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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
5 一瀬の影
38/60

(1)

 残りの2学期はあっという間に過ぎ去り、冬休みが始まった。


 市山高校の冬休みは、年末年始の2週間ほどが休みになるだけだ。しかし、この前の夏休みは引っ越しや転校の準備で休んだ気がしなかったので、高校に入って初めての本格的な長期休暇に、気持ちがやや昂っていた。


 冬休みに入って数日経った日の午後、僕は竜弥の家に自転車で向かっていた。その日、葵も含めて3人で、彼の家に泊まる計画にしていたのだ。竜弥の家には、離れのように建てられた家屋があり、彼はそこを自分の部屋として使っているらしい。だから、家族にも何も気を遣うことなく、夜遅くまで喋ったり、テレビを見たりしても自由なのだ。


 竜弥の家は、増沢大橋を渡った川向うの増沢町にある。その橋は、珠洲の家に通うために何度も渡っているのでかなり見慣れた風景になっていたが、これまではいつも車で迎えに来てもらっていたため、自転車で渡るのは意外に初めてだった。風吹川の上を拭いてくる北風は、凍えるように冷たい。その北風は「八ヶ岳おろし」と言われるもので、北の遠くの方に見えるギザギザとした八ヶ岳から吹き降ろしてくるものらしい。ダウンコートを着ていても、その風で鼻先が痛くなるように感じられる。それでも、自転車をこいでいると、次第に体も温まってきた。


 川の向こうに渡り、市街地に向かってさらに進んで行くと、山際の土地に、ひしめき合うように住宅が並んでいる。車道には歩道もなく、端の方を自転車をこいでいるすぐ隣を車が追い越していく。道路が少しずつ坂道になった辺りに町役場があり、そこで竜弥と待ち合わせをしていた。


 その日は日曜日だったこともあって、駐車場にはほとんど車が停まっていない。ガランとしたその駐車場の端の方に、自転車にまたがった竜弥がいた。彼が手を挙げて挨拶してくる。


「おーっす」


「待った? ごめん、ちょっと遅くなって。まだ葵は来てない?」


「まだ。アイツは几帳面そうに見えて、意外と待ち合わせにはよく遅れるんだよなあ」


 竜弥は言ったが、悪意がある訳では無い。僕が転校してからは、本当によく3人で一緒にいる感じがする。それぞれ部活もあるのだが、そこまで力を入れている訳でもなく、そこまで指導が厳しい部活でもないので、お互いに時間を調整して遊んでいた。と言っても、大体はコンビニか最寄りのスーパー「セルナ」の近くで何気ない話をするのがほとんどだ。何度かは、甲府市の郊外にある大型ショッピングセンターの映画館やカラオケとかにも行ったりしたが、主な移動手段は自転車なので、行動範囲も広くない。それでも、ただ3人で何かと話をするだけでも十分に楽しかった。


 葵がやって来たのは、それから20分ほどしてからだった。「おせーよ」と言う竜弥の前で葵が頭をかいて謝るが、すぐに竜弥に続いて列を成して自転車を走らせていく。そこからはやや勾配の県道になり、しばらく行った先で脇道にそれて、ブロック塀に囲まれた庭に入って行った。そこが竜弥の家のようだ。


 母屋自体はかなり築年数も経っているように見えたが、立派な家だ。庭も広く、端の方には庭木と花壇がある。その庭の端の方に、コンクリート造りの離れが建っていた。竜弥はその建物の前に自転車を停めたので、僕達も同じようにする。入口のドアを開けると、そこには6畳より少し広いほどの部屋があった。中には、テレビのほかに漫画本がかなり入った本棚も見える。


「すごいね。何か一人暮らししてる感じ」


「だろ? ちょっと狭いけど、隣も空家だし、多少騒いでも大丈夫だぜ」


 竜弥は自慢げにそう答えた。

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