8.
何も見えない。
何も聞こえない。
ああ、また、私はメイソンに心臓を撃たれて殺されたのね。
痛みを感じる暇もなく……。
でも、今回は新たな情報を得ることができた。
私がやり直す地点となっているあの部屋は、私の屋敷ではないということだ。
これがいったい何を意味しているのか、今のところはわからない。
しかし、手掛かりはある。
私が何度も感じていた違和感だ。
あの違和感の正体を突き止めることが、突破口になるかもしれない。
何度も同じ時に感じたのだから、気のせいということはない。
違和感を感じたのは、銃弾でバラバラに割れる姿見を見た時、逃げるために外に向かっている最中に窓を見た時だ。
しかし、姿見はほとんど一瞬しか見ていない。
銃弾でバラバラに割れたからだ。
窓に関しても同様で、私が撃たれたり、銃弾をよけるために伏せたりしたので、窓を見たのも一瞬だった。
姿見や窓をじっくりと見れば、私が感じた違和感の正体がわかるかもしれない。
そのためには、あの部屋から逃げることをあきらめるしかない。
しかし、私は死んでもやり直しができるので、また死んでしまっても、どうということはない。
……これは、少し危険かな。
命の重さの感覚が、おかしくなってきている。
いくらやり直しができるとはいえ、たった一つの大事な命だということを、忘れてはいけない。
心臓を刺されよ、なんて言っていられるのは、やり直しができるという、この特殊な状況だからこそだ。
そう、この状況は特殊なのだ。
決して、普通だと考えてはいけない。
これから何度繰り返すことになっても、命を軽く考えないように、注意しなければならない。
そういえば、私は命を失う時、痛みをほとんど感じる暇もなかった。
あれは、私が即死だったからだ。
出血多量で死んだのではなく、心臓を銃弾で射抜かれたことによるショック死だったからこそ、私は痛みを感じる間もなく即死した。
つまり、こう考えることができる。
メイソンは私に死んでほしいけれど、決して苦しめるつもりはない。
そう考えれば、辻褄があう。
私のことを憎んでいたり、恨みを晴らそうなんて考えていたら、簡単には殺さないはずだ。
少しでも苦しむ姿を見たいはず。
それなのに即死させるということは、やはり彼は感情で動いているのではなく、理性で動いている。
憎い相手を感情的に消すのではなく、不利益をもたらす相手を理性的に排除しようとしているように感じる。
目的のために私を排除しているのだ。
けっして、気が狂っているわけではない。
そして、彼の目的はすでにわかっている。
彼自身が言っていた。
彼女を救うため。
今のところ、彼女というのはローラだという説があるけれど、私はいまだに自分でも信じられずにいる。
とりあえずは、私が感じた違和感の正体がなんなのか、それを明確にしなければならない。
そのためには、確かめる必要がある。
己の命を犠牲にして……。
そしてついに、私は次のやり直しで、その違和感の正体を掴むのだった。