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【書籍化】第二王子の側室になりたくないと思っていたら、側室ではなく正室になってしまいました  作者: 倉本縞
本編

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11/55

11.あなたと一緒に

「……私の子ども時代は……」

ナーシルが言いかけた時、


「ああ、ここにいたのか! やっと着いた、ああ、疲れた!」

兄アドリアンの声が後ろで聞こえた。


振り返ると、兄は、疲労困憊の体で草むらに座り込んでいた。


「アドリアン様、大丈夫ですか?」

ナーシルはオロオロと、座り込む兄に手を差し伸べた。

「兄上、もう少し体力をつけられたほうが宜しいのでは?」

「おまえという奴は……」

わたしの言葉にぶつぶつ文句を言いながらも、兄はナーシルの手を借りて立ち上がった。


「ありがとう、ナーシル殿。……おや、何か良い匂いがするな。何か仕留められたのか?」

「ヒウサギだそうです。わたしは先ほどお誘いいただいて、ご相伴にあずかることになりましたの」

「……………」

兄が何か言いたげな視線をわたしに向けたが、気づかぬふりでにっこり笑うと、ため息をつかれた。


「……しかたない、それでは私も一緒に……」

「いえ、兄上までご一緒されては、レオン様とナーシル様の召し上がる分がなくなってしまいますわ。兄上はご遠慮なさってくださいまし」

「そんな……」

絶望の表情を浮かべる兄に、ナーシルが慌てたように言った。


「あの、よろしければ、アドリアン様もぜひ、お召し上がりください。お口に合わぬかもしれませんが……」

「ありがとう、ナーシル殿」

兄がフッと勝ち誇った笑みを浮かべ、わたしを見た。小癪な。


「自分が食べた分は、自分で補充するべきですわ。兄上、ヒウサギをもう一羽、狩ってくださいませ」

わたしの言葉に、兄が明らかに焦った様子で言い返した。

「そ、その言い分でいけば、おまえもヒウサギを狩る必要があると思うぞ」

「わたしはナーシル様の婚約者ですもの。婚約者同士は一心同体! ……ですけれど、必要とあらば、わたしも狩りをいたしますわ」


狩りなんて子どもの頃、少しやっただけだが、とても楽しかった。

罠を仕掛けるのも、飛ぶ鳥を射落とすのも、わたしはとても得意で、仲間の誰よりも多く獲物をしとめることができた。


「焼けたぞ! ……と思うんだが、ナンシー殿、確認していただけるか?」

レオンが少し自信なさげにナーシルに声をかけた。


「レオンは、ずいぶんナーシル殿と親しくなったようだな」

兄が感心したように言った。

「名前は間違ってますけどね」

わたしの指摘に、兄は肩をすくめた。


「そこはレオンだ、仕方ない。……だが、レオンはああ見えて人を選ぶ。どれほど剣技が優れていても、心根の卑しい者とは、決して親しくなろうとしない。……ナーシル殿は、間違いなく素晴らしい人物だ。体型は、まあ、アレだが、おまえはいい婚約者を選んだようだな」

「わたしが選んだんじゃなくて、お願いして婚約者になっていただいたんですよ。……それに、その理屈でいくと、兄上も素晴らしい人物ってことになりますけど、それはどうなんですかね」

言ったな、と兄に頭を小突かれ、わたしは笑った。


ああ、本当に楽しい。

第二王子に目をつけられてから、たまりまくった鬱屈が晴れていく心地がする。


肉は無事、焼けていたようで、ナーシルが器用に短いナイフで肉を切り分ける。

「ど……、どうぞ」

ナーシルが遠慮がちに、こんがり焼けたモモ肉を差し出してくれた。

遠慮なく受け取り、かぶりつく。


「おいしい! ……ですわ! 塩だけでなく、香草も使ってますのね!」

わたしの言葉に、ナーシルがほっとしたように笑顔を見せた。

「良かった。……ええ、これにはシシの森で採れるメノーを使っていて……」

嬉しそうに説明するナーシルの姿が、一瞬、認識阻害をかけられたようにぶれて見え、わたしは目をパチパチさせた。


「……エリカ様? どうかなさいましたか?」

「あ、いえ、何でもないです、大丈夫」

心配そうにこちらを見つめるナーシルに、わたしは慌てて言った。


……一体、なんだろう、さっきの映像は。

一瞬だが、ナーシル神官の姿がまるで……。


「おお、これは旨い!」

レオンが大声を上げ、ヒウサギの肉に舌鼓を打った。

「行軍中の食事も、これくらい旨ければなあ」

「あれは当たり外れが激しいからな」

レオンの言葉に、兄がうんうんと頷きながら渡された肉を頬張った。


「ナーシル様は、野外での調理に慣れていらっしゃいますのね」

わたしの言葉に、ナーシルが苦く笑った。

「そうですね……。いつも戦場にいましたから、自然と慣れてしまいました」

「あ、ああ、そうでしたの。あの、でも、これからは冒険者におなりになるのでしょう? それなら、その技術は、ナーシル様にとってかけがえのない財産となりますわ」

おいしい料理は大切ですもの! と言うと、ナーシルは驚いたようにわたしを見た。


「私の、財産……」

「そうですわ。獲物を狩る技術、調理する技術、すべてがナーシル様の今後のお役に立つことでしょう。どなたかと組んで行動されるとしても、きっとそのお相手も喜ばれますわ」


わたしの言葉に、ナーシルはぶんぶんと首を横に振った。

「私などと、組んでくださる方はいません」

「まあ、そうですの?」


わたしは少し考え、ナーシルに言った。


「それなら、ナーシル様、わたしと組んでいただけますか? ……わたし、ナーシル様と一緒に、冒険者になりたいと思います」

は!? とナーシルと兄が、驚愕の表情でわたしを見た。


「楽しそうですな! 俺もぜひ、ご一緒させてください!」

レオンの言葉に、兄が慌てて「おまえは騎士だろ!」とツッコミを入れた。


「騎士だと、冒険者にはなれんのか?」

「なれるわけないだろ!」

「休日だけなら、よろしいんじゃありません?」

わたしが口を出すと、おまえは黙っていろ! と鬼のような形相で兄が言った。


「万が一にも、レオンが騎士団をやめるようなことになったら、騎士団長に私が殺される!」

兄上、なぜかレオンの保護者と見なされてますもんね。


「じゃ、やっぱりわたし達二人だけで冒険者になりましょう! よろしくお願いしますナーシル様!」

「えっ、え? は、はい……」

脂で汚れた手をドレスの裾で拭き、ナーシルに差し出すと、ナーシルはうろうろと視線をさまよわせてから、そっと手を重ねてくれた。

頬を染め、うつむくナーシルに、わたしはニヤニヤした。


なに、ちょっとこれ、可愛い。

わたしの婚約者、可愛いんですけど!


「おまえら勝手に話をすすめるな!」

兄が怒鳴っているが、気にしない。


フフ、わたしは婚活の勝者。恐れるものなど、何もない!


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― 新着の感想 ―
お嬢様、ハンカチというものは持っていらっしゃらないのですか…? でも思い切りがよくて好感が持てます。
[良い点] >フフ、わたしは婚活の勝者。恐れるものなど、何もない! ふふふ。エリカ好きだなぁ。 ナーシルへの向き合い方も、モジモジしてないで素直で可愛い。 こういう自分に正直で気持ちの良い女の子、大…
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