表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/55

30.私の女神(ナーシル視点)

エリカ様は、私のために人を殺した。


そうなるのはわかっていたのに、止められなかった。

エリカ様は、私に何と言われようが、私を見捨てて一人で逃げ出すようなことはなさらない。

だから、私がエリカ様をお守りしなければならなかったのに、それが出来なかった。

最後の兵士を殺し、エリカ様に駆け寄ろうとしたその瞬間、エリカ様はあざやかな手つきで魔術師の喉を掻き切っていた。


エリカ様の瞳は、輝いていた。

怒りに燃え、闇の中の炎のように、眩くきらめいていた。


なんと美しい人だろう。


私の胸は刺されたように痛み、言葉にできぬ苦痛と喜びが心を支配した。


エリカ様は、決してこの事を忘れないだろう。

初めて人を殺した時の恐怖と嫌悪は、その後どれだけ人を殺そうが、決して薄れず、消えもしない。

生涯、心を蝕むのだ。


私はずっと、エリカ様の心の中に残ることができる。

それが嬉しくてたまらず、同時にまた、苦しかった。


どうして私はこうなのだろう。

初めて愛した方を、幸せにすることもできない。

それどころか、貴族令嬢として何不自由ない生活を送られていたエリカ様に、人殺しまでさせてしまった。


あなたが殺したのではない、と私は必死に言った。

もう遅いのに。

きっとエリカ様も気づいている。何の意味もない慰めに、呆れて腹を立てていらっしゃるかもしれない。


エリカ様を見ることもできなかった。

こんな風にしたいのではない。エリカ様を守りたかったのに、できなかった。

しかも、それを私は喜んでいた。エリカ様が苦しみ、心に傷を負ったことがわかっているのに、それを嬉しく思っていた。

これでエリカ様は、私のことを忘れない。そう歓喜する自分に、吐き気がした。


「その魔術師は……、わたし達、二人で殺したのです」


エリカ様の言葉に、私は驚いてエリカ様を見た。

エリカ様は、私を真っ直ぐに見つめ、優しくおっしゃった。

「わたし達、戦って、お互いを守ったんです。……わたし、ナーシル様を守れて、嬉しいです。これからも、こんな事があったら……、わたしは迷わず、同じことをします」


私は自分を抑えられず、エリカ様を抱きしめた。


どうしてそんなに優しくしてくださるのだろう。

私は、エリカ様を守ることができなかった。

人殺しまで、させてしまったのに。


もう、エリカ様を騙すのは嫌だ。

たとえ失望され、罵られ嫌われても、これ以上、偽りの姿ではいたくない。

もうどうなってもいい。エリカ様になら、殺されてもかまわない。


私は八歳の頃から身に着けていた、母の形見の魔道具を取り去り、本当の姿をエリカ様にさらした。


もう、これで終わりだ。

何もかも、失ってしまった。

でも、最後にエリカ様に本当の姿を知ってもらえて、少しだけ嬉しい。

少なくとも一つだけ、偽りではない、真実を伝えることができた。それだけで、もう、満足だ。


と思っていたら、エリカ様は「ナーシル様が、何か隠してたことはわかってましたから。それに、そのお姿も、一瞬ですけど、何度か目にしましたし」と淡々とおっしゃった。


そう言えば、この魔道具は、心の強い者、純粋な者には、効力がおよばぬと聞いていた。そんな者には、八歳の頃から一度もお目にかかったことがないので、すっかり忘れていたが。


そうか……、だが、考えてみれば、当たり前かもしれぬ。

エリカ様は、私の知る限り、誰より心が強く、清らかで、美しい。

女神のような方なのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ