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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
3 薬袋の影
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(5)

 翌日、僕はいつもより少し早めに登校していた。珠洲から昨日の話を聞こうと思ったのだが、彼女がやって来たのは1時限目の直前だった。すぐに数学の教師がやってきて当番が号令をかける。


 休み時間に珠洲から話を聞こうと思って、後ろをチラッと見た。しかし、珠洲は机に頭を乗せて顔を伏せている。昼休みになるとすぐに、彼女はどこかに行ってしまった。


(何かあったのかな?)


 昼ご飯を終えて教室を出てから、スマホで彼女に「どうだった?」とメッセージを送っておくと、しばらくして返信があった。リンクが張ってあったのでそのサイトを開き、その内容を読んでいく。


(何だよ、これ……)


 そこには、薬袋に対する酷い言葉が並んでいた。僕は居ても立ってもいられなくなり、すぐに職員室に走った。そして、担任の三枝先生を呼び出すと、先生は奥の方から面倒そうにのっそりと歩いて来た。


「どうしたんだ。佐野」


「先生。これ、知ってます?」


 自分のスマホの画面を先生に向ける。先生は目を細めて画面をスライドさせていくが、その視線が少しずつ厳しくなっていくのが分かった。


「許せねえ——」


 いつもより低い声で先生が言う。その迫力に思わずドキッとする。


「よく知らせてくれたな。僕から3組の井上先生に、すぐに伝えるから」


 先生はそう言いながら自分のスマホを操作し、僕のスマホと同じ画面をそこに表示させる。そして「ありがとう」と言いながら僕にスマホを戻した。僕も「ありがとうございます」と頭を下げると、先生は自分のスマホの画面を見つめて、小声で続けた。


「前に……亡くしてるんだ」


「えっ……」


「前の学校で、担任してたクラスの生徒を。ネット上のイジメによる自殺でな」


 三枝先生はそれだけ言うと、大きな背中を向けて自分の席に戻って行った。



 ******



 6時限目が終わってから、その日の放課後も合唱練習があった。しかし、途中で気づいたが、珠洲の姿が見えない。


(どこに行ったんだろう?)

 

 ちょうどその日は三枝先生も出席チェックに来ていなかった。珠洲にも、三枝先生に例のサイトの事を伝えておいたとメッセージを返信していたが、特にそれ以降は何の連絡もない。不思議に思いながらも、いつもどおり練習を続ける。15分ほどの練習を終え、いつものように机の片づけを手伝った。それぞれ教室を出て行く生徒たちの最後に、僕と葵が残った。僕はリュックを肩に掛けて葵に言う。


「じゃあ、先に帰るよ」


 すると、葵は「うん」と言ったが、すぐに「待って」と声を掛けてきた。


「……僕も、帰ろうかな」


 そう言って、彼はリュックを肩に掛ける。僕は慌てて声をかけた。


「か、帰るの?」


「えっ? どうして?」


 彼に尋ねられてハッとした。「薬袋が書いた」振りをして珠洲の書いた手紙のことを僕は知らないことになっているのだ。何と声をかけるべきか迷っていたが、ふと自分のスマホを取り出して、例のサイトを表示した。


「そう言えば、これ知ってる?」


 葵が近づいて来てスマホの画面を見た。そしてハッとしたように画面から顔を背ける。


「誰からこれを?」


「知ってたのか」


 重ねて尋ねると、彼は小さく頷いた。


「じゃあ、どうして……」


「僕は……意気地なしなんだ」


 葵は窓の方に顔を向けた。


「誰かが最初にやってくれる。僕はその後をついていけばいい。僕は、そういう人間なんだ。優馬が転校してきた時だって、最初に竜弥が声を掛けたから、僕もそれに続くことができた」


「そんなこと……」


「いや、そういう人間なんだ。そのサイトにある言葉をどれくらいの生徒が書いているのか分からないけど、少なくとも音楽部の中で彼女を呼び戻そうと言い出す生徒はいないんだ! だから、最初に僕が彼女に手を差し伸べれば、僕がみんなに嫌われるかもしれない」


「そんなことはないよ。葵ならできるし、みんなだって……」


「ダメなんだ!」


 葵は叫ぶように言うと、そのまま教室を出て廊下を走って行く。「待って」と言って僕も追いかけていく。階段を駆け下りて1階に来たところで、僕の手が葵の手を掴んだ。


「放してよ!」


 葵が叫ぶ。すると奥の教室から声が飛んできた。


「何してるの! やめて」


 見ると、一人の女子生徒が駆けて来る。ショートヘアのその生徒は、僕達に近づいて声を掛けた。


「葵、一体どうしたの」


「あ、秋山先輩……」


 秋山と聞いてハッとして彼女の顔を見る。「もしかしてこの人」と思ったその時、隣の葵が突然頭を下げた。


「先輩、お願いです!」


「えっ?」


「僕と一緒に、彼女に……薬袋に、会ってもらいたいんです!」


「由芽に?」


「お願いします!」


 葵は頭を下げ続けている。僕もその隣で同じように頭を下げる。すると、頭の上の方から声が聞こえた。


「本当に……由芽が来るの?」

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