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4 妖精の国!? 行きたい!

 妖精の国に行けると聞いて、行きたいと即答したアレッタだったが。ふと現実を思い返して二の足を踏んだ。


「あの、興味はあるしすごく行ってみたいんだけど、少し待っていてくれる? 服もほら、汚れているし帰りの馬車も待たせたままなの」


 ユースはアレッタの汚れた服をひと目確認すると、なんでもないことのように首を振った。


「服は向こうで用意するし、御者にはうまく伝えておこう」

「どうやって? ユースの声は聞こえないだろうし、見えないよね?」


 ユースは腕を組んで企むように笑った。


「花妖精はこう見えて、器用で役に立つ能力をたくさん持っているんだ。マリー、リリー、ポピー。どうせ見ているんだろう? 一仕事してきてくれないか」


 ガサガサと遠くの方で葉擦れの音がする。焦ったような響きの囁き声も聞こえてきた。


「あーあ、やっぱり見つかっちゃったね」

「だから言ったでしょ、のぞいてたらバレるって」

「どうしようー、まだいいところなのに!」

「行くしかないよ」

「そうね、ここらが潮時だわ。さあポピー、仕事よ仕事」

「はあーい、アレッタのためならがんばるー!」


 声はだんだん温室の出口の方へと遠ざかっていく。


(あの子達……見てたのね、まったくもう)


 アレッタは頬を染めて俯いた。そんなやりとりをしているうちに、ユースはなにやら妖精界に行く準備をはじめていたらしい。


 ユースが温室の花に手を伸ばすと、ふわりと白い花びらが浮き上がり、風も無いのに辺りを舞いはじめる。


「アレッタ。そこに立ってくれないか」

「ええと、ここでいいの?」

「ああ。しばらくじっとしていてくれ」


 ベンチから数歩離れた場所にアレッタが進むと、アレッタの周りを花びらが円を描くようにしてクルクルと舞い踊る。


 現実離れした光景を見たアレッタは、これが妖精の魔法なんだと瞳を輝かせながら、胸の前で手を組んだ。


 花はゆっくりと下降していき、やがて地面の上に着地した。花びらがアレッタの周りを隙間なく取り囲み、花のサークルの中に立っているような形になった。


 ユースがアレッタの方へ音もなく寄ってきて、サークルの中に入る。


「準備はいいか?」

「私はなにをすればいいの?」

「なにも。怖いなら目をつむるといい。さあ、行くよ」


 ぶわっと足元から風が吹く。風圧が強くてアレッタが思わず目を閉じると、なにか力強いものに包みこまれた感触がした。


 風が止んだ。陽光が瞼をすり抜けて目の中に飛びこんでくる。恐る恐る目を開けると、とんでもない美形がアレッタのことを至近距離で見下ろしていた。


「ひゃっ!?」

「大丈夫か? 気分は悪くなっていないか」


(あれっ、この声は……もしかしてユースなの!?)


 アレッタは人間と同じ大きさになったユースに抱きかかえられていた。


「ええっ!? ユース、大きくなれるの!?」

「いや、どちらかというと君が小さくなったんだ。妖精界では人間のサイズのままでは活動し辛いから、調整しておいた」

「そ、そうなんだ」


 それにしても美形だ。小さい時はかわいらしい印象が先にきたが、アレッタのつむじがユースの鼻先にくるほど背が高いと、ひたすらに凛々しくてかっこいい。顔の火照りがおさまらない。


 そんなアレッタを見下ろして、ユースはフッと口元を緩めた。


「俺は君の好みから外れてはいないだろうか?」


 その笑みがあんまりにも魅力的で、アレッタは顔を赤くしながらなんとか返事をした。


「はい、もう、とっても」

「ははっそうか、安心した。さあ、まずは着替えを用意させるからこちらにおいで」


 微笑むユースが手を差しだしてくれたので、アレッタはその手をとった。


 周りを見渡すと、アレッタ達はバルコニーの上にいたようだった。階下に広がる花の咲き乱れる庭園に心惹かれたが、ユースに室内に入るよう促されたので着いていく。


(後であのお庭を散歩させてもらえないか頼んでみよう)


 ユースにエスコートされて入った部屋は白をベースに緑や黄緑の小物でまとめられていて、ところどころに本物の花が飾られている大変センスのよい部屋だった。

 ナチュラルだが可憐でかわいらしい雰囲気の部屋に、アレッタの心も浮き立つ。


 部屋の中には水色の髪の少女がいた。丈が短めの青いメイド服のような、不思議な服を着ている。アレッタが今まで見たことのないデザインだ。


「この侍女に着替えを手伝ってもらうといい。俺は用事を済ませてくるから、着替え終わる頃に迎えにこよう。マイム、彼女はアレッタだ」

「かしこまりました殿下、誠心誠意お世話をさせていただきます」

「ああ、頼んだ」


(ユース、殿下って呼ばれてるわ。もしかして彼は妖精の王子様なの?)


「ではなアレッタ、また後で」

「ひゃっ」


 ユースは指先にキスを一つ落とすと、颯爽と去っていく。アレッタはキスを受けた指先を片手で包みこんだ。


(うわあ、かっこいいよう……私、あの人に求婚されたのよね? これは本当に現実なの? 私に都合のいい夢を見ているような気がしてきた……)


「あの、アレッタ様?」

「ひゃい! マ、マイムさんだったかな、気軽にアレッタと呼び捨ててくれていいのよ!?」


 マイムの声かけで、アレッタは現実に引き戻される。改めてマイムに向き合うと、彼女は濃い青色の瞳を大きく見開きながら手をわたわたと振った。


「そそそそんな、恐れおおいです。あの、私人間さんって見るの初めてで……でも、アレッタ様はそんなに怖くない、ですね」

「人間が怖いの?」

「ちょっとだけ……だって人間って大きいし、私たち妖精の住処を簡単に壊して作り変えてしまえるので……あ、アレッタ様のことじゃないですよ! そういう人間が多いってだけの話です」

「うん、わかってるよ」

「失礼しました。お召し物を交換しましょう」


(ここでは私は見知らぬ人間さん扱いなのね。あんまり勝手にお散歩とかで出歩かない方がいいのかな……後でユースに聞いてみなくっちゃ)


 ドレスは隣の衣装部屋に用意されていた。パッと見ただけでもけして狭くはない部屋が埋まるほどの、大量のドレスが備えつけられていた。


「え、こんなにあるの?」

「はい、これらは全てアレッタ様に用意されたものです」


(どういうことなのユース、私達出会ったばかりだと思っていたけれど、実は違ったの?)


 赤やピンク、青や紫とあらゆる色の揃えられた極彩色のドレス室を、内心慄きながら見て周る。


「どのお色がいいでしょうか……アレッタ様は草木色の髪と目をしていらっしゃいますから、なんでもお似合いになりそうですね」


 マイムが思いがけないことを言うので、アレッタはぶんぶんと首を横に振った。


「そんなことないよ! 私は流行の淡い色彩のドレスが全然似合わないし、元婚約者には地味だのセンスがないだの散々言われてきたんだから」

「そう、なんですか?」

「そうよ。だからほら、私には茶色とか灰色とか、そういうドレスで十分だから……あれ、ないわね」


 アレッタが普段着ているような地味な色のドレスが見当たらない。ベージュや深緑色ならあった。これなら地味といえるだろうか?


 せっかくの華やかなドレスに見向きもせず、なるべく目立たない色を選ぼうとするアレッタを、マイムは遠慮がちに止めた。


「アレッタ様、そちらのドレスもよくお似合いになることと思いますが、今日は思い切って気分を変えてみませんか? あの、差しでがましいとお思いでしたら申し訳ありません」

「うーん……でも私にはこんな鮮やかな色のドレスを着こなせる気がしないの」

「そうですかねえ……ハッキリとしたお顔立ちだし、明るい色の方が映えると思うのですが。そうだ、アレッタ様の好きなお色はなんでしょうか?」

「好きな色……」


 アレッタはいつも髪に結んでいるリボンに手で触れる。今年九歳になるかわいい弟から、誕生日プレゼントとしてもらったリボンだ。


 王都に行くのを嫌がるアレッタに、元気がでるようにとオレンジ色のリボンをプレゼントしてくれた。


(……オレンジ色は好きかもしれないわ。大好きなマリー達の髪の色でもあるし)


「マイム。オレンジ色のドレスって私に似合うと思う?」

「試しに鏡の前で当ててみましょう!」


 マイムは両手を胸の前で握って気合いをいれた。

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