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21 ロイスの魔法

 一夜明けて、いつもより少し早い時間に目覚めた。

 アレッタは窓越しにバルコニーを見てそっと唇を抑える。


 私、ついにユースとキスしちゃった……はあ、好き……朝ご飯の時にまた会えるなんて幸せでどうにかなっちゃいそう。


 フラフラとバルコニーに歩みいでて、アレッタは朝の日差しを身体中で感じた。なんだか今なら羽もないのに空を飛べちゃいそう。


「あら? あの方は……」


 その時、中庭の小さな池に向かって手をかざしているロイスを見つけた。小さな池には見知った姿が浮かんでいる。

 テオドール殿下とカロリーナ様だ。その二人におもねるようにして追従するレベッカの姿が見えて、アレッタの浮かれた気分は吹っ飛んだ。


 急いで上着を羽織ってロイスの元に走っていく。ロイスはなりふり構わず駆けてくるアレッタに少し驚いたようだったけれど、にっこり笑って出迎えてくれた。


「おはようございますアレッタ嬢。朝早くにそんな格好でどうされましたか?」

「お、おはよう、ロイス。ごめんなさい、こんな、格好で……ふぅ……」


 改めて自分の寝巻きを確認したアレッタは自分でも相当あり得ないはしたなさ(・・・・・)だと思ったが、とにかく池に映った彼らのことが気になりすぎたので、息を整えて早速質問してみた。


「あの、先程の映像は、いったいなんなの?」

「先程のというとこれでしょうか?」


 再びロイスが池に手をかざすと、池の表面に第二王子とその新たな婚約者、そして妹の姿が浮かび上がる。


「やっぱりレベッカで間違いないわ」


 レベッカはなにやらカロリーナと親しげに笑いあっていて、テオドールがその二人に時々話しかけているようだった。声までは聞こえてこない。


「これは妖精の魔法で人間界を覗き見ているのです。人間界には殿下が時々立ち寄られるので、私も時々こうして人間界の王族の情報を集めているのですよ。愚王であったり戦争好きであったりすれば、殿下の身が危うくなるかもしれませんからね」

「そ、そう」


 それはなんとも素晴らしい忠誠心だと思ったけれど、アレッタは妹の様子を確認するのに夢中でろくに返事が返せなかった。


 レベッカ、元気そうでよかった。カロリーナ様とお友達になったのかしら、ずいぶん仲が良さそうだけど……心配だな。カロリーナ様はなにか目的があって私に近づいたようだったし……


「この王子は最近婚約者を変えたそうですね。もしかしてお知り合いですか?」

「あ、その、元婚約者なの……」


 ロイスはおや、と目を丸くした。アレッタの顔を改めて見て、得心したように顎に手を当てる。


「それは失礼しました。ああ、そういえば……言われてみると、前の婚約者だった方にそっくりというか、なるほどご本人ですね。服の雰囲気も表情も一変されていたので気づきませんでした」


 そ、そんなに地味で暗い雰囲気だったのかな、私。でも見方を変えれば今は明るくて幸せそうに見えてるってことだからいいことだよね。


「あの、ロイス。これってあなたの見たい映像が見られるってことなの?」

「ある程度はそうですね。ですが魔力の全くないところや人間界の王都付近以外はピントがあわせられないらしく、覗き見ることはできませんね」


 アレッタは期待を裏切られてガッカリした。妖精嫌いの父の屋敷にはきっと魔力はサッパリないだろうし、王都以外がダメであれば弟ケネットのことも知ることはできないだろう。


 ロイスはおっとりと首を傾げた。肩までの長い紫の髪がサラリと肩にかかる。


「どなたか様子をうかがいたい方がいらっしゃるのですか?」

「ええ、私の家族がどうしているのかを知りたくて……さっき映っていた黒髪の子は私の妹なの。だから他の家族の様子も見ることができたらなって期待しちゃっただけだから。気にしないで」

「アレッタ嬢は家族を大事にされているんですね」


 その口調が妙にしんみりしていたので、ロイスには家族がもういないだろうことに思い至ったアレッタはハッと口元を手で覆った。


「あ、ごめんなさい!」

「いいえ、なにも謝ることなどありませんよ。家族が大事だというその気持ち、私には痛いほどよくわかりますから……」


 そう言って黙ってしまったロイスは、池に映りこむ映像をジッと哀しげに見つめていた。なんと声をかければいいかわからなくなったアレッタも、池に再び視線を向ける。


 テオドール殿下とカロリーナ様はもうレベッカとは別れたらしい。二人でなにやら暗い部屋に入って行き、手のひらサイズよりも少し大きいクリスタル状の入れ物を見てなにやら話をしている。

 しばらくその映像が続いたが、やがて水の中に色が溶けていき見えなくなった。


「ああ、消えてしまいましたね。やはり朝のこの時間しか繋がらないようです」

「さっきの水晶みたいな入れ物、なんなんだろう」

「さあ……私にもわかりかねます。最近の人間界では妖精の魔法も当てにされなくなって久しいようですから、なにか新しい未知の力でも開発しようとしているのでは?」


 ロイスはお手上げだとでも言うように首を横に振った。


「もし気になるのであれば人間界に一度戻るのも手だと思いますよ」

「それはできないよ……お父様に今度こそ軟禁されてしまうわ」


 軟禁という物騒な言葉の響きに、ロイスは眉を顰めた。


「なにやら事情がありそうですね。なにかお困り事があるならなんでもご相談くださいね。例えば人間界に家族に会うために一度戻りたいなどとは、もし思っていても殿下には相談し辛いでしょうし」


 ロイスはシーッと人差し指をたててみせた。アレッタは肩を竦める。


「優しいのね、ありがとう。たぶん今の状況で人間界に戻ることはないけれど、お気遣い感謝するわ」


 ロイスはその答えに優しげな笑みを浮かべると、アレッタの瞳を覗きこんでくる。


「さてアレッタ嬢、そろそろお部屋にお戻りください。こんなところでそんな格好でアレッタ嬢と逢引を行なっていたと殿下に知られたら、いらぬ(りん)気を呼び起こしてしまいかねません。誰かに気づかれる前に、お早く」

「あ、そうね。誤解されたら大変だわ。私帰るね!」

「ふふ、焦って足など滑らさないようお気をつけくださいね」


 ロイスは優雅に手を振るとアレッタに背を向けて、ゆったりとした歩調で歩き去っていった。


 わあ、見習いたいな、大人の余裕。アレッタもなるべく楚々と見えるように気を使いながら部屋へと戻る。


 その途中にユースが中庭と反対側の庭園で、ルーチェとマイムとジェレミーを相手に何か話しあっているのを見かけた。


 どうしたんだろう? こんな朝早くにみんなでお話なんて。それにジェレミーが大人しくルーチェの前に留まっているなんて変な感じ。


 気になったので見にいきたかったが、さすがにこの格好でユースの前に出るのは恥ずかしい。


 アレッタは大人しく部屋に戻ることにした。幸いにも誰にも見つからずに部屋に戻ることができた。

 一息ついているとしばらくしてマイムがやってくる。


「おはようございますアレッタ様、本日もよろしくお願いします」

「こちらこそよろしくね、マイム。ところで今朝のことだけど、ユースとルーチェとジェレミーに会っていたでしょう? なにをしていたの?」


 マイムはキョトンと目を見張り、はわわと慌てだした。


「えっ!? 偶然会っただけですよ?」

「そうなの? ルーチェとジェレミーが一緒にいるなんて珍しいなと思ったのだけど」

「あ、アレッタ様こそ、こんな朝早くから部屋を出られたんですか? お召し物も着替えないうちに?」


 ギクリとアレッタの肩が強張る。どうやら藪蛇だったようだ。

 し、しまったわ。ロイスとこんな格好で会ったことをユースに知られたら、とても気まずい……


「ああ、あの、急に中庭に行きたいって猛烈に思ってしまって! でもこんな格好じゃ誰かに会ってしまったら恥ずかしいから、今後はやめるわ! べ、別に誰かに会ったとかそういうことは、その……とにかく今後はしないから、ね?」


 あはは、はは、と引き攣った笑いを返すアレッタ。下手すぎる言い訳を掘り下げることなく、マイムはにこりと微笑んだ。


「そうですね、とにかくお召し物を変えないことにはどこにも行けませんから、お手伝いいたします」

「ええ、そうしてもらえると助かるわ」


 そうして、アレッタもマイムも先ほどの話には触れることなく、衣装部屋にドレスを選びにいった。

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