表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/55

37.本当の望み(ジグモンド視点)

生まれた時から、僕は父に疎まれていた。


メイドの噂話によると、母は、父上のお手付きとなった侍女を、宮廷から追い出したらしい。そのせいでバルバラ様は陛下に嫌われてるのよ、とメイドは訳知り顔でしゃべっていたが、さあ、どうだろうな。


夫の愛人を追い出すなど、そう珍しい話ではない。夫の権利が強い貴族の家であっても、それくらいで夫婦仲が破綻するようなケースは稀だ。

思うに、母は最初から父に嫌われていたのだ。

その執念深さ、残酷さを疎まれ、遠ざけられていた。侍女の件は、きっかけに過ぎない。


父は母を恐れ、疎んじていた。

そんな母にそっくりな僕を、どうして父上が愛してくださる訳があろうか。

最初からわかりきった話だ。


だが、王籍を剥奪されるほど疎まれているとは思わなかった。


「ジグモンド王子、陛下はたいそうお怒りでした。前神官長のみならず、血のつながった兄まで亡き者にしようとするなど、人間のすることではない、とおっしゃって」

日頃は温厚な騎士団長が、嫌悪もあらわに僕に言った。


「待て、それは何のことだ。神官長のことはともかく、兄とは、いったい……」


騎士団長は足を止めず、引きずるようにして僕を歩かせる。引っ張られるたび、きつく縛られた縄が肌に食い込み、痛みが走った。

夜目にも明るいこの道。いつ何時であっても、迷わずたどり着けるよう、魔法の明かりが照らすこの道は、罪人の塔への……。


「ご存じなかったのですか」

騎士団長は静かに言った。


「あなたがお尋ね者を使って殺そうとされた方、ナーシル神官は、血のつながったあなたの兄です」

母親はバルバラ様の妹君なので、従弟でもありますが、と騎士団長は続けた。


僕の兄だと。

母が殺そうとして果たせなかった、あの侍女の子どもか。


「……なんてことだ」

「王子」

僕は苦く笑った。


あの白豚神官、エリカの婚約者は、僕の血のつながった兄だったのか。

なんて皮肉な巡りあわせだ。

「……最初から、僕がこの手で殺しておけばよかった」


僕のつぶやきに、騎士団長がぎょっとしたように足を止めた。

「殿下、なんということを!」


どうした、何を驚く?

僕は父親から王籍を剥奪されるような人間、いや、人間ではない、と実の父親に罵られるような存在なのに。

まさか、僕が後悔して涙を流して謝るとでも思っていたのか?


僕は笑った。

笑い過ぎて、涙がこぼれた。


エリカ。

君は、僕の兄の妻になるのか。

母が死ぬほど憎み、殺そうとして果たせなかった女の子ども。僕の兄。


……そんなこと、許さない。

僕を忘れ、僕以外の男と結ばれ、幸せになるなど、絶対に許さない。


騎士団長に連れられてきた先は、予想通り、罪人の塔だった。

そこから延々と階段をのぼり、いい加減疲れた頃にたどり着いたのが、僕を収監する部屋だった。

窓は高いところに一つだけ、狭く鉄格子がはめられているため、脱走はできない。

自殺防止のためか、首を吊るせるような引っかかりも、先の尖った家具もない。


ふふ、と僕は笑った。


誰が死ぬものか。

こんなところで、誰にも知られずに、惨めに死んだりするものか。

どうせ死なねばならぬなら……、それなら、せめてエリカと一緒に死にたい。


母は、父の愛を奪った侍女を殺そうとして果たせず、僕はエリカを奪った兄を殺そうとして失敗した。

だが、今度は失敗しない。


こうなってみて、僕はやっと、自分の本当の望みがわかった。


僕は、君を殺したい。

一緒に死にたいんだ、エリカ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ