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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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32.王子の初恋(ジグモンド視点)

僕はイライラと窓の外を睨み、意味もなく部屋の中を歩き回った。

小姓が部屋の隅で身を縮め、僕の気に障らぬよう息をひそめている様子に、余計イラつく。


この無能者が。

一時の憂さ晴らしに、鞭で打つ等して楽しむ以外、何の使い道もない。


ああ、苛々する。


第二王子という貴い身分である僕が、目をつけた玩具に逃げられるとは。

いや、あの女は、もうすぐ手に入る。身の程知らずにも僕を袖にした代償は、じきにその身で支払ってもらおう。


僕はその瞬間を想像し、頬をゆるめた。


殺しはしない。

ただ、じわじわと苦しめ、いたぶり、苦痛に涙を流させるだけだ。

あの勝気そうな瞳が涙を浮かべ、這いつくばって許しを乞う姿を見るのは、どれほどの喜びだろう。


もうすぐだ。

もうすぐ、僕はあの生意気な女を手に入れることができる。


エリカ・ルカーチ。

由緒あるルカーチ家の令嬢でありながら、ちっとも貴族らしくない、風変りな娘だ。

僕が小姓を鞭打って楽しんでいるのを見ても、悲鳴を上げて逃げ出したりしない。

それどころか、倒れた小姓の手当をし、医務室にまで運んでいった。

エリカを手伝った少女ですら、恐怖に震えて「教師に伝えて、わたし達はもう、ここから離れたほうがいい」と訴えていたのに、それを宥めすかし、小姓を助けた。


なぜ小姓のような、つまらぬ卑しい存在を、そこまでして助けようとするのか。

僕には、さっぱり理解できない。まさか、貴族の義務とやらを守っているわけでもないだろうに。


それからというもの、僕は、エリカ・ルカーチの貴族としてはいささか型破りな行動から、目が離せなくなった。

とにかく、あの女は面白い。

子ども時代を領地で過ごしたせいで、貴族として物知らずなだけかと思ったが、一番親しい友人には、あのベレーニ家の娘を選んでいる。なかなか抜け目のないところもあるようだ。


血まみれの小姓に動じない度胸があり、大商会ベレーニ家と親しく付き合う打算も持ち合わせている。

それなら、僕の申し出にも、喜んで飛びつくだろう。

そう思って側室の話を持ちかけたのだが、エリカは一瞬の躊躇もなく、すぐさまそれを断った。

こちらの気を引き、条件を引き上げるつもりかとも思ったが、どうやらそうではないようだ。


僕以上の好条件を、いったいどんな奴が提示したというのだ?

僕は躍起になってルカーチ家周辺を探ったが、有力な情報はさっぱり出てこない。

が、ある時、エリカの兄、アドリアンの親友である、レオン・バルタの存在が急浮上してきた。


レオン・バルタ。

男爵家の跡取りという低い身分、魔力を一切持たぬ卑しい血筋でありながら、何故か騎士団長のみならず、王太子にまで気に入られている騎士だ。

なるほど、たしかに見た目は悪くない。

だが、レオン・バルタに関する調書には、すべて同じ記述があった。

いわく、『人の名前を覚えることができない』、『退学すれすれの学業成績』。

バルタ男爵家の長男は、脳みそまで筋肉でできた、阿呆のようだ。

まあ、所詮は男爵家、しかも養豚業でのし上がった卑賎の身。称号は貴族だが、中身は平民のようなものだ。


僕は、こんな男と比べられ、あげく袖にされたのか?

僕のどこが、レオン・バルタに劣るというのだ?


どうしても納得がいかず、さらに調べをすすめさせたところ、驚くべき事実が明らかになった。

なんとエリカは、平民、それも白豚神官と揶揄される、醜く卑しい一介の神官と、婚約を結んだというのだ。


バカな。

何故そんな、ふざけた真似を。


僕は混乱し、ついで怒りを覚えた。

よくも、このような仕打ちをしてくれたな。

僕の申し出を蹴り、一介の神官、それも白豚と呼ばれるほど醜い男と婚約するなど。

僕が、その醜い白豚神官にさえ、劣るとでも言いたいのか。

これが知れ渡れば、僕はいい面の皮だ。くそ!


僕は荒れ狂う心のまま、小姓を殴り、メイドを蹴りつけ、しまいには泣き言も言えなくなるまで痛めつけてやった。

これが父上の耳に入ればどうなるかなど、もうどうでも良かった。

どうせ僕は、生まれた時から父には疎まれている。元々あった嫌悪がさらに大きくなったところで、何の問題があろう。


どうせ僕は、誰にも愛されない。

ならばいっそ、とことん憎まれてやろう。

僕は、誰も僕を無視できぬほど、強大な力を手に入れてみせる。

エリカも、父上も、皆、僕を怖れるほどに。


そうして、僕は、今までなら見向きもしなかったであろう、バルトス男爵家との婚姻を決めた。

バルトス男爵は、まだ8歳の娘を僕に差し出すことに、何のためらいも覚えないようだ。

卑しい下衆だが、こういった手合いは、利益が得られる内は、決して相手を裏切らぬ。

僕はバルトス男爵を通じ、表に出られぬ無法者達との繋がりを得た。

ちょうどいい。この最低の下衆を使って、同じ下衆を始末してやろう。


目の前で婚約者を殺されれば、さすがにエリカも泣くだろうか?

傷つき、僕に縋ってくるだろうか。


僕は乾いた笑い声を上げた。


ああ、その時が待ち遠しい。

できればエリカの婚約者をこの手で殺してやりたかったが、まあ贅沢は言わないでおこう。

傷つき、恐怖に囚われたエリカを手に入れられると思うと、すべての屈辱、怒りが消えていくようだ。


それにしても遅い。

白豚を殺したら、すぐに戻って報告するように、と魔術師達に念を押したのに、あの下衆め、どこぞで酒でも飲んでいるのではないだろうな。


僕は、期待と少しの怒りを持って、窓の外をもう一度見た。

魔術師達はまだ来ない。

いつまで僕を待たせるつもりだ。


その時、慌てたように扉を叩く音が聞こえた。

誰何すると、バルトス男爵が僕に面会を求めていると言う。

まったく、やはり男爵など、平民と大して変わらんな。貴人に面会するのに、前もって先触れを寄越す程度の礼儀も持ちあわせていないのか。


僕は大きくため息をついたが、男爵への面会を許可した。

バルトス男爵は、まだ利用できる。なにか儲け話を持ってきたのかも知れぬし、話を聞くくらいはしてやってもいいだろう。


「で……、殿下」

転がるようにして部屋に入ってきた男爵は、髪が乱れ、汗だくの見苦しい様子をしていた。


僕は顔をしかめた。

こやつ、王族に会うために、身なりを整えることすらできんのか。

こんな礼儀知らずと姻戚になるなど、やはり早まっただろうか。


「殿下、大変なことになりました」

しかし、バルトス男爵は、僕の嫌悪の表情にも気づかず、口から泡を飛ばして言った。


「ま、魔術師達は、全員殺され、届け出が……、ギルドと、王都の警備隊両方へ、届け出が出されてしまいました。し、しかも、警備隊へ報告したのは、アドリアン・ルカーチ。あのルカーチ伯爵家、次期当主が、直々に訴え出たというのです!」


なんだと!



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