2.
「悪いのは君だ。こんなことになったのは、全部君のせいだよ。僕が彼女を救うには、こうするしかないんだ!」
私は、婚約者であるメイソンに銃口を向けられていた。
……え、ここから?
というのが、まず思ったことだった。
私はよく、フィクションの本を読む。
そして、そういう物語では大抵、人生をやり直すのは死んでしまった数年前とか、少なくとも数日前からだった。
それなのに私の場合はというと、死の数秒前!?
え、ちょっと待って。
全然心の準備ができていないのだけれど。
人生をやり直しになった時点で、いきなり銃口を向けられるなんて、そんなの想定していない。
もう少しなんというか、何気ない日常の場面からスタートすると思っていたのに……。
私は、どうすればいいの?
そういえば、フィクションの本に関連して、一つのある言葉が頭に浮かんだ。
それは、『心臓を刺されよ』という言葉だ。
これは物語の中に登場した名言で、目的を果たすためならば己の命を投げ出すことも厭わない、みたいな意味の掛け声だ。
まさに、今の私にピッタリの言葉だ。
私はこの状況から、絶対に生き抜いてみせる。
そのためなら、死をも恐れない。
一見矛盾した考えに思えるけれど、実はそうでもない。
今の私には、死んでもやり直しができるという前提がある。
何もしないよりは、何かして死んだ方がマシである。
私は一度死んでいるので、幸い一発目の銃弾が飛んでくる場所も、タイミングもわかっている。
避けるのは、そう難しくないはずだ。
私は、全神経を集中した。
「さようなら」
メイソンが呟いた。
ここだ!
このタイミングで、弾丸は私の心臓をめがけて飛んでくる。
部屋に、銃声が鳴り響いた。
私は身体をひねり、半身の状態になって弾丸を躱した。
私のうしろにあった大きな姿見がばらばらに割れた。
その姿見がばらばらに割れる様を見ながら、私は何か違和感を感じた。
いや、今はそんなことはどうでもいい。
優先事項は、なんとしてでもこの場から生き延びること。
とりあえず、なんとか銃弾を躱すことができた。
しかし、喜んでいる場合ではない。
まずは、あの銃を何とかしないと……。
私は勇気を振り絞った。
心の中で、おまじないを唱える。
心臓を刺されよ。
私はメイソンに向かって、一気に駆け出した。
彼は、銃弾をよけられたことに動揺していたのか、動くことができなかった。
私は彼の腕をつかんで、銃を奪おうとした。
しかし、彼が銃を握っている力はすさまじく、奪うことができない。
「離せ!」
メイソンが勢いよく腕を振り払う。
私はうしろによろめき、転ばないように踏ん張るのが精いっぱいだった。
再び、銃口がこちらを向く。
私は息をのんだ。
このままだと、また殺される。
私は、横にあった窓を見た。
ドアのところには、メイソンが立っているので、逃げ場はあそこしかない。
私は、窓に向かって走り出した。
しかし、部屋に一発の銃声が鳴り響く。
また、痛みを感じる暇もなく、私の意識は一瞬でなくなっていた……。