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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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45/55

45.わたしの大好きな王子様

その後、わたし達は広間でのダンスには参加せず、馬車で屋敷に戻った。


屋敷で待っていた父と兄に、事の次第を報告すると、兄は激怒した。

「なんということだ! 脱獄のみならず、エリカに危害を加えようとするとは! 幽閉など生温い、即刻処刑すべきだ!」


父は、何事か測るような眼差しでわたしとナーシルを見た。

「殿下は、どう思われますか? アドリアンの申す通り、処刑を王家に上申いたしますか?」

ナーシルはわたしを見た。

「エリカ様のよろしいように。私は、特に何も」


ナーシルの言葉に、わたしはにっこり笑った。

「わたしも、どうでもよろしいですわ。処刑など、望みません」

「しかし、それでは……!」

兄は食い下がったが、父に目顔で黙らされた。


「殿下のおっしゃる通りにいたしましょう。……まあ、そうですな、さらに警備の厳しい北方あたりにでも、移送させるのが妥当かもしれませぬ。前神官長の殺害に絡んだ、武器や奴隷の不法売買に関わった貴族達は、ほとんどが中央におりますからな。北方への流刑となれば、ジグモンド様へ手を貸せる者はいなくなるでしょう。王家に貸しも作れますし、なかなか良い手かと」

父は満足そうに頷いている。


ああ、そういうことねー。

でもナーシルは、王家に貸しとか、そんなことどうでもいいって思ってるんじゃないかな。

大事なのは、これからだよね! わたしとの、幸せと愛に満ち満ちた新生活だよね!


ナーシルは、妙にすっきりした表情で言った。

「それから、陛下が祝賀会で私におっしゃった件ですが。私に、コバスの姓を許す、という」

「おお、そのことでしたら、内々にルカーチ家にも打診がございました」

父がにこにこして言ったが、


「私は、コバスの姓は名乗りません」

ナーシルがあっさり言った。

「これからも、カルマンの姓を使います。……ただ、もし必要なら、コバスの姓は義父上のよろしいようになさって下さい」


ナーシル、義父上って言った!

浮かれるわたしとは別に、兄は困惑した表情になった。

おそらく陛下からの意向を受けて、王族としてのナーシルをルカーチ家に迎え入れる準備を密かに進めていたのだろう。


だが、ナーシルは淡々と言った。

「陛下は、コバスと名乗るのを許す、と仰せでした。使うように、というご命令ではありませんから」


その言葉に、兄は苦笑して言った。

「それはそうだろう。……よもや、王族の名を許されて尚、それを拒否されるとは、陛下も思われんだろうしな」

「ふむ」

父は、少し考え込んでいる。まあそれはそれで、と言いたげだ。何を企んでるんですか、あなたは。


「ナーシル殿下、では、こうされてはいかがでしょう?」

父がにこやかに申し出た。

「形式上、ナーシル・コバス殿下は、エリカ・ルカーチを娶り、公爵としてルカーチ家の所領の一部を管理するという体をとっていただきます。そして一方、ナーシル・カルマン殿は、エリカという娘を妻とします。カルマン夫妻は、冒険者として新しい人生を踏み出すのです」


ああー、肩書詐欺ね、つまり。

陛下には、ありがたく王族の一員として暮らしていますよ、という体をとり、実際には、冒険者として好き勝手に生きる、と。


王家の名前は、絶大な威力を発揮するカードだ。使いようによっては身を滅ぼしかねないが、捨てるには惜しい、と父は踏んだのだろう。


「ナーシル様、どうされます?」

嫌なら蹴っていいんですよ、と囁くと、ナーシルは小さく笑った。

「いえ。……それでは、義父上のよろしいようになさって下さい」

ナーシルの言葉に、父は満足そうに頷いた。


「ありがたき幸せ。……必ず、ナーシル殿下のお為になるよう、差配いたします」

ナーシルの為ってか、ルカーチ家の為でしょ。……とは思うが、わたしがナーシルと結婚する以上、ナーシルとルカーチ家の利害は一致する。父上もその辺は十分承知の上だろう。


「では、やはりナーシル殿とエリカは、冒険者として生活していくつもりなのか?」

兄がどこか寂しそうな顔で言った。


まあまあ。年に一回くらいは顔見せに来ますから。

あ、そう言えば。


「冒険者として、というなら、わたし達チームの名前を考えないといけませんね」

「名前……、ですか?」

ナーシルは小首を傾げた。


「冒険者がチームを組んだら、そのチーム名を登録するんでしょう? ギルドで、そう伺いましたわ」

疾風の影とか、女神の鉄槌とか、なんか恥ずかしい感じの名前を、ギルドの登録簿で見ましたよ!


ああ、とナーシルは頷いた。

「そう言えばそうですね。誰かと組むなど考えたこともなかったので、そこまで考えが及びませんでした。……エリカ様は、どのような名前がよろしいとお考えですか?」

ナーシルに聞かれ、わたしは少し考えた。


チーム名かあ。可愛い名前がいいな。わたしとナーシルのチームだから……。


「ナーたんとエリりん、はどうでしょうか?」

わたしの提案に、ナーシルは嬉しそうに微笑み、兄は噴き出した。


「ナーシル様、どうでしょう?」

「とても素敵だと思います」

「嘘だろ!?」

兄が速攻で突っ込んだが、ナーシルは目をキラキラさせてわたしを見ている。


「私とエリカ様、二人のチームだと、よく分かる名前ですね。とても可愛らしいですし」

「待て、待つんだナーシル殿! あなたは今、正気ではない! 恋に目がくらんでどうかしているのだ! そんな状態の時に、重要な決断を下すべきではない!」

失礼な。わたしとナーシルの名前をもじった、可愛いチーム名ではないですか。


「父上はどう思われます?」

わたしの問いかけに、兄が縋るような眼差しを父に向けた。

だが、父はあっさり言った。


「いいのではないか? 冒険者夫婦のチーム名に、品格などなくとも問題なかろう」

それはつまり、『ナーたんとエリりん』という名に、品格がないと言いたいのですか、父上。別にいいですけど。


「じゃ、問題ないということで! 明日にでもギルドに行って名前を登録してきましょう!」

「はい」

嬉しそうに頷くナーシル。わたしも嬉しいです。後ろで兄が何か言いたげな顔をしているがスルーだ。


色々あったけど、明日からわたしは平民の冒険者、ただのエリカになる。

でも、第二王子ナーシル・コバスの正室でもあるんだよね。いやー、想定外だったわ。

絶対、第二王子の側室になんかならない!って思ってたら、側室じゃなく、正室になってしまうとは。


「エリカ様?」

わたしを見つめ、優しく微笑むナーシルに、わたしも微笑み返した。


これからもよろしくね、わたしの大好きな第二王子様!


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― 新着の感想 ―
[良い点] お兄様、いい人や……好き…… お父様は子供の幸せを第一に考える人じゃないけど(貴族っぽい)、その分お兄様が、妹や妹の伴侶の事を心底思って考えてくれるのが良いですね。 だって、あのチーム名を…
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