表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
4 藤川の影
28/60

(2)

 玄関先で青柳を見送ってから、改めて美姫に尋ねた。


「さっきの人って、探偵か何かですか?」


 すると彼女は一瞬驚いたような顔をしてこちらを見たが、すぐに笑った。


「そうか……ごめんね。何も紹介しなくって。あの人は警察の人よ。今は警部補だっけ?」


「け、警察?」


 特に何も悪いことはしていないはずだが、警察の人が目の前にいたと思うとなぜかドキッとしてしまう。


「それに、県内の柔道界でもトップクラスの実力者。結構な凶悪犯を逮捕してきてるらしいから、犯罪者の業界では有名人かも」


 寧々が付け加えるように言う。その事実の方はすぐに納得できる気がした。


「優馬もあの人のお世話になるような事をしないようにね」


 珠洲はそう言って、「じゃあね」と手を振って家の中に戻ろうとする。


「あの……お願いがあるんですが」


 僕が口を開くと、彼女達が不思議そうに僕の方を見た。美姫が笑顔で尋ねる。


「何? お願いって」


「僕も、ついていきたいんですけど」


 珠洲が「えっ」と声を出す。


「何それ? あんた、本気なの?」


「うん。だって、もしその藤川っていう先輩が、詐欺グループに協力していたり、睡眠薬を盗んでいたりするなら、それって、かなりヤバイことしてるって事でしょ? 何か、危なそうな気がする」


 すると珠洲は腰に手を当てて言い返した。


「あのね。……だからって、優馬が来た所で、何か役に立つの? 青柳さんならともかく、別に喧嘩が強い訳でもないでしょう?」


「それはそうだけど……逃げ足だけは自信あるかも」


 ハア、と珠洲がため息をついた。するとその隣から、美姫が笑顔で声をかける。


「いいじゃない。優馬くんにも、一緒に行ってもらえば?」


 えっ、と珠洲が美姫の方を振り向く。明らかに不満そうな顔つきだ。


「折角の青柳さんからの仕事なんだから。優馬くんの実践経験のためにも、ちょうどいいわ。今回は2人で行きなさい」


 諭すように言う美姫の姿に、珠洲も不満気ながら頷いた。僕はそれを見てホッとした。青柳が言うように、藤川先輩が本当に犯罪を犯しているかは分からないが、少なくとも珠洲を一人で行かせるのだけは危険だと思った。前にお爺さんからも、「ボディーガード」になるように言われているのだ。喧嘩はできなくとも、危ない場面から逃げることくらいならできるだろう。


「ちょっと打ち合わせしようか。まだ時間あるでしょ?」


 寧々が僕に尋ねるのに頷いて、先ほどの客間に4人で戻った。


 とりあえずの作戦はこうだ。寧々たち3年生は、受験勉強のため放課後も教室に残ることが多い。それで、あらかじめ僕と珠洲は寧々の影に隠れておき、寧々が藤川に近寄った時に彼の影に移動する。それで彼の行動を監視するというわけだ。


「行動の監視って、どのくらいするんですか?」


 僕が尋ねると、美姫が首を傾げて答えた。


「そうねえ。家の中での彼の行動を監視しないといけないから、夜から朝まで一晩って考えた方がいいわね」


「一晩……ですか」


「まあ、一晩くらい、友達の家に泊まらせてもらうってことなら、優司くんも何とかなるんじゃない? 金曜日の夜なら学校にも影響はないだろうし。それに影の中って薄暗いから、寝ようと思ったら意外とよく寝られるわよ」


 確かに、週末に一晩くらいなら、父さんも気にしないだろう。竜弥か葵の家に泊まりに行くことにすればいい。それよりも、気になるのは珠洲の事だ。いかに影の中とはいえ、彼女と一緒に一晩を過ごすのだと思うと、急に胸がドキドキしてしまう。それで、チラッと珠洲の方に視線を向けてみたが、彼女は特に平然としている様子だ。


「青柳さんから貰ってた発信機ってまだあるよね? あとスタンガンも」


 冷静に珠洲が言う言葉に思わずハッとした。ドキドキしていた自分の気持ちの昂りが急激に冷めていく。そうだ。これは遊びではない。危険が伴うかもしれない仕事なのだ。


「もちろん、あるわよ。お婆ちゃんにおまじないもかけてもらってるから、すぐにでも持って行けるわよ」


「おまじない?」


「影の中って、自分が身に着けている服以外は、普通は持って行けないの。だけど、お婆ちゃんが特別なおまじないを掛けてくれると、持って行けるのよ。ただし、小さいものだけね」


 寧々が答えるのに「なるほど」と頷く。そう言えば、これまで影の中に入ったのは神楽の時だけだったので、神具だけは持っていたが、それすら影の中に持っていくことができているという意識が無かった。そういうルールがあるのだと改めて知るとともに、お婆さんの「おまじない」というのは一体どんなものなのだろうと、少しだけ気になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ