6.
さて、さっきまでは、メイソンの言っていたセリフである「僕が彼女を救うには、こうするしかないんだ!」というのが、私に対する説明だと仮定して思考していた。
体がなく意識しかない今の私は、思考するくらいしかすることがないのだ。
そしてその思考によって、もしあのセリフが私に対する説明なら、彼女というのは私が知っている人物のはずだ、という説が生まれた。
だって、いきなり彼女とか言われたのだから、そう考えるのが自然な流れでしょう?
例えば、いきなり友人に、「ほら、昨日のアレさ」なんて話しかけられた時、アレというのは、すでに二人の共通認識であるのが普通だ。
つまりメイソンは、いきなり彼女と言っても、私に通じると思って説明したのだ。
となれば、私もメイソンも知っている人物で、真っ先に頭に浮かぶ女性が、彼の言っていた彼女に該当する人物だと思われる。
そして思い浮かんだのが、彼の幼馴染であるローラという人物だ。
しかし、ローラがどのような人物なのか知っている私からすると、この可能性は限りなく低いと考えられる。
私を殺してまで救いたい人物が、ローラであるはずがない。
ということで、私はもう一つの可能性を検証してみた。
メイソンの言っていたセリフである「僕が彼女を救うには、こうするしかないんだ!」というのが、私に対しての説明ではない、という可能性。
つまり、あのセリフは、彼自身に言い聞かせていたものである、という可能性だ。
この可能性は、確かにある。
あの時のメイソンは必死で、自分に言い聞かせていたようにも聞こえた。
しかしこの場合は、彼の言っていた彼女というのが、私が知っている人物でも知らない人物でも不自然ではない。
つまり、彼女というのが誰なのか特定することは、困難だということだ。
限りなく可能性は低いが、メイソンの言っていた彼女というのは、暫定としてはローラということになる。
まったく信じられないけれど、あくまでも、今のところはそういうことになる。
そして、もう一つ気になることがある。
月明かりに照らされた時、彼は涙を流していた。
あれはいったい、どういうことだろう?
彼は気がおかしくなって、私を撃ったわけではないということ?
私が死ぬことを喜んでいるのでもないということ?
わからない。
わからないけれど、考えるしかない。
体のない今の私には、考えることしかできないのだから。
しかし、その考える時間も、無限にあるわけではない。
いつの間にか、次の周回での人生が始まっていた。