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8.婚約者を守ろう

ふふっ。

ふふ、イヒヒッ。


ニヤニヤ笑うわたしを、兄が気味悪そうに見ているが、まったく気にならない。

「エリカ様、よろしゅうございましたわね」

優しく声をかけられ、わたしはさらにニヤニヤ度を深くした。


「義姉上、ありがとうございます」


優しく美しい義姉、ユディトにも、婚約者の件ではずいぶん心配をかけた。

こうして祝ってもらうと、今までの苦労が報われる思いだ。


居間のソファでくつろぎ、お茶を飲みながら婚約を祝ってもらうとか、至福のひと時である。


「ナーシル様は、もう還俗されましたの?」

「いえ、婚約発表が卒業の時になりますので、それまでは神官のままだそうです。ただ、還俗を前提として勤めておられるので、わたしが学園を卒業するまでの三ヶ月間は、どこかの戦地に飛ばされるとか、遠方の神殿に配属されるとか、そういったことはなくなるそうです」


そうなんですの、良かったですわねえ、とユディト義姉上が優しく微笑んだ。

ウフフ、へへへ、ありがとうございます!


わたし達とは対照的に、兄はどこか浮かない顔つきだ。

「アドリアン、あなたからもお祝いをおっしゃって。エリカ様の婚約が決まったというのに、そのような仏頂面をされて」

義姉に怒られ、兄は慌てたような表情になった。


「仏頂面など……、そうではなく、私は心配なのだ」

兄の言葉に、わたしと義姉は首を傾げた。


兄は、憂鬱そうな表情で続けた。

「ジグモンド様は、自分をコケにした人間を、決してお許しにならない。……王子がエリカを側室に望まれているのは、学園のみならず、王都中の貴族が知るところだ。にも関わらず、エリカは王子を袖にし、一介の神官と婚約した。……これが知れ渡れば、王子はいい面の皮だ」

そんなこと言われても。


「兄上は、ジグモンド様による報復を恐れていらっしゃるのですか?」

「いや。……ルカーチ家には、手出しはされぬだろう。私が心配しているのは、ナーシル殿だ」

兄の言葉に、わたしは目をみはった。


「なぜナーシル様を? 兄上のおっしゃった通り、ナーシル様は貴族ではなく、一介の神官にすぎません。ジグモンド様がわざわざ手出しされるような方では」

そもそも王族が神殿側の人間に何かしたりしたら、それこそ神殿vs王家の全面戦争になってしまう。

ジグモンド王子はサドではあるが、そんなこともわからないアホとは思えない。


「今はな。……ナーシル殿が還俗した後なら、ジグモンド王子が何か仕掛けても、神殿側は何も言うまい」

兄の言葉に、わたしと義姉は固まった。


ジグモンド王子、そこまで執念深いと思われてんのか。

しかしわたしも、王子の小姓に対する執拗な暴力を目の当たりにしている。


「え、あの、ちなみに、ジグモンド王子が報復するとしたら、どのような……?」

「そうだな。まず、還俗した後のナーシル殿の身の振り方にもよるが」

兄は難しい顔つきで言った。


「あれだけの腕があれば、騎士として取り立ててもらうことも可能だろう。レオンも心酔しているようだしな。……その場合、戦死する可能性の高い、激戦地の前線に送られるかもしれん」

えー!?

婚約直後に未亡人!? いや、まだ結婚はしていないけど。


「エリカ、おまえは第二王子の側室になりたくないから、婚約者を探していたのだろう。卒業時に婚約を発表すれば、第二王子からは逃れられる。が、その後はどうするつもりだ?」

兄が真剣な表情でわたしを見た。


「先ほども言った通り、ジグモンド様はルカーチ家に報復はできぬだろう。が、ナーシル殿は違う。卒業後、すぐにおまえが婚約を破棄すれば、ナーシル殿は神殿という後ろ盾を失い、ルカーチ家との繋がりも断たれた状態で、第二王子と対峙せねばならんだろう」

「婚約は破棄しません!」

わたしは思わず叫んだ。


「少なくとも、第二王子の脅威がなくなるまでは、わたしがナーシル様をお守りいたします!」


ナーシルが殺されるような事になったら、それは間違いなくわたしのせいだ。

わたしは第二王子から逃げるため、ナーシルは神殿から離れるため、互いに打算から婚約したわけだが、しかし、ナーシルは優しい人だった。

わたしと婚約したせいで、ナーシルを危険な目に遭わせたりしたら、悔やんでも悔やみきれない。


「神殿に参ります。兄上、一緒にいらしてください!」

わたしが立ち上がると、

「アドリアン、仕度をなさって。執事に馬車を用意させますわ」

義姉ユディトもすばやく援護してくれた。


「……わかった、行くよ、行けばいいんだろう……」

久しぶりの休日なのに……と弱々しくつぶやく兄を尻目に、わたしは拳を握りしめ、固く決意した。


絶対、ナーシルを、あのサディスト第二王子の餌食になんかさせない。

せっかくつかまえた婚約者というのを差し引いても、彼は人畜無害な、とても優しい人だった。

そんな人を、あの異常者の毒牙にかけてなるものか!


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