表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

23/55

23.デートのはずだった

テーベの森は、王都の外れにある迷宮の外側に位置している。

その迷宮にはあまり強い魔物は出現せず、外側の森にも、ちょろちょろと弱い魔獣が出る程度で、冒険者成り立てレベルでも十分対応可なところだ。

ただ、木々が密集しているため昼間でも薄暗く、細い獣道だらけで迷いやすい。常に位置把握をしながら進む必要がある。


……というような情報を、狩りを始める前に、ナーシル先生がきっちり説明してくれた。

はい、よくわかりました、先生!


「そういう事なら、しばらく手をつないで歩いてもらえませんか?」

わたしが手を差し出すと、ナーシルは、えっ!? とわかりやすくうろたえた。

「迷ってしまったら、困りますから」

わたしはやや強引にナーシルと手をつなぎ、歩き出した。ちらりと横を見ると、ナーシルは頬を赤く染めてうつむいている。


「……イヤだったら、手、放します」

わたしがそう言うと、ナーシルは黙ったまま、きゅっとわたしの手を握り返した。まったく、可愛いにも程がある!


「ナーシル様、お話したいことがありますの」

こんないい雰囲気の中、出したい話題ではないが、早めに伝えておかねば。


わたしは手短に、ジグモンド第二王子の婚約についてナーシルに説明した。

「ナーシル様、身辺には十分にご注意ください。もしよろしければ、王都を出るまでルカーチ家に身を寄せていただいてもかまいません」

「それは……」


わたしはナーシルの手を強く握って言った。

「ジグモンド様は、こう言ってはなんですが、間違いなく異常者です。王族という尊い御身ではありますが、その行動には、品位のかけらもない。弱い者、抵抗できない者をいたぶって喜ぶ、下衆ですわ」

「……承知しております」


ナーシルは顔を上げ、わたしを見た。

「第二王子のことは、よく、存じております」

おや、と思ってわたしは足を止めた。


ナーシルは、どこか苦しそうな表情で続けた。

「……私は、ずっとエリカ様をたばかっておりました。私は、本当は……」

言いかけて、ナーシルはハッとしたように動きを止めた。


「ナーシル様?」

しっ、とナーシルが人差し指を唇にあてた。そのまま動きを止め、周囲の物音に耳を澄ませている。

わたしもナーシルにならい、周囲の気配を探った。なにか大物の魔獣でも現れたのかな、と思ったのだが。


――草を踏みしだく複数の足音、金属がこすれる耳障りな音がする。


わたしは首を傾げた。

他の冒険者たちが近づいているのだろうか。

だが、それにしては足音が重いような気もする。


「エリカ様」

ナーシルが、ほとんど唇の動きだけでわたしの名を呼んだ。

わたしはナーシルの唇に耳を寄せ、彼のささやき声を聞き取ろうとした。

「私が合図したら、逃げてください」

わたしは驚いてナーシルを見た。ナーシルは真剣な表情でわたしを見下ろしている。一瞬、その姿が二重にぶれ、いつかシシの森で見た、別人の顔になった。


「逃げて!」

ほとんど突き飛ばすように、ナーシルがわたしの体を後ろに押しやった。

「走ってください、振り返らないで!」

言いざま、ナーシルはその場から大きく跳躍した。

次の瞬間、さっきまでナーシルが立っていた場所に槍が突き刺さり、わたしは思わず声を上げた。

「ナーシル様!」

「走って、森を抜けてください、早く!」


前方に、明らかに冒険者とは様相の違う、鎖帷子を身に着けた兵士たちが数人現れ、無言でナーシルに斬りかかってきた。兵士たちは顎まで覆う鉄兜をかぶっているため、顔が見えない。

ナーシルは両刃斧の柄の中ほどを持ち、木々の間を縫うように動き、兵士たちと打ち合いをはじめた。ナーシルの力はすさまじく、一撃で兵士を吹っ飛ばしている。


と、兵士たちの後ろに、黒いローブを纏った人間が立っているのに気がついた。

魔術師だ、とわたしは直感的に悟った。


明らかに職業軍人らしい兵士たちと、魔術師が組んで襲ってくるなんて、どう考えても単なる野盗ではない。

いったい誰が、なんの為に。


その時、魔術師が風の攻撃魔法をナーシルに向けて打とうとしているのに気づき、わたしはとっさに魔術師めがけて短剣を投げつけた。

「ぐぁっ」

魔術師が低くうめき、肩をおさえて地面に膝をつく。


「この女!」

魔術師が憎々しげにわたしを睨み、途中まで詠唱していた風の攻撃魔法を、わたしに向けて放った。

「よせ、女は殺すなと言われただろ!」

兵士の一人が魔術師に叫ぶ。わたしはすれすれで攻撃魔法をかわし、地面を転がった。


魔術師は兵士に叫び返した。

「少々傷をつけるくらいはかまわぬ、との仰せだ! 要は殺さねばいいのだ!」


え。


続けざまに放たれる攻撃魔法をかわしつつ、わたしは魔術師の言葉を反芻した。

「女は殺すな」「少々傷つけるくらいはかまわぬ」


すっごくすっごく、そういうこと言いそうな下衆に、心当たりがあるんですけど!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ