表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/55

39.原因もわからぬまま問題解決(したのか?)

なんかナーシルの様子がおかしい。

ダンスの練習を始めてから、明らかに挙動不審になった。

ひょっとして、わたしとダンスの練習をするのが嫌なのかとも思ったが、どうもそういう訳でもないらしい。


最近は夕食後、来客がなければ屋敷の広間でダンスの練習をするようになったのだが、夕食の終わり頃から、ナーシルはそわそわしはじめ、何度もわたしを見るのだ。

ナーシルににっこり笑いかけると、真っ赤になって視線を外す。が、少しするとまたわたしを見る。そしてまたわたしが笑いかけ……のエンドレス。

同席している母と義姉は、それを見ておっとりと微笑み、父はニヤニヤし、兄はいたたまれない様子でワインをがぶ飲みしている。それぞれの個性が出た反応である。


うーむ。

わたしは、ガサツだとよく言われるし、自分でも、人の心の機微に疎いほうだと自覚している。


婚約者が、何かをわたしに訴えている。が、それがさっぱりわからない場合、どうすればいいのか。

単刀直入に聞いてしまいたいが、以前、それをやって女の子を泣かせてしまったことがあった。

その時、母上にしこたま怒られ、わたしは学習したのだ。


何事も素直に聞けばいいというものではない。人の心にある、含羞というものを理解し、婉曲に優しく、その意を汲み取らねばならないのだ……、めんどくさい!


だが婚約者が相手では、面倒だのなんだのと言って逃げてはいられない。

何とか対処しなければ。


とりあえず、ナーシルは恥ずかしがり屋なので、皆の前で問いただすようなことはしないほうがいいだろう。

わたしはダンスの練習の後、二人きりになる瞬間を狙い、問題を解決しようと試みた。


「ナーシル様」

「は、……はい」

やはりナーシルの様子はおかしいままだ。

わたしを見ることもできず、うろうろと視線をさまよわせている。ちょっと面白くて可愛い。これはこれでまあ……、いや、よくない。婚約者が悩んでいるのを、可愛いからといって放置はできない。


「ナーシル様、座って」

わたしは強引に、窓際の椅子にナーシルを座らせ、わたしも隣に腰かけた。

じっとナーシルを見つめると、ナーシルは真っ赤になってうつむいた。


「ナーシル様」

「………………」

「ナーシル様、わたしに何か、言いたいことがあるのでは?」

あ、ついクセで単刀直入に聞いてしまった。


ナーシルはうつむいたまま、硬直してしまっている。

あー、どうしよう。

「ナーシル様、その……、言いたくなければ、別に言わなくてもよいのです」

わたしはフォローしようとナーシルに声をかけたが、

「いいえ!」

ナーシルは意を決したように顔を上げ、わたしを見た。


「エリカ様、なぜ……、なぜエリカ様は」

「はい」

「だから、どうしてエリカ様は、私を……、なぜ」

何だ何だ、何が言いたいんだ?


ナーシルは目を潤ませ、真っ赤になってわたしを見ている。

必死に何かを訴えようとするその様子が、とっても可愛い。顔がいいからか、色気も半端ない。こんな顔して見つめられたら、男女関係なくナーシルに心を奪われてしまうんじゃないか。危険だ。


わたしはナーシルの頬に手をあて、じっとその顔を見つめた。

「エリ……、エリカ様……」

ナーシルは唇を震わせ、切なそうな表情でわたしを見ている。

わたしは誘われるようにナーシルに顔を寄せ、その震える唇に、ちゅっと口づけた。


あ、しまった。


慌ててすぐ顔を離したが、ナーシルはびっくりしたように目を見開いている。

あー、マズい。

神殿育ちの清純派に、いきなりキスとか、鬼畜の所業だよね。

「ナーシル様、その……、急にすみませんでした」

「……えっ!? いえっ!」

ナーシルは勢いよく首を横に振り、立ち上がった。そしてまた、すとんと椅子に腰を下ろす。


「エリカ様、その……、あの、今のは……」

「はい」

「今のは、つまり、その……」

「申し訳ありませんでした!」

わたしは潔く頭を下げた。


「ナーシル様があまりに愛おしく、つい、口づけてしまいました。驚かせてしまい、申し訳ありません」

「エリカ様……」

ナーシルが、震える声でわたしの名を呼んだ。


腕をつかまれ、顔を上げると、

「ナーシル様!?」

はらはらと涙を流し、ナーシルは泣いていた。


しまった、泣かせてしまった!

あああ、わたしってば、子どもの頃からまったく進歩していない!

今度は婚約者を泣かせてしまうとは!


だが次の瞬間、ナーシルはがしっと骨がぶつかる勢いで、わたしを強く抱きしめた。

「エリカ様……」

何がなんだかわからないが、とりあえず、泣いているナーシルの背を、よしよしとさする。

「エリカ様、それ、は……、ほんとう、でしょうか……?」

か細い声で、ナーシルが聞いた。


ん? 何のこと?

わたしがナーシルを見上げると、ナーシルは泣きながら一生懸命言った。

「私を……、愛しいと……」

ああ、それか、とわたしは頷いた。

「もちろんですわ。心からお慕いしております、ナーシル様」


わたしの言葉に、私もです愛しておりますエリカ様! とナーシルが応え、わたしを抱きしめる力を強くした。


……よくわかんないけど、ナーシル、喜んでる?

解決したのか、ナーシルの挙動不審の原因は?


うーん。

ナーシルは泣いてるけど、なんか嬉しそうだし、まあいいか。


しかしナーシル、めちゃくちゃ力が強い。兵士を跳ね飛ばしているのを見た時も思ったけど、見かけによらず、ナーシルって怪力なんだな……。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ