9.
「悪いのは君だ。こんなことになったのは、全部君のせいだよ。僕が彼女を救うには、こうするしかないんだ!」
薄暗い部屋の中、婚約者であるメイソンが私に銃口を向けていた。
いつもと同じやり直し地点で、いつもと同じセリフをメイソンが言った。
しかし、今回の私は、いつもと同じように銃弾を避けるつもりはない。
私は、メイソンに背を向けた。
そして、うしろにあった大きな姿見を見た。
今まで感じていた違和感の正体を掴むためだ。
違和感を感じたのは、姿見を見た時と窓を見た時だった。
しかし、どちらもじっくりとは見ていない。
ほとんど一瞬しか見ていなかった。
私は今回、銃弾を避けるのをあきらめて、割られる前の姿見をじっくりと見ることに決めていたのだ。
そして、その結果は……。
「さようなら」
私のうしろから、銃声が鳴り響く音が聞こえた。
私はまた痛みを感じる間もなく、意識を失った。
*
何も見えない。
何も聞こえない。
私はまた、メイソンに心臓を撃たれて死んでしまった。
しかし、私は満足していた。
いや、もちろん、死んでしまったことには大いに不満を感じているけれど、それと引き換えに得られた情報には満足している。
あぁ、なんてことなの……。
私が思っているよりも、事態は複雑だった。
まさかこんな状況に置かれているなんて、思ってもみなかった。
こんなことになっているなんて、いったい誰が想像できるだろうか。
ついに、違和感の正体がわかったのだ。
どうしてメイソンは私の命を奪うのだろうと、ずっと考えていた。
死ぬたびに、いろいろと考えていた。
彼はローラを救うために私の命を奪ったのではないだろうか。
いや、それはありえない。
他にも何か、私の命を奪う理由があるのではないだろうか。
そんなことばかり考えていた。
しかし、私は何もかも勘違いしていた。
そのことに、ようやく気付いた。
姿見をじっくりと見て違和感の正体がわかった時、私はやっと理解した。
今ならわかる。
メイソンが言っていた「悪いのは君だ。こんなことになったのは、全部君のせいだよ。僕が彼女を救うには、こうするしかないんだ!」というセリフの、本当の意味が。
彼女というのは、誰のことなのか。
そして、君というのは誰のことなのか。
そう、私は勘違いしていたのだ。
どうしてメイソンは私の命を奪うのだろうと、ずっと考えていたけれど、まず前提が間違っていた。
メイソンが殺そうとしているのは、ある意味では私ではなかった。
姿見をじっくりと見た時、そこに映るのは当然だけれど私、クリスタ・ランドールだと思っていた。
でも、そうではなかった。
私がうしろからメイソンに撃たれた時、姿見に映っていたのは、ローラ・ペンドリーの姿だった。