(3)
その週の水曜日になってから、父に「金曜日に友達の家に泊まる」と告げた。色々と突っ込まれるのかと思いきや、「分かった」と言われただけだった。やや拍子抜けしたが、了解を得たのだから大手を振って仕事ができる。
金曜日は、着替えも何も持って行かないのも不自然だと思い、部活で使っているスポーツバッグに着替えを入れ、学校に持って行った。いつもより早めに登校したのだが、朝から小雨が降っていて、学校に着く頃には土砂降りになっていた。バッグを部室に置いておこうと急いで部室に向かっている時、「おーっす」と後ろから声を掛けられた。
「今日は早いね」
振り向くと竜弥が立っていた。彼もサッカー部の部室に何かの荷物を持って来たようだ。
「ああ……お、おはよう」
「あれ? その荷物……遠征にでも行くのか?」
「こ、これ? ……いや。部室に置いておく着替えだから」
何とか笑顔で返して彼をやり過ごし、何気ない様子で部室に入ると、自分のロッカーにそのバッグを押し込んで、教室に向かった。
放課後になり、いつものように珠洲はすぐに教室を出て行った。僕も続いて出ようと思ったのだが、竜弥に呼び止められた。
「今日は部活ないんだろ? コンビニでも寄ってから町の図書館にでも行かねえか? あっ、もちろんサッカーの雑誌を読みたいだけなんだけど」
「ええと……ごめん。今日はちょっと行きたい所があって」
「えっ? どこだよ」
「と、図書室」
ふと思いついた場所を言うと、彼は不思議そうな顔をしたが、「じゃあ、またにするわ」と言ってすぐに去って行った。僕は少しホッとして、急いでリュックを持って部室に向かう。影の中に持っていける荷物はスマホだけで、リュックは影の中に持っていけないのだ。それで、部室のロッカーの中にリュックを押し込んで扉を閉めると、すぐに図書室に走った。
図書室の端の方にある自習スペースでは、何人もの生徒が静かに勉強している様子だった。適当に本棚から歴史小説のような本を手にとって、自習スペースの様子を窺う。その中に寧々が座っているのと、彼女の少し前の方に藤川先輩が座っているのが見えた。
本棚の前に立ちながら、スマホで寧々にメッセージを送る。しばらくすると「ちょっと待って」と返信があった。本を手にしながら、チラチラと彼女の方を見るが、まだ机に向かって勉強しているようだ。キリがつくまで続けるつもりなのだろう。
「どうした?」
突然後ろから声がかかった。ドキッとして振り向くと、竜弥が立っている。慌ててスマホを本の後ろに隠す。すると、彼はニヤッと笑った。
「お前さあ……何かさっきからチラチラ向こうを見てたけど」
彼の視線の方を見ると、自習室の方だった。
「い、いや……そんな事、ないよ」
平静を装って答えるが、やや自分でも声がうわずっているような気がした。すると彼は、僕の腕を小突いた。
「寧々さんを見てたんじゃないよな」
彼が言うのにドキッとする。
「そ、そんなこと、ないよ」
そう答えると、彼はふと気づいて言った。
「あれ? 優馬、お前リュックはどうしたんだ?」
「えっ? ああ、ちょっと重いから置いていて」
慌てて答えながら寧々の方を見ると、向こうもチラッとこちらを見て竜弥が傍にいることに気づいたようだ。彼女は席を立って、図書室の外に出て行く。それを見て、僕も本を棚に戻した。
「ごめん。ちょっとトイレに」
それだけ言うと、急いで図書室から逃げるように出た。「おい、ちょっと」と後ろから竜弥の声がしたが、廊下に出て周りを見ると、寧々が玄関の方から手招きしている。そこに走って行くと、彼女は「靴を履いて外に」と言って先に玄関の外に飛び出した。僕は慌てて靴を履いて外に出ると、玄関脇の植え込みの影に彼女が立っていた。
「早く入って」
彼女の言うとおり、地面に薄くできているその影の上にジャンプした。




