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31 実験

「うふふ、アレッタ様、やはりこの中には妖精がいるのですね!? ロイス様に妖精を捕まえてもらったらしいのですが、テオ殿下にも私にも確認することができないので本当に実験をはじめていいものか迷っていたのです。早速のご協力感謝いたしますわ」


 にこりと微笑むカロリーナに対して、プリーケはクリスタルを内側から叩いて出してほしいと訴えている。


「プリーケになにをするつもり? そんな狭いところに閉じこめたらかわいそうよ、出してあげて」

「ええっ? 出してあげたら逃げてしまいますわよ? それじゃ実験ができないじゃないですか」


 カロリーナはそう答えると、なにやらクリスタルに繋がれた金属でできた装置のつまみを弄くりはじめた。

 テオドールはその間に、暗いなと文句を言いながら机の上の燭台や壁の蝋燭に火をつけて、部屋を明るくして回っている。


「こことこれをこうして……よしっ、できましたわ。ささっ、テオ殿下。こちらのボタンを押してみてくださいませ」

「ああ。これか?」


 テオドールがカロリーナに言われるままにボタンを押すと、プリーケはびくりと体を震わせ苦しみはじめた。


 プリーケの魔力は金属の装置に吸われていき、それが水となって反対側の筒から出てくる。下に設置されていた桶の中に勢いよく流れでた。


「きゃあ! テオ殿下、成功ですわ!!」

「なにもないところから水が出てきたように見えるな、正に魔法だ」


 桶の水を確かめようとカロリーナが手を浸した。


「どんどんお水が出てきますわ、しかも冷たい! 夏に重宝しますねえ」

「なかなか幸先がいいな。限界まで絞るとどの程度の水が産出できるんだ?」

「早速調べてみましょう!」

「やめて! 痛がってるわ!」


 アレッタの悲痛な叫びを聞いても、カロリーナはどこ吹く風といった調子だ。


「んー、でもぐったりして死にかけてるとかじゃないんですよね? ならこのまま様子をみましょう」


 だめだわ、カロリーナはプリーケを解放するつもりがないのね。ああもうっ、今すぐ止めたいのに上手く立ち上がれない!


 アレッタは立ち上がろうとするが、どうにも下半身が痺れたままで上手くできない。

 言うことをきかない足をズリズリと動かして、なんとか机までにじりよろうとするアレッタの行く手をロイスが遮る。


「ロイス、お願い! プリーケを解放して!!」

「何故ですか?」

「何故って……貴方には見えているでしょう!? プリーケは苦しんでいるわ!」

「確かにそう見えますね。けれど彼女だって、こうして役に立っているのですからよいのではないでしょうか」

「……なにを言っているの?」


 ロイスは氷のような笑みを浮かべて言い放った。


「役立たずのスケープゴートとして処分されてもおかしくないところを、このように有効活用してあげているのです。せいぜい精魂が尽きるまで実験に協力してもらいましょう」


 あまりにも心無い言葉を聞いて、アレッタはしばし言葉が出てこなかった。


「こんな……こんなの間違っているわ。やめて!」


 アレッタが振り絞るように叫んでも、ロイスはどこ吹く風とばかりにそっぽを向いた。テオドールとカロリーナも迷惑そうな顔をするだけだ。


「もー、アレッタ様? 今大事なところなんですから騒がないでくださいませ」

「そうだ、これは我が国の歴史に残る快挙だぞ? お前も貴族の一員であるなら、俺達の偉業に対してなにか言うべきことがあるだろう? まったく、本当に愚鈍な女だな」

「テオ殿下の言う通り、これは快挙ですわ! この魔法を発展させて妖精の魔法を人間が使えるようにして、ロストア王国を繁栄させましょう!!」


 カロリーナの青い瞳は夢と野望に燃えたぎっている。テオドールも満足そうに頷くばかり。


「アレッタ様もぜひご協力くださいまし。その妖精が見える目と妖精に好かれる体質を使って、たくさん魔法の素を集めてほしいのですわ」


 カロリーナの欲に眩んだ、それでいて無邪気なお願いをアレッタは一蹴する。


「嫌……嫌よ、絶対に嫌!!」


 妖精さんが苦しむのがわかっていて、誰が協力するものですか!


「ロイス! あなたはこんな風に妖精さん達を害するような実験に協力することが、本当にいいことだと思っているの? どうして!? ユースと一緒に夜遅くまで、妖精さん達のために仕事をしていたんじゃないの?」

「もちろん、我が国の妖精についてはそれなりに愛着はありますよ。ですが役に立たない者や人間界に移り住んだ妖精、それに他国の妖精がどうなろうとあまり興味はありませんね」

「なんてこと……ユースはきっと悲しむわ」


 アレッタは悄然とうなだれた。ピクリとロイスの口の端が動く。


「……言われずともそのくらいわかります。殿下と知り合って僅か一年にも満たない貴方より余程ね」


 ロイスは額に皺を寄せながら苦悩している。ロイスにとってもこのやり方は不本意らしい。


「しかしこうでもしないとあなたはまた魔力の豊富な森などに赴き、妖精の手を借りて殿下の元に戻ってしまうでしょう。それではせっかく引き離した意味がない」


 ロイスは初めて、アレッタを冷たい目で見下ろした。


「貴方は光も差さないこの地下で、誘蛾灯のように哀れな妖精をおびき寄せながら人間達に搾取されて生きるのがお似合いですよ。二度と殿下の元には近づかないでいただきたい」


 あまりに冷え冷えとした声音にアレッタはゾッとして身を竦ませた。憎しみすら感じられるその態度に疑問が胸の中に溢れる。


「どうしてそこまで……私、なにかロイスの気に触ることをしてしまったの?」

「強いて言うなら、貴方が人間であるという一点が気に障りますね。とても」

「ロイス……そんなにも人間嫌いになるには、きっとなにか理由があるはずよね。一体なにがあったの?」


 ロイスはそれには答えを返さず、アレッタからフッと視線を外した。

 二人が話しこんでいる間にも実験は続いていたようで、水の様子が変わってきたことにカロリーナは首を傾げている。


「あら、少し水の勢いが落ちついてきましたわね」

「そろそろ終わりか? それとももう少し出力を上げた方がいいのか?」


 テオドールとカロリーナは、彼らにとっては何も入っていないように見えるクリスタルを、チラリと目線で確認した。

 アレッタの目に映るプリーケは、クリスタルの中で息を乱しフラフラしながらも、懸命に透明な壁を叩き続けていた。


 ごめんなさいプリーケ、今助けるから……お願い私の足、動いて!!


 アレッタが再び動こうとした、その時。風のない地下の空間にフワリと花の匂いが舞いこんだ。


「な……そんな、早すぎる。ここには直接飛べないように細工を施したはずなのに」


 ロイスは狼狽しながら吹き荒れる花弁を散らそうとするが、花弁はどんどん収束するとあっという間に円の形になる。

 白と紫の花の間からアレッタの焦がれてやまない姿が見えて、アレッタは思わず叫んだ。


「ユース!!」

「アレッタ、無事か!?」


 アレッタが答えを返す前に、ルーチェ、マイム、それにジェレミーまで花の中から現れて次々に話しかけてくる。


「私も来たよアレッタ! 怪我はない?」

「アレッタ様! わわっ、人間がいっぱい……っ、ロイス様までいらっしゃいますよ!?」

「やあやあアレッタちゃん、この前ぶりだねー。ここが人間界かあ、なんか暗いし寒いね? 想像してたのと違うな……ってかアレッタちゃん縛られてる? わお、ロイスやること過激じゃん、これマジで敵対中なわけ?」

「みんな!」


 来てくれたんだ! ありがとう、本当に心強いわ!


「えっ!? 今のって、早速妖精が来たんですか? アレッタ様すごいですわ、流石ですわ!! それで妖精はどこなのでしょう、この辺りです!?」


 カロリーナは目を皿の様にしてアレッタの視線の先を追いかけた。

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