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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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21/55

21.第二王子の婚約

廊下ですれ違いざまに、「応援しておりますわ」とささやかれた。

振り返ると、その女生徒は小さく会釈して去ってゆく。


最近、こんな事が増えた。

第二王子に睨まれるのを恐れ、表立った行動はできないが、なんとかわたしに好意を伝えようと、みなさりげなくわたしに接触をはかってくる。


「エリカってば、話を盛りすぎよ」

ララはちょっと呆れ気味だ。

ララには、最初から正直に婚約の経緯を話しているので、わたしが創作した盛り盛り恋愛小説に若干、引いているのだ。


「実際はお見合いなのに、偶然レオン様のご実家の庭園で出会ったことになってるし、あなたのほうから婚約を申し込んだことも、彼が魔獣の群れからあなたを守って戦いながら求婚したことになってるし」

「そのほうが、第一王女様とかに喜んでいただけるかなーって」

偶然の出会いから許されぬ恋におち、そして思いが深まりゆく中、命がけで自分を守ってくれる恋人に求婚されるなんて、乙女の夢でしょ。と言うと、ララは、確かに……と力なく同意した。


「なに、どうしたの、ララ」

「……なんか、そういうの、いいなあって思ったの。わたし、卒業後は許嫁と結婚が決まってるでしょ。それは納得してるんだけど、でもそういうの、憧れるなあって」

ララは幼馴染の子爵家次男と婚約しており、卒業後はその次男が婿入りし、商会の跡継ぎであるララをサポートしてくれる予定だ。

子どもの頃からの知り合いで、気心も知れており、その子爵家次男に不満はないが、ときめきもない、ということらしい。


「贅沢な話だって、わかってるんだけど。……なんか、こう、全然ドキドキすることもないまま、誰かに恋することもないまま、結婚するのかなあって思ったら、なんか……」

ララはため息をついた。

「ほんと、贅沢だよね。エリカがジグモンド様に目を付けられた時は、わたしは平凡でよかった、普通に婚約しててよかった、って思ってたんだもん」

ごめんね、とララに謝られ、わたしはびっくりした。


「ええ、なんで? 謝ることなんてないでしょ。わたしだって、ララの立場だったら同じ感想しかないよ。自分に幼馴染の許嫁がいて良かった!って、全力で神に感謝してたよ、きっと」

なんたって、相手はあのサディストだもんね。仕方ないと思うよ。


「……そういえば、そのジグモンド様だけど」

ララが声をひそめ、わたしを廊下の石柱の影に引っ張っていった。

「どうやら、婚約が決まったらしいわよ。父が話しているのを聞いたから、間違いないわ」

おおう。

あのサディストも、ついに婚約成立か。めでたい……と、言っていいのだろうか。特にお相手には。


「お相手は、どっかの侯爵家の姫君とか、隣国の王女様とか?」

「ううん」

ララは周囲を気にしながら、低い声で言った。


「それが、バルトス男爵家の令嬢とですって。しかも、お相手はまだ8歳で、学園に入学してもいないのよ」

うっ、とわたしは言葉に詰まった。


そ、それは……、突っ込みどころが多すぎないか。

いや、もちろん王侯貴族の婚姻に、年齢なんてほとんど意味はないけど。

でも、そういう年齢差のある婚姻は、だいたい王位継承者か、もしくは貴族なら家督を継ぐ者に限られている。第二王子にそうした政略結婚を強いる派閥などないだろうし、これは第二王子自身の意向が強く働いた婚姻と見ていいだろう。


第二王子……、サディストのうえにロリコンとか、もう何も怖いものはないですね。これ以上、下がりようがないと思っていた好感度が、さらに下がりましたよ。いや、お見それしました。


「それにね、エリカ。その男爵家が経営するバルトス商会って、聞いたことない?」

わたしは首を傾げた。

バルトス商会。いや、特に聞いたことはないけど、そんな大きな商会なのだろうか。


「あまり一般的には知られていないけど、ここ四、五年で急成長を遂げた商会なの。取り扱いは武器や防具、それも冒険者用というより、兵士用のものね。それから、人材斡旋業。ギルドみたいにあらゆる職種の人材を網羅しているわけじゃなくて、傭兵などの戦士限定の業者よ」

………………。

死の商人と、サディスト第二王子。不吉×不浄って感じで、できるだけこの組み合わせからは遠く離れた場所にいたいです。


「いや、なんか……、それってどうなの、第二王子が武器商人と姻戚関係になるなんて、ちょっとマズいんじゃない?」

「ジグモンド様は婚姻の際、臣籍に降下されると思うわ。もともと、王位継承権はお持ちではなかったし、王族の地位にしがみついても仕方ないもの。……ただ、お相手が男爵家だったのは、意外だったけど」

確かに。

第二王子、プライド高そうだもんね。わたしを側室に、って言ってたし、侯爵あたりか、もしくは外国の王族から正室を娶るものとばかり思ってたんだけど。


「……ひょっとしたら、第二王子がバルトス男爵家との婚約を決めたのは、エリカ、あなたとのことがあったからかもしれないわ」

ララが深刻そうな表情で言った。

「いや、なんでわたしが……」

「第二王子は、異常なくらいあなたに執着してたもの。でも、あなたは婚約者を見つけた上、第一王女殿下を味方につけたわ。もう表立ってあなたに手出しはできない。でも、あの第二王子が、このまま大人しく引き下がるなんて、とても思えないわ」


わたしは、第二王子のセリフを思い出した。


――卒業までの三ヶ月間、楽しい学園生活を送り、何事もなく、無事に、婚約することを祈っている。


バルトス商会という、怪しげな死の商人と手を組んだ第二王子が、もしわたしに報復するとしたら、何をする?

わたしに手出しできないなら、そこはやはり、地位を持たぬ平民の婚約者に狙いを定めてくるんじゃなかろうか。


わたしは唇を噛んだ。

あー、もう、ここ最近、気が緩みすぎだった。

ここらで一回、気合を入れ直し、あの最低サディスト第二王子への対抗策を考えねば。

第二王子が、ナーシルについてどこまで情報を得ているのかは知らないが、とにかく、その身の安全だけは、必ず守ってやらねば。


「せっかく見つけた婚約者に、手出しなんかさせないんだから」

「エリカ、気をつけて。相手はサドの上、ロリコンよ」

「うわー、改めて気持ち悪い」

わたしはぶるっと体を震わせた。


「真面目な話、バルトス商会は危険だわ。私も調べてみるけど……、エリカ、無茶はしないでね」

「わかってる、ありがとう」


わたしは、心配そうなララに、力強く頷いたのだった。



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