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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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35/55

35.ルカーチ家の厚遇

父は、ルカーチ家を挙げてナーシルを保護すると決めたようで、現在、ナーシルは屋敷の貴賓室に滞在している。

国王陛下への謁見も極秘に取りつけたらしく、そのとばっちりで、兄がすごく忙しそうだ。


わたしは今、屋敷から学園に通っているため、毎朝ナーシルと挨拶を交わし、朝食をとり、お休み前に、もう一度挨拶を交わす生活を送っている。

「学園では、何も問題はありませんか」

「ええ、第一王女殿下に守っていただいていますし、危険なことはありませんわ」

毎日ナーシルは、わたしを心配して同じ質問をしてくる。


ジグモンド王子は、あの襲撃の後、ずっと学園を休んでいる。

王子がどういう行動に出るかはわからないが、たとえ王子が破れかぶれになってわたしを襲ってくるとしても、さすがに学園でってことはないだろ、とは思う。

が、ナーシルに心配してもらえるのは嬉しいので、毎日同じ質問されても、まったく問題はない。


ていうか、内心、もっと心配して、もっとかまってかまって~!状態なので、自分の魔力量がジグモンド王子より多いとか、攻撃魔法ならたぶん王子よりわたしのほうが強いとか、そういう事実は伏せておく。


ナーシルは心配そうに眉を下げてわたしを見た。憂い顔も美しい。眼福です。

「私がお側にいて、お守りできればいいのですが……」

「わたしもナーシル様がいて下されば心強いですけど、さすがに学園に来ていただくわけにはいきませんし」

しかたないですね、と肩をすくめるわたしを、ナーシルがじっと見つめた。


「……よろしければ、私が護身術をお教えしたいと思うのですが」

「まあ」

わたしは少し驚き、ナーシルを見上げた。


お教えしたいって、それって二人きりで? 

まあ、あの恥ずかしがり屋さんが、こんな積極的に誘ってくださるなんて、嬉しいです!


ウキウキしながら、兄に見つからないよう私室にナーシルを引っ張りこむと、

「それではまず、人間の急所から説明いたします」

ナーシルはキリッとした表情で、人体の構造から説明をはじめた。


あ、そうなんだ……。本当に真面目なお誘いだったのね……。

こんな心汚れたわたしが、どうしてあの金鎖の魔道具の力を無効化できたんだろう。我ながら不思議です。



ナーシル先生に鍛えられ、だいぶ白兵戦の技術が向上した頃、父と兄に付き添われ、ナーシルが王宮へ上がることとなった。

当然、極秘に準備を進めなければならないため、ナーシルの身支度は事情を知るわたしと兄の二人で行うことになった。


兄の部屋で、あれこれ言い合いながら、ナーシルを着飾らせてゆく。

「剣帯を付けますの? ナーシル様は両刃斧を使われますけど」

「どちらにせよ、控室で武器は没収される。どうせ使えぬなら、見栄えのいい細剣のほうがいいだろ?」


あーだこーだ言いながら、ナーシルに両手を上げさせたり、くるっと回らせてみたり、何を要求しても、ナーシルは大人しく言いなりになっている。

ナーシルって我慢強い。わたしだったらとっくにキレて、もうドレスなんて着ない!とか叫んでるだろうし、兄だったら、もう勘弁してくれ!とか言って泣いてるだろう。


されるがままのナーシルに、わたしはだんだん楽しくなってきた。

極上の着せ替え人形で遊んでいるみたい。しかも、銀髪に紫の瞳、という自分にはない華やかな色味で遊べるのが、とてもいい。


「ナーシル様、髪を編んでもよろしくて?」

「ええ、どうぞ」

ナーシル、ほんとにまったく嫌がらない。もしわたしに奇天烈な髪型にされたらどうするつもりなんだ。他人事ながら、この大人しさは心配になるレベル。


「……ナーシル殿、嫌なら断ってもいいんだぞ」

兄が心配そうに言う。

そうか、兄もナーシルの素直さを心配してるのか……。いつの間にかナーシルは、レオンと同じく、兄の中の「面倒みてあげなきゃいけない枠」に入っているらしい。


「いえ、その……、エリカ様に、あの、触れていただくのは……、その、とても嬉しいので……」

真っ赤になりながら、小さな声で告げるナーシル。

ああ! 婚約者が可愛すぎてつらい!


わたしは唇を噛みしめながら、ナーシルのサイドの髪を細かい三つ編みに編み込んで、後ろで一つに束ねた。

「兄上、リボン!」

すかさず渡された紫色の別珍のリボンで、慎重に髪を飾る。三つ編み側に、わざと長めに残したリボンをたらし、完成!


「最高ですわ、お美しいですわナーシル様!」

「うむ、なかなかの出来だ。やったな、エリカ!」

兄と二人で、きゃっきゃしながらナーシルを褒めたたえる。


やー、ほんと、これは人間界に舞い降りた美神!

黒いマント、黒地に紫の刺繍がほどこされたサーコート、と暗めな色合いでまとめたにも関わらず、ちっとも地味に見えない。

逆に、銀髪に紫色の瞳という派手目な色が効果的に映え、とてもきらきらしい仕上がりになっている。

衣装を選んだ母上、さすがです、素晴らしいです!


ナーシルは照れたように頬を染め、わたしを見た。

「ありがとうございます……、エリカ様とアドリアン様のおかげです」

美神に頭を下げられる。恐れ多いです、神よ!


父が部屋に入ってきて、そろそろ時間だとわたし達に告げた。

「父上! いかがですか、ナーシル様は! とてもお美しいでしょう!」

わたしがふんぞり返って自慢すると、

「うむ」

父はさっとナーシルの前にひざまずき、その手をとって頭を垂れた。


「ナーシル殿下。月の精霊もかくやというお美しさ、まこと、御身をお守りできる栄誉に心震える思いです」

うーん。

立て板に水の褒め言葉に、わたしは少し顔をしかめた。


たしかに父上の言う通り、月の精霊みたいだって、わたしもそう思うけど。

父上が言うと、まるで安い口説き文句みたいで、なんだかなあ……。

貴族らしい口達者って、必ずしもいい事ではないんだな。心からの褒め言葉も、どこかウソくさく聞こえてしまう。

隣で微妙な顔をしている兄も、おそらく同じことを思っているのではなかろうか。


とにかく、わたしの大切なナーシル様を、よろしく頼みますよ、二人とも!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 兄妹が完全にナーシルを推すファンになってるのがありがてぇ…! 尊い…!って多分父も思っとるはず。
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