺、犬を飼いたいんだけど、母さんがあんまり好きじゃなくて、反対されてるんだよな」


「ウチも1匹飼ってるけど、父さんは苦手らしいんだよね。昔、よく近所の犬に吠えられたり、咬まれたりしたから、良い記憶がないって。だから、世話をするのはお婆さんと僕だけ」


「優馬のウチは犬を飼ってるのか。いいなあ。……それにしても、こういう保護犬って、もっと何とかなんねーのかな」


 竜弥が再びポスターを眺めて呟く。彼から出た「何とかできないか」という言葉を聞いて僕は意外な感じがした。これまで見てきたところでは、彼はあまり面倒な事は好まない性格のようだし、動物を可愛がるようなイメージも無かった。


「ごめん。遅くなって」


 その時、葵がようやくやって来た。「おっせーよ」と竜弥が言い、3人でスーパーを出た。

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