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3.優良物件?

「そういえば、エリー殿も、婚約者を探し回っていらっしゃるとか!」

レオンが元気よく言った。

「え……、ああ、ええ、まあ」

わたしは曖昧な笑みを浮かべ、レオンを見上げた。


もう少し言い方ってものが……と思ったが、レオンに多くを期待すべきではない。


「エリナ殿のおかげで、自分も婚約することができました! お礼といってはなんだが、友人を紹介させていただければと思うのですが」

なんですと!?


わたしは、爽やかな笑みを浮かべるレオンを見上げた。

キラリと光る白い歯が、いつも以上に輝いて見える。


レオン、天使。

エリナでもエリーでも、好きな名前でお呼び下さい、どうぞ! 筋肉バカなんて言ってすみません! あなたはマッチョな天使様!


「大変ありがたいお申し出ですわ! ぜひぜひ! そのご友人について教えて下さいませ!」

「おいエリカ、そんなはしたない……」

レオンの隣で兄がぶつぶつ言ってるが、気にしない。


兄のアドリアンは、学園卒業と同時にさっさと婚約を決め、昨春、めでたく華燭の典を挙げた勝者だ。義姉は淑やかで優しい、貴族女性の鑑のようなご令嬢である。

わたしやレオンのような婚活底辺戦士からすれば、兄は雲の上の存在すぎて、参考にもならない。容姿はわたしと瓜二つ、違いといえば瞳の色くらい(兄は緑、わたしは黒)と言われているのに、何故……。やはり性格が問題なのか。


「レオン様、その方のお名前は? 年齢は? 何をしてらっしゃる方ですの? 貴族、それとも平民? どちらでも構いません、何の問題もございませんわ。ただ……」


わたしは言葉を切り、レオンを見上げた。これだけは言っておかねば。

「わたし、優しい殿方でなければイヤなのです。使用人など、自分より弱い立場の者を虐待するような、そんな方は、どれほど地位が高く、財産をお持ちでも、絶対にイヤですわ」


断言するわたしに、兄アドリアンが憐みの眼差しを向けた。

兄は、ジグモンド第二王子の評判をよく知っている。さすがに妹をサディストに差し出すことに、思うところがあるのだろう。


「ああ、それならば大丈夫です」

レオンはにこにこと言った。


「あいつは、とても優しい男です。平民なのですが、俺よりよほどマナーもしっかりしてて、教養もあります。八歳で中央神殿に入り、ずっと神官として働いている、真面目な奴なんです」

へー。

なんか、かなり優良物件な匂いがするぞ。


「そうなんですか、神官様なんですね」

あまり信仰心のないわたしだが、婚約のためなら朝昼晩、食前食後にお祈りを捧げましょう、頑張ります!


「ただ、あいつは神殿から離れたいらしいんです。子どもの頃から神殿にこき使われて、いい加減、嫌気がさしたようで。還俗するには、実家からの要請が必要ですが、あいつは孤児なので、婚約するしかないんです」

なるほど、そういう事情かー。


ふむふむ、と納得するわたしの横で、兄が怪訝そうにレオンに言った。

「そんな神官、いたか? 年頃の、優しく真面目な神官など」

「いるぞ。アドも、戦場で一緒になったことがあったと思ったが」

覚えていないのか? と、事もあろうにレオンに聞かれ、兄は焦った表情になった。

ちなみにレオンは、兄アドリアンを『アド』と呼んでいる。何度も名前を間違われ、そのたび訂正するのに疲れた兄が、二文字ならばいけるだろう、と『アド』呼びを提案したのだ。それは成功し、レオンは兄を間違わずに『アド』と呼んでいる。


わたしも『エリカ』という本名にこだわらず、『エリ』と呼んでもらうよう、提案してみるかな、と思っていると、

「その神官の名は? 何と言うのだ?」

兄の言葉に、レオンが考え込んだ。


「あー、名前か……。何と言ったかな、たしかアドリー……、いや違う、エミール……、違うな、……うむ……」

顔をしかめ、必死に思い出そうするレオンに、兄が言った。

「そいつの特徴は? 髪や瞳の色、背の高さなどを言え」

「背は俺より高い。神官だが身体能力がかなり高く、扱いの難しい両刃斧を使いこなす。かなりの手練れだ」

「両刃斧……?」

不思議そうに聞き返した兄は、次の瞬間、驚愕の表情を浮かべた。


「お、おい、まさかそいつ……」

「髪は銀髪だ。それは見事な髪でな、瞳も美しい紫色をしている」

まあ、銀髪に紫色の瞳だなんて、おとぎ話の妖精のよう。ステキー!


テンションを上げるわたしをよそに、兄は急激に顔色を悪くした。

「銀髪って、まさかそれ……、ナーシル神官のことか……?」

「おお、それだそれ! ナルシーだ! アドはすごいなあ!」

既に名前を間違っているレオンに突っ込むこともなく、兄はわたしの視線を避けるように横を向いた。


……なに、なんなの。

兄のこの態度……、すっごく不安なんですけど。


わたしはレオンに向き直った。

「レオン様、確認なんですけど、そのナルシー……じゃなかった、ナーシル様は、お優しい方なのですよね?」

「はい!」

レオンはきっぱり言い切った。


「あいつは優しい奴です。身分の上下を問わず、傷ついた者を魔力の限り治療し、弱い者を庇って戦います。神官ですが、騎士の手本のような奴です」

「まあ……」

わたしはちょっと感動した。


筋肉バカのレオンにここまで言わせるとは、その神官、かなりの好人物ではなかろうか。


「わかりました!」

わたしは力強く頷いた。


「ぜひ、そのお方とお会いしたいと思います! レオン様、その神官様にお話を通して下さいませ!」

「お、おい、ちょっと待てエリカ」

「待ちません時間がないんです兄上!」

わたしは兄を怒鳴りつけた。


「兄上は、わたしがサドの餌食になってもいいとおっしゃるんですか!? 性格最悪の異常者のおもちゃにされて、鞭打たれて血を流しても、それでかまわないと!?」

「い、いや、それは……」

兄が口ごもる。


わたしはレオンに、きっぱりと言った。

「お願いします、レオン様! その方が還俗するため婚約者が必要だというのなら、それはわたしも同じこと! わたしも、平和な未来のために、何がなんでも婚約者が必要なのです! お願いです、その神官様とお見合いさせて下さいませ!」


兄の態度は気になるが、たとえどんな欠点があろうと、あの第二王子よりはマシなはず。

わたしは鼻息も荒く、レオンに見合いを要求したのだった。



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