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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
1 姉妹の影
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(2)

 右隣の男子が「行こうぜ」と声をかけてきた。一緒に廊下に出ると、既に他の教室の生徒もザワザワと動き始めている。


「俺は一瀬いちのせ竜弥。よろしくな」


 右隣で歩きながらニッと笑ってくる彼の様子にホッとする。彼は短髪で彫りが深く、何となくやんちゃな見た目をしているが、フレンドリーな対応だった。田舎の学校と聞いていたので、転校生を受け入れるのに抵抗があると思っていたが、そうでもないらしい。彼と歩いていると左隣にも眼鏡を掛けた男子生徒が並んだ。


「よろしく。僕は石原葵。どこから来たの」


 尋ねて来る彼に、「埼玉」と答えると、「埼玉のどこ?」と質問が続いた。


「川越っていう所」


 どうせ分からないだろうと思って答えると、「小江戸って呼ばれてる古い街並みが残ってる所でしょ。知ってるよ」と意外な答えが返ってきた。どうやら石原の従兄弟がその近くに住んでいるらしく、何度か遊びに行った事があるらしい。


 歩きながら彼らに尋ねられて自分の話をすることになった。僕は川越の高校に入学したものの、事情があって父が早期退職することになり、父は実家のあるこの市山町の商工会で仕事を見つけ、実家に戻ることになった。それで引っ越してこの学校に転校することになったのだが、前の高校ではあまり仲の良いメンバーがいなかったので、転校自体には全く抵抗は無かった。引っ越し先の父の実家は、市山町の南部の外れにあり、祖母が1匹の犬とともに暮らしていた。


 一瀬と石原の話を聞くと、石原の方は同じ市山町に住んでいて通学は自転車で10分程度だが、一瀬は川向うの隣町である増沢町に住んでいるらしく、通学は自転車で30分程かかるらしい。この高校は、過疎化により3つの高校が統合して2年前にできた高校だ。だから、今の3年生が一期生ということになる。通学範囲が相当に広くなったため、電車通学やバイク通学もしている生徒もいるという。それでも各学年は200人ほどで、全体でも600人程度だ。前の高校は全校で1000人を超え各学年9クラスあったのを考えると、かなり規模は小さい。


 話しながら渡り廊下を歩いて行くと、始業式を行う体育館に着いた。貰っていた高校の資料では、県産材をふんだんに使った建物だと書かれていたが、実際に中に入ってみると木材の暖かさのようなものを感じる。既に3年生と2年生が後ろの方に立っていて、ザワザワとしている。1年生がその前にクラス毎に並んでいく。並ぶ時は出席番号順、つまり50音順らしく、各クラス男子と女子で2列ずつとなって、皆が慣れた感じで前後の生徒を見ながら並んでいくが、慣れていない僕はモタモタとしていた。すると三枝先生が「佐々木の後ろだな」と言って案内した。眼鏡を掛けた長身の佐々木に頭を下げると、向こうも頭を下げてきた。


「それでは2学期の始業式を始めます」


 マイクの声が響いてきた。前方の左端にスタンドマイクが置かれている。かなり額の広い中年男性がその前に立っている。どこからか「今日も教頭、()()()してるな」という小声が聞こえてきた。


 まずは校歌斉唱で、壇上に置かれたピアノの前に一人の生徒が座って弾き始めた。何となく明るいイメージの曲だとは思ったが、まさか初日から歌える筈もなく、ただ周りの様子を見ながら口を開けている振りをするしかない。


 続いて校長の挨拶として前面の壇上に男性が現れた。校長は身長が高く、短髪で黒縁の眼鏡をかけていた。彼が演壇に立つと、何となく周りのざわつきがピタッと治まった気がした。


「おはようございます!」


 マイクを使わずに、予想を超えた大声が響いた。思わずその声に体が震える。そして、生徒側も「おはようございます」と声を返す。僕もそれに合わせて声とともに頭を下げる。挨拶をしっかりすることについては、この校長の方針なのかもしれない。


 校長は、夏休み気分を一新してしっかり勉強をすること、2学期は中だるみしがちな時期であるので気を引き締めることなどを伝えると、壇上を降りた。始業式は特にそれだけで終わり、ザワザワとした中で3年生から順番に体育館を出て行く。

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