41 そして妖精さんになる
純白のドレスを身に纏ったアレッタはとても美しかった。
マイムは感動で瞳を潤ませ、着替え部屋に乱入してきたルーチェも大興奮してアレッタの周りをくるくるしながら、似合う似合うと褒め称えてくれた。
「アレッタ様、すごくお似合いです……!」
「本当ヤバいくらい似合いすぎだってば! ひゃーっ、殿下とこれからお披露目だよね? 推しの晴れ姿、心に焼きつけなきゃ!」
「ありがとう、ルーチェ、マイム」
アレッタはもっと彼女達とたくさん話したいことがあったけれど、もうお披露目の時間が迫っていた。
本当はプリーケにも見てもらうことができたらよかったんだけどな……怪我が完治した彼女は先日王宮を去ったらしい。都会も人間界も色々と怖いところだから、田舎に帰るとのことだった。
プリーケは忙しいアレッタに遠慮して、直接会うことはせずに手紙を書いてくれていた。
アレッタ様、色々迷惑かけてごめんなさい、本当にありがとうございました。お幸せに……短い上に字も歪んで読みにくかったけれど、字が読めないプリーケががんばって書いてくれた大事な手紙だ。
今もアレッタの部屋の手紙箱に大切に保管されている。
ドレスの着付けが終わると、アレッタとマイムは宮殿内の正面テラスに向かって静々と歩いていく。
テラスの手前には華やかな紫色のマントと白い軍服を身につけたユースが待っている。そして紅のドレスのタチアナが出迎えてくれた。
「いらっしゃいアレッタ。とうとうこの日が来たのね」
「よろしくお願いします、タチアナ様」
「ええ。しっかりと見守っておくわ」
タチアナは優雅にソファーに腰かけた。入れ替わるようにしてユースが部屋の中央に歩み寄る。
「アレッタ、おいで」
「ええ」
アレッタがゆっくりと部屋の中央に近づき、ユースの前で立ち止まる。用意された椅子に腰かけると、ユースがアレッタの頭の上に手をかざした。
「アレッタ、君は今から妖精になる。俺の魔力を君に注ぐから少し違和感を感じるかもしれないが、俺がいいと言うまでじっとしていてくれ」
「わかったわ」
アレッタが目を閉じるのを確認して、ユースはアレッタに花妖精の魔力を注いだ。
……なにか温かいものが体の中に降り積もっていく感じがする。
露出している首筋なんて少し熱く感じるくらいだったけれど、アレッタは何も言わず身動ぎもせずにその感覚を享受した。
やがてその感覚も収まり、スッと肩が寒くなった感じがした。背中はまだ少しモゾモゾするけど、魔力の放出は終わったのかな?
ソファーの方から衣擦れの音が近づいてくる。その人物はパンパンと手を打ち鳴らし拍手をした。
「おめでとう、成功よ」
タチアナ様の声を聞いたユースが、ホッと目の前で安堵の息を吐いた気配がする。
「アレッタ、もう動いていいぞ」
目を開く。視界はいつもと変わらない感じがしたけれど、花の匂いを濃く感じる。
ああ、そういえばアルストロメリアの花冠を身につけていたから、これの匂いだわ。今までは匂いなんて感じなかったのに、抜群にいい匂いに感じる。
花妖精になったから、魔力のあるものを嗅ぎ分けられるようになったのかな?
「調子はどうだ、特に変わりはないか」
「大丈夫よ。少し匂いの感覚が鋭くなったかもしれないけど、それくらい」
「そうか、俺の見たところ異常はなさそうだ。それにしても、やはり髪の色素は抜けたな」
チラリと前髪を確認すると、ユースのアッシュゴールドより色素の薄い、ミルキーゴールドのような色味になっていた。
「ずいぶん明るくなったね」
「これはこれで似合っているし、いいのではないか。真っ白にならずに済んでよかったな」
「どうして?」
真っ白は真っ白で素敵だと思うけれど?
「人間は白髪とやらを気にするのだろう? 君の父上も気にしていると聞いたが」
「ふふっ、もともと全部真っ白なら気にならないよ。ああいうのはポツポツあるから気になるものなんだって」
「そういうものか」
ユースがさらりと前髪を指先で撫でる。くすぐったくて身を引いたけれど、重心が変に後ろにかかっていていつものように動けない。
慌てて前屈みになり椅子の上に座り直した。
ああ、もしかして……やっぱり背中に羽が生えてる! ユースと同じ、白い花弁に紫のスポットが入ったアルストロメリアの花弁の羽だ。
動かしてみようと力をこめるとパタパタと動いて少し体が浮いた。
うわあ、すごい。これなら飛べそうだわ。
「さあアレッタ、行こうか」
ユースが差し出してくれた手をとる。テラスの外に出るとユースはフワリと浮き上がった。アレッタも羽を動かすと、すんなりと空へと体が持ち上がる。
そのままどんどん空に向かって上昇し、アルストロメリアの花畑を越えて町の上へと飛んでいく。
……あ! 花畑の側にマイム達がいるわ!
「殿下、アレッタ様! おめでとうございます~!!」
「きゃーっ! 尊いーー!!」
「殿下、アレッタちゃんも! 幸せになってくれよー! なんせ僕が直々に……っ、から……、……」
あっという間にマイム、ルーチェ、ジェレミーの姿は見えなくなった。
町に近づくと、妖精さん達が次々に空を見上げて盛大に歓声を上げた。
「殿下、ご結婚おめでとうございます!」
「アレッタ様~!」
「よっ、おめでとう、殿下!」
「おめでとう……殿下、アレッタ」
たくさんの祝福の声に囲まれながら、ユースと手を繋いで空を飛び回った。
ありがとう、みんな。ありがとうユース……私、こんなに幸せな結婚ができるなんて思っても見なかったわ。
「アレッタ、あそこにソルとエストレアがいる。手を振り返してやるといい」
「そうね、ユースも」
「ああ」
テオドールに婚約破棄をされた時のような惨めなアレッタはもういない。今は愛する人の隣で、花のように笑っていた。




