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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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40/55

40.卒業祝賀会の準備(ナーシル視点)

エリカ様は、私を想ってくださっていた!

言葉だけではなく、きちんと行動でも示していただいたのだ、間違いない!


ああ、夢のようだ。今でも信じられない。


そうか、考えてみれば、エリカ様は貴族のご令嬢なのだ。

いかに婚約者とはいえ、相手をいきなり押し倒して襲うような、そのような事をなさるはずがない。

普通は、あのように接吻で想いを伝えるものなのだろう。


アドリアン様にも、ご迷惑をおかけしてしまった。

翌日、「エリカ様に、無事、口づけていただきました!」と喜んでお伝えしたところ、「そういうの、言わなくていいから!」と叫んで走っていってしまった。


そうだった、貴族とは、このようにあからさまに物事を伝えるのは、不躾にあたるのだったな……。所詮は平民育ちの無作法さで、アドリアン様を困惑させてしまった。申し訳なく思う。次は、婉曲にお伝えするよう、気をつけねば。


次といえば、またエリカ様に接吻されたら、私はどのように振る舞えばよいのだろう。

この間は、嬉しくて舞い上がってしまって、ついエリカ様を抱きしめてしまった。

エリカ様は怒らなかったけれど、不思議そうな表情をしていらした。私の振る舞いは、たぶん間違っていたのだろう。


でもエリカ様は、たいへんお優しいので、私を怒ったり罵ったりなさらない。私の背を優しく撫でて下さった。あの時は、幸せすぎて死ぬかと思った。


次は、エリカ様に完璧な行動でお応えしたい。

エリカ様にも私の想いが伝わり、満足していただけるよう、ちゃんと振る舞いたい。

しかし、どう振る舞うべきなのか、正しいやり方がわからなくて困っている。


アドリアン様ならお分かりだと思うのだが、あれ以来、アドリアン様は私を見ると走って逃げていってしまう。

そんなに私の行動は、非常識なものだったのだろうか……。

アドリアン様も寛大な方なので、私を非難するようなことはないが、もし私の行動でエリカ様に恥をかかせるようなことになったら、申し訳なくて生きていけない。


どうすれば良いのだろう。

アドリアン様は逃げてしまわれるし、まさかエリカ様本人には聞けないし、残るはレオン様だけだが、レオン様は、そもそも恋愛感情というものを理解しておられるのかどうか、そこからして甚だ疑問だ。


私がぐずぐず悩んでいる内に、あっという間に卒業祝賀会の日がやってきてしまった。


あれ以来、エリカ様は私に接吻しようとなさらない……。

やはり私の振る舞いが問題だったのだろうか。

もう、私に接吻したいとは、思われないのだろうか……。


こういう場合、私から「接吻してください」と申し出てもかまわないのだろうか? いや、それはいくら何でも図々しすぎるような気がする。

第一、「接吻したくない」と断られてしまったら? そんなことになったら、どうすればいい? 駄目だ、考えただけで泣きたくなる。これ以上考えるのはよそう。


「ナーシル様、ちょっとかがんでいただけます?」

エリカ様の声に、私ははっと我に返った。


目の前には、美々しく装ったエリカ様が、にこにこして立っている。

なんて美しい方だろう。そこにいらっしゃるだけで、光り輝いている。


私はうっとりとエリカ様に見とれながら、言われるがまま、背をかがめた。

エリカ様の手が私の右耳に触れた。カチリ、と金属をはめる音が聞こえ、


ちゅっ


なにか、なにか柔らかいものが、頬に触れた。


「えっ、エリ……、エリカさま……」

「はい、出来上がり! ナーシル様、鏡をご覧になって!」

私は言われるがまま、ぎくしゃくと鏡を見た。


鏡の中で、エリカ様と私が、仲良く並んで立っている。

私の右耳と、エリカ様の左耳に、おそろいの三日月型のイヤリングが飾られているのが見えた。


「可愛いでしょ? 最近、恋人同士で、おそろいのイヤリングつけるのが流行ってるって、ララに聞いたんです。だから、やってみたいなって思って」

恋人!!


エリカ様の衝撃の発言に、私は息がとまりそうになった。


恋人……、恋人!!

いや、だが私達は、考えてみれば、婚約しているのだ。恋人と称して、何の問題もない! 嬉しい!!

それに、それにさっきの、あの、ちゅっというあれは、多分、いや間違いなく、私の頬にエリカ様が口づけを……。


エリカ様が、私を恋人と呼び、頬に口づけしてくださった。

もう私に接吻をしたくないのかと思い悩んでいたが、そんなことはなかった。だって、私を恋人と……、ああ、私は幸せ者だ!


「……ナーシル殿、一応言っておくが、今日の卒業祝賀会、どうやら国王陛下がお忍びでいらっしゃるらしい。第一王女殿下の卒業を祝して、という名目だが、ナーシル殿にもお言葉があるかもしれん」

アドリアン様が何かおっしゃっているが、右から左に抜けていくようで、何の事だかよくわからない。


国王陛下がどうとか……、別にどうでもいい。目的は既に果たしているし、陛下にも、もう用はない。


それよりもエリカ様が!

私はエリカ様を見つめた。エリカ様が、私の恋人……。恋人が頬に、ちゅっと……。


エリカ様が、私の袖をそっと引いた。

「エリカ様……?」

「ナーシル様も、してください」

エリカ様が背伸びをし、私に左の頬を差し出した。


私も、とは。

つまり私にも、エリカ様と同じ行動をしろという事なのだろうか?

それは……、エリカ様と同じ行動とは、つまり、頬に、ちゅっと……?


エリカ様は目を閉じ、私に左頬を向けて待っている。なんて可愛らしい方だろう。

私はドキドキする胸をおさえ、エリカ様に顔を近づけた。

間違っていたらどうしよう、その時は死んでお詫びします、と心の中で謝りながら、私はエリカ様の頬に、そっと口づけた。


柔らかく、花のような香りがした。


「エリカ様……」

無性に胸が痛く、離れがたくて、私は無作法にもエリカ様を抱きしめてしまった。

怒られてもかまわない。今はとても、離せそうにない。


「ナーシル様」

エリカ様の両手が背中に回り、私を抱きしめ返してくださった。

どうしよう、嬉しい、どうしよう。


「……そろそろ出発しないと、遅れそうなんだが……」

アドリアン様が遠慮がちに何かおっしゃっているが、やはり右から左で、何をおっしゃっているのか、よくわからない。


エリカ様。

ああ、こんな気持ちは初めてだ。神官長がおっしゃっていた、人を愛する気持ちとは、このようなものだったのか。

生きててよかったと思うし、もう死んでもいいとも思う。

相反した感情に翻弄され、幸せなのに胸が痛く、泣きそうだ。


ああ、神様。


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― 新着の感想 ―
[良い点] かっわいいなぁ!
[一言] ナーシルが可愛すぎる 好き
[一言] たぶん今エリカの心の中では わ た し の 恋 人 が こ ん な に か わ い い い い い い ー!!!! と叫び狂ってるんでしょうなぁ……
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