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26 手詰まり感

 ディナーの時間にアレッタとユースはいつものようにおち会った。いくぶん楽しそうな様子のアレッタを見て、ユースは安心せたようにフッと微笑んだ。


「マイムとは話ができたか?」

「ええ、元気そうで安心したわ」

「そうだな」


 ユースは言葉少なに肯定して食事を進めた。きっといろいろ考えることがあるのだろう。


 あまり首を突っこんでほしくないかもしれないけれど事件のことがやはり気になっていたので、これだけは聞いてみようと思ったことを口にする。


「あの、背の高い茶色髪の妖精が容疑者にあがっているって聞いて。ソルは大丈夫なの?」


 ユースはピタリと動きを止めた。


「……彼は今、宮殿で身柄を確保している」

「ええっ!? どうして?」


 ユースは苦虫を噛み殺したような顔をする。


「俺だって彼が事件を起こしたとは到底思えない。だが、彼の家から大量の痺れ毒と眠り粉が発見されたんだ」

「どうしてそんなもの……あ!」


 そっか、そうだわ。エストレアがこの前言ってたじゃない。夜の邪悪な私がやらかしたせいで毒薬の中で目が覚めたって。

 あの後ソルがエストレアから毒薬を回収して、それで家に保管していたんだわ。


 アレッタはそのことをユースに説明すると、彼は首肯した。


「ああ、アレッタも聞いたことがあったのか。それはソルとエストレアの証言とも一致するな」

「そうだよね。だからソルが毒薬を購入したわけではないし、彼が怪しいってことはないと思うな」

「それはそうなんだが他に怪しい人物が出てこない以上、彼を解放することは難しい」


 ユースは難しい顔で考えこんでしまった。

 そっか、そうだよね……なにか私にもできることはないのかな。


 思うように捜査が進まなくてユースも歯痒いのだろう。美しい顔が憂いを帯びている。

 これはこれでとてもカッコイイのだが、アレッタは彼の笑った顔の方がもっと好きだ。


 ユースはしばらく黙りこんだ後腕を組み直し、慎重に発言した。


「この事件、かなり手口が巧妙だ。犯人は幻惑の粉まで使ってメイド長を操っているが、茶色髪の背の高い妖精だという情報は覚えている。それはもしかして、意図的に残された情報なのかもしれない」

「えっと、どういう意味?」

「犯人は別の人物に見えるように振る舞っていたんじゃないか。例えば犯人は目立つ容姿で、他の人物に見せかけようとした。もしくは茶色髪の妖精に罪を被せるために変装して事に及んだ」

「実は犯人は茶色髪の妖精じゃないってこと?」

「ああ、俺はその線が高いように思う」


 うーん、でもそうすると背の高い妖精さんって事くらいしか確かな情報はないってことになるの? もしかしてそれすら偽の情報だったとしたら……犯人候補なんて、絞れないじゃない。


 手詰まり感があった。きっと犯人にたどり着くための大切な情報が抜けている。


「……ねえ。私、ソルに会うことはできる?」

「いや、一応最重要容疑者として勾留しているからな。今は遠慮してくれ」

「そっか……あ! そういえばエストレアは? ソルが見張りできない状態ならエストレアはどこにいるの?」

「彼女なら同じく城で身柄を預かって別の見張りを一時的につけている」

「エストレアに会うことは? それもダメかな?」


 ユースは難しい表情をしながらも、条件つきで許可を出してくれた。


「いや……そうだな、ルーチェとマイムを連れていくのであれば会ってもらって構わない」

「ありがとうユース!」


 食事を終えて立ち上がったアレッタは、ユースの席に回りこむと彼を背中から抱きしめた。


 ユースは苦笑しながらアレッタの腕に彼の手を置いた。


「すまないな、君を煩わせることになって。すぐに解決できればよかったんだが」

「ううん、気にしないで。確かにちょっと怖いけれど、こうなったのはユースのせいじゃなくて犯人のせいだもの。それにユースが守ってくれているから大丈夫だよ」

「君を直接的に守っているのはルーチェ達護衛だがな」

「でもその護衛を手配してくれたのはユースだし、私が安心できるようマイムを戻してくれたり、調査を進めたりいろいろしているじゃない」


 なんだか珍しく弱気なユースに、アレッタは心配になった。彼を上から見下ろしたアレッタはユースの瞼の下にある薄い隈に気づく。


「眠れてないの?」


 アレッタの視線に気づいたユースはバツが悪そうに視線を逸らす。


「……本当は別の妖精に事件の調査を任せるべきなんだが、俺のワガママで調査の主導権を握っているのだからな。少し忙しいがこれくらいはなんとかなる」


 朝晩いつもと同じように食事をとっていてくれたから今まで気づかなかったがずいぶんと忙しくしていたらしい。アレッタは遠慮がちに、彼の控えめに煌めくアッシュブロンドを撫でた。


「俺の推測が正しければ、あるいは……」

「なに?」


 とても小さな声でユースが何事かを呟いた。聞こえ辛くてアレッタが尋ねると首を横に振られた。


「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

「あんまり無理しないでね。なにか私にもできることがあったら遠慮なく教えてね?」

「こうやってアレッタの側にいるだけで充分癒されているよ。だがそうだな、アレッタからキスをもらえたらもっと元気になるかもしれない」


 アレッタの顔にかあっと熱が昇る。わ、私からキスをするの!?

 ユースが期待を込めた目で見つめてくるので、アレッタはなんとか返事をする。


「ええっ、そんな、恥ずかしいよ……」

「どうしても嫌なら諦めるが」

「嫌じゃない、嫌ではないのけして! うぅ……その、目を、つぶってもらえる?」

「こうか?」


 目を閉じるといつもの凛々しい印象が若干幼くなる。

 アレッタはドキドキしながら顔を近づけると、ユースの頬にチュッと触れるだけのキスをした。


 目を開けたユースと視線が絡む。アメジストの瞳はキラキラと楽しげに輝いている。


「口にしてくれるんじゃなかったのか?」

「そ、それは……また今度ね!?」


 アレッタが真っ赤な顔を逸らしながら叫ぶと、くつくつと押し殺したような笑い声がすぐ側から聞こえた。


「そうか、フフッ、楽しみにしている」


 ユースはとても嬉しそうに微笑むと、アレッタの唇にキスを送った。それだけで陶然とした心地になったアレッタは、文句を言いそびれてしまう。


 も、もうユースったら……

 アレッタの火照った顔は部屋に戻るまで治らなかった。

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