17.
(※メイソン視点)
「今日は晴れてよかったわね」
「ああ、そうだね。君と一緒に出掛けるのに、雨が降ったらどうしようかと思っていたよ」
僕は、婚約者であるクリスタと並んで街を歩いていた。
昨日は雨が降ったので、今日も雨だったらどうしようと思っていたが、幸いそんなことはなかった。
今日はクリスタと一緒に楽しい一日が過ごせると、そう思っていた。
しかし、雨は降らなかったが、意外なものが上から降ってきた。
突然、何かが割れる音が聞こえた。
上から降ってきたのは、花瓶だった。
危なかった。
もう少しで、僕かクリスタに直撃するところだった。
息を止めるほど驚いていたが、とりあえず無事だったので、大きく息を吐いた。
しかし、一つ気付いたことがあった。
「クリスタ! 足が切れているじゃないか!」
僕は屈んで彼女の足を見た。
僕は足がズボンで覆われていたので無事だったが、クリスタはそうではなかった。
彼女はワンピースを着ていたので、花瓶の破片が飛び散った時に、足が少し切れてしまっていた。
かすり傷程度だが、怪我をしたことに変わりはない。
「メイソン、あれ……」
クリスタの声を聞いて、僕は顔を上げた。
彼女は上を向いて、指をさしていた。
「何か、見えたのかい?」
彼女はすぐ側にある建物の三階部分の窓を指していたが、僕には何も見えなかった。
「すぐに見えなくなったけれど、花瓶が落ちてきてすぐに顔を上げた時、あそこにローラがいたわ」
「なんだって!? 彼女はまた、君に対して危険なことを……」
僕は駆け出した。
そして、ローラがいたという建物に入った。
クリスタを危険に晒すなんて、絶対に許さない。
いったい、何を考えているんだ?
彼女に抗議するつもりだった。
いい加減に、クリスタを逆恨みするのはやめろと。
しかし、彼女は見当たらなかった。
おかしい。
すぐにここまで来たはずなのに、彼女とすれ違いもしなかった。
人がそこそこいるから、見逃してしまったのだろうか。
……いや、違う。
すぐに僕は気付いた。
避難用の非常階段があった。
彼女は、ここから逃げたのだ。
今日という今日は、さすがに許せない。
彼女は先日、クリスタの飲み物に劇物を仕込んだ疑いがある。
証拠が不十分だったので起訴されなかったが、間違いなく彼女の仕業だった。
そして、今日のこれだ。
彼女をこのまま放置しておくわけにはいかない。
もう、イタズラというレベルでは済まされない。
このままだと、いつか本当にクリスタの命が失われてしまうかもしれないのだ。
そんなこと、あっていいはずがない。
「クリスタ、悪いけれど、今日のデートは中止にしよう。僕は、ローラに会いに行く。彼女はやり過ぎだ。今日はとことん彼女に抗議するつもりだ。彼女を説得して君のことをあきらめさせないと、いつか本当に取り返しのつかないことになってしまうかもしれないからね」
「わかったわ。気を付けて。無茶をしないでね」
「ああ……」
僕はクリスタに断りを入れ、ローラの住む屋敷へ向かった。
ここから地獄のような時間が続くことを、この時の僕はまだ知らなかった……。