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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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16.わたしの未来とルカーチ家の事情

テハを2羽、ヒウサギ1羽、クロトカゲ3匹を昼前に仕留めることができた。

わたしが関わったと言えるのはテハ1羽とクロトカゲ2匹だ。

冒険者初心者としては、中々の出来ではなかろうか。


「エリカ様は、魔獣を察知される能力が非常に高いですね。その場に必要な魔法を瞬時に理解し、使用することがお出来になる。素晴らしい才能です」

ナーシル先生の手放しの賞賛に、わたしはエヘエヘと喜びまくった。

「わたし、冒険者に向いてるでしょうか」


わたしの言葉に、何故かレオンが力強く頷いて言った。

「ああ、リリー殿は冒険者に向いている。きっと大成されるだろう」

兄が驚いたようにレオンを見た。


「え、レオン、ほんとにそう思うか?」

「ああ」

レオンが頷く。

兄は複雑そうな表情でわたしを見た。


「まあ……、たしかに、宮廷に出仕するよりは、冒険者のほうが向いているかもしれんが……」

「アドリアン様、エリカ様は伯爵家のご令嬢です。ご両親も、まさか本気で冒険者にさせようなどとは思われますまい」

ナーシルの言葉に、わたしは肩をすくめた。兄も言葉に詰まっている。


「……ナーシル様、両親は、わたしの選択に異を唱えたりしませんわ。ルカーチ家は、廷臣として王に仕える一族ではありませんから。過去、宮廷に所属せぬ魔術師や、海を渡った冒険者を輩出したこともあります。さすがに女の身では、初めてでしょうけれど」


現在の王朝が興る以前から、ルカーチ家は己の領地を守り、そこを治めてきた。王家に忠誠を誓ってはいるが、それは領主として、王家と契約を結ぶのに近い。廷臣として王家に命を捧げるのとは、訳が違うのだ。


貴族としては珍しいが、似たような家は他にもある。

ララの実家、ベレーニ家がその好例だ。ベレーニ家は領地をもたないが、その代わり、商人として巨大な人脈を作り上げた。国内のみならず、海の向こうの大陸まで主要な物流網を構築した。そのため、ベレーニ家も王家に対する態度は、取引相手のそれだ。


廷臣として主を戴いているのではない。それぞれに利点があるからこそ契約を結び、それに従って忠誠を尽くしているだけである。王家との間に問題が生じれば、契約を破棄することも可能だ。


そうした貴族は、王家とはつかず離れずの距離を保っている。時に娘を側室として王家に差し出すこともあるが、それはあくまで家門にとって旨みがある場合に限られている。王家の命じるがまま、這いつくばって言いなりになるのではない。


両親がわたしにある程度の自由を許したのも、そのためだ。

第二王子の能力と血筋を評価しながらも、品性の下劣さや人望のなさを秤にかけ、わたしが婚約者探しに動くのを許した。

第二王子の妨害を跳ねのけ、自力で婚約者を見つけるほどの才覚がわたしにあるなら、それを認め、できないのなら第二王子に嫁がせて王家に恩を売る。ルカーチ家にとっては、どちらに転んでも損のない取引だ。


「両親は、わたしがナーシル様を婚約者としたことを、評価してくれていますのよ。学園卒業後、冒険者となることも伝えました。両親は、大っぴらに手助けできない代わりに、経済的に苦しくなった時のためにと、宝飾品を用意してくれました。わたしに投資してくれたのですわ」

わたしの話に、ナーシルは驚いた表情になった。

彼の考える、典型的な貴族とはまったく違う在りように戸惑っているのだろう。


わたしはナーシルに、にっこりと微笑みかけた。

「ナーシル様、わたしはナーシル様の婚約者になれて、本当に幸運だったと思っております。優しい殿方と婚約できた上、貴族女性としての面倒なしがらみから解放されたのですもの」


貴族女性は走ってはいけない、攻撃魔法を使ってはいけない、あれをするなこれもダメ、という制約だらけの生活には、いい加減うんざりしていた。

それが生涯続くのかと、半ば絶望していたところに、冒険者という考えもしなかった未来が開けたのだ。代償は、どこかで野垂れ死にするかもしれないというリスクだが、それも第二王子の玩具として鞭打たれる毎日を思えば、喜んで受け入れられる。


たしかに最初は、第二王子から逃げるためだけの婚約だった。

正直、相手は誰でもいいと思っていた。その場しのぎの、破棄前提での婚約だからだ。


でも、今は違う。

ナーシルがどう思っているのか、いまいち良くわからないが、少なくともわたしは、ナーシルと婚約できて、本当に良かったと思っている。

今さらではあるが、できれば、結婚を前提とした、本当の婚約者になってほしい。


「ナーシル様」

わたしがじっと見つめ、名前を呼ぶと、ナーシルはびくりと肩を揺らした。


「は、……はい」

震える声でこたえるナーシル。

いつも思うのだが、ナーシルは、何故かわたしを恐れているような気がする。なんでだ。


「わたしは学園卒業後、婚約を破棄せず、ナーシル様とともに冒険者として生きてゆきたいと思っております。もしナーシル様がそれを望まれないのなら、そうおっしゃって下さい。無理強いはしませんわ。自分を嫌う方と無理に一緒にいても、辛いだけでしょうし」

「そんな」

ナーシルは、慌てたように言った。


「嫌うなど、そんな、まさか」

「ナーシル様」

わたしがナーシルに近寄り、その手を取ると、ナーシルは真っ赤になった。


「わたしがナーシル様のお傍にいても、かまいませんか? お嫌ではありませんか?」

「嫌などと……、そんな、そんなことはありません。あり得ない」

ふるふると、必死に首を振るナーシル。

なんでこんなにわたしの婚約者は可愛いのか。外見、巨デブの白豚なのに、なぜこうもきゅんきゅんさせてくれるのか。どうしてくれよう。


「ナーシル様……」

「エリカ様……」

手をとりあい、見つめ合うわたし達に、能天気にレオンが声をかけた。


「テハとヒウサギを昼食用に解体したいんだが、手伝ってもらえるだろうか?」


レオンの言葉に、ナーシルが我に返ったようにパッと手を放すと、真っ赤な顔のまま、すすすと後ろに下がってしまった。


おのれレオン。

この甘酸っぱい空気を、よくもブチ壊してくれたな。お見合いの功労者でなければ、おまえを解体してるところだ!



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― 新着の感想 ―
[一言] レオン可愛い(不覚じゃ) そうか、おバカな女子を愛でる男ってこんな感じなのか。
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