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影踏み一族は舞う!  作者: 市川甲斐
3 薬袋の影
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(1)

 あっという間に2か月が過ぎ、10月も下旬になっていた。


 急激に朝晩の気温の冷え込みを感じるようになってきた。埼玉に比べて、この辺りは朝晩の冷え込みが激しい。僕も、通学の際には冬服のブレザーの上にジャンパーを着る日が多くなった。


 9月に転校してきたことが嘘のように、クラスメイトとも仲良くなっていた。竜弥と葵という運動系と文化系の真逆の友人を介して、クラスの生徒の名前だけでなく、性格なども大体分かるようになりつつあった。


 加えて、相変わらず、土日の御影神社通いは続けていた。「師匠」の珠洲からは厳しいアドバイスを受けていたが、それでもようやく「影に飛び込む」感覚に迷いがなくなってきた。お爺さんからも、「良い感じのようじゃ」と評価を受けるようになったが、珠洲はまだ物足りないらしい。もちろん、学校では彼女と前後の席にも関わらず、ほとんど話をすることも無いのだが。


 市山高校では、11月の終わりに、文化祭がある。各部活の発表の場だけでなく、それぞれの部の特徴を活かしたゲームやイベント、それに模擬店もいくつか出店する。高校が広域統合されてから、地域を挙げて文化祭を応援しようと周辺の町が頑張っていて、地元の企業や商店が色々と協力してくれるそうだ。その結果、老若男女問わず、この辺りではかなりの人出になるイベントになっているらしい。


 その文化祭には、共通の発表として、クラス毎の合唱コンクールがある。3年生もこのコンクールだけは参加する。各クラスで自由に選曲し、体育館で順番に発表していく。審査員は各クラス代表者1名で、自分のクラス以外のクラスに対し、5つの評価項目を5点満点で評価して決める。


 僕達のクラスでは、音楽部に属する葵と清水玲奈という女子が仕切っていた。玲奈はピアノも上手なので、生演奏での合唱となる。毎日、放課後になると教室の後ろの方に並んで、合唱の練習をする。あまり前向きではない生徒もいるようだが、各担任が出席状況をチェックするので、基本的に全員が練習に参加していた。おそらく、珠洲もその「前向きではない」生徒の一人だろうが、一応、端の方に立って歌っているようだ。


 その日も練習を終えたところだった。教室の後ろの方に並ぶために、少し動かした机を元に戻していた葵を手伝ってから教室を出て行くと、隣の3組の教室から、俯いて歩く一人の女子生徒が出てきた。後ろから別の生徒たちが楽しそうに出て来るが、彼女には何の挨拶もなく通り過ぎていく。


(どうしたんだろう?)


 心配になる程、彼女はトボトボと歩いている。その隣を僕と葵が通り過ぎる時、葵が彼女に声をかけた。


薬袋みないさん。こんにちは」


 葵はそれだけ言うと、手を挙げてスタスタと歩いて行く。ハッと彼女が顔を上げたのが見えた。茶色の眼鏡を掛けた丸顔の彼女は、瞼の下に隈のような影が見えた。


「知り合い?」


 僕は歩きながら葵に尋ねる。


「同じ音楽部の薬袋さん。薬袋由芽(ゆめ)


「なんか、疲れてそうな感じだったけど。大丈夫かな」


「うん……そうだね」


 葵が口を濁すような言い方をした。その様子に「おや」と思ったが、彼は別の音楽部の生徒から声を掛けられて「じゃ」と言って一緒に歩いて行ってしまった。放課後であり、周りの生徒達はザワザワと楽しそうに歩いているが、それに比べてさっきの彼女の陰気さが頭に残った。

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