29.第二王子は二人いる
その後、森の入り口で待っていたルカーチ家の馬車に、ナーシル、わたし、兄、レオンの四人で乗り、屋敷に帰ることになった。
「父上になんと説明すれば……」
頭が痛そうな兄を、レオンが心配げに見守っている。ご主人さまを気づかう、優しい大型犬って感じ。
わたしも少し、混乱気味だ。
いったん、状況を整理しよう、とわたしはナーシル関連情報について、つらつらと考えてみた。
まず、現国王には、三人の子どもがいる(公的には)。
上から順に、王太子殿下25歳、第一王女殿下18歳、第二王子殿下(ジグモンド様)18歳。
ここにナーシルが入ると……。
「ナーシル様、今さらで申し訳ないのですが、おいくつでしたっけ?」
向かい合わせに座るナーシルに聞くと、
「私ですか? 今年で20歳になります」
「まあ、わたしより2つ、年上でいらっしゃるのね!」
そうか、2つ年上なのかー。なんだか大人って感じ! かっこいい!
というのは置いておいて。
ということは、ナーシルが、まさかの第二王子ということか!
うわあ~……。
公的な第二王子は、ジグモンド王子。サディストロリコン逆恨み王子。
本当の第二王子は、ナーシル。恥ずかしがり屋で優しいわたしの婚約者。
なんか不思議な感じ。
わたしがナーシルを見ると、ナーシルが微笑んでわたしを見つめ返した。
「エリカ様? どうかなさいましたか?」
「いいえ、何でもありませんわ。……ただ、混乱してしまって。今までは、第二王子と聞くだけで気分が悪くなっていたのに、本当は、ナーシル様が第二王子でいらしたわけでしょう? あんなに第二王子から逃げ回っていたのに、結局はわたし、第二王子殿下と婚約をしていたのだと思うと、なんだかおかしくて」
「エリカ様……」
ナーシルがわたしの手を取った。わたしもナーシルの手をぎゅっと握り返し、ナーシルを見つめる。
「ナーシル様、わたし、ほんとに幸せですわ。ナーシル様の婚約者になれて」
「私も……、私のほうこそ」
ナーシルが真っ赤になりながらも、一生懸命言ってくれた。
「エリカ様と婚約できて、私がどれほど幸せか、とても言葉では言い表せません。このような気持ちになるなど、考えたこともありませんでした。ずっと一人で生きていくのだと、そう思っていたのに、エリカ様に一緒に生きていきたいと、そうおっしゃっていただけて、どれほど嬉しかったか……」
手を取り合い、見つめ合うわたし達に、兄が疲れたように言った。
「婚約者同士、仲が良いのは結構なことだが、エリカ、おまえわかっているのか? これが知れ渡れば、ただではすまぬ。おまえはともかく、ナーシル殿が冒険者として生きてゆくなど、到底無理だ。庶子とはいえ、王家の血を引く王子、しかもその容姿だ。加えてナーシル殿の武力、魔力、どれをとっても王家筋のどの男子より優れている。陛下が公に、ナーシル殿を第二王子として認知されれば、間違いなくナーシル殿の争奪戦が始まるぞ」
「まあ、兄上、わたしがナーシル様を奪われて、大人しくしているとでもお思いですか?」
わたしは、フッと鼻で笑った。
「わたしからナーシル様を奪おうとする輩など、誓って殺してやりますわ。ええ、どなたであっても容赦いたしません」
「そういう意味じゃない!」
兄は額に青筋をたてて怒鳴った。
ナーシルは嬉しそうに頬を染め、わたしを見ている。可愛い。
「ナーシル殿、冗談ではなく、この事が貴族に知られれば、大騒ぎになるだろう。貴殿はどうされたいと……、いや、そもそも何故、ナーシル殿は神殿から離れようと思われたのだ? レオンは、神殿にこき使われるのに嫌気がさしたのだろうと言っていたが、それだけではないのだろう?」
「……それについて話せば、私の事情にアドリアン様まで巻き込んでしまうことになりますが」
ナーシルの静かな返事に、兄は一瞬、うっと怯んだが、
「もうここまで来て、往生際の悪いことは言っていられん。どうせエリカは、何を言ってもナーシル殿との婚約を破棄したりはせぬだろうし」
「当たり前ですわ」
「なら、もう私も巻き込まれている。妹が第二王子の婚約者となったのだ。これはルカーチ家の問題でもある」
キリッと兄が宣言したところで、
「あ、アド、ギルドを通り過ぎたぞ! 今日あたり、リリー殿のカードが出来ているのではないか?」
レオンが窓の外を見て、兄の肩を叩いた。
「……そんなものは後で……」
「申し訳ありません、アドリアン様。襲撃についてギルドにも報告をしたいので、寄っていただいてもよろしいでしょうか?」
「兄上、ナーシル様もこうおっしゃってますし、早くギルドに引き返してください!」
寄ってたかってギルドギルドと合唱された兄は、疲れた顔で御者に引き返すよう、命じたのだった。
すみません、兄上。
でも、わたしのカード云々はともかく、ギルドに襲撃について報告しとかなきゃいけないのも本当なんで、我慢してください!




