見つめる記憶に真偽を据えて
これは、俺が歩んだ人生の記憶
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「アルバート、今日は塀を越えて海に行くぞ!釣りだ釣り、楽しいぜ」
これは、確か俺が9歳のときの記憶。
この人は俺の父だ。
「父ちゃん、どれくらい掛かるの?」
「う~ん…?2時間くらい?」
「えー?遠いよ~。それに父ちゃん明日も仕事だろ?」
「大丈夫だっての、ほれ!行くぞ!」
「ボクたちがイスタリア領に入ったのバレないよね?」
「心配すんなって、いざってときは守ってやるよ」
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「あ、あ、あなたのことがす、す、す、すき……です…。付き合ってくれたら…う、嬉しい…かな!あはははは!」
これは俺が14歳のとき、初恋した相手に告白した日だ。
確か俺ら世代辺りから中学校というのが制度化されたのだっけ?
「うふふっ、アルバートさんはやっぱ明るくて面白い人ですね。いいですよ、私たち付き合ってみましょ」
「あ、ありがと…! あーなんかスッキリした~」
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「別にワシの畑の跡継ぎしなくて良いぞ?」
「えっ、どういうこと?」
「アルバート、中学終わったら学院に行ってこい」
「別にいいよそんなの! 学費は?」
「そんなの大したことねぇ。おメェの自由だ。それに、やっぱ学校は楽しいだろ?」
「父さん…!」
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「別れよ、アルバート」
「えっ!?クレハ!?」
これは俺たちが付き合った1年半後の話。
「いや、アルバートと居て私すっごく楽しかったよ。でも私はお母さんの紡績業の跡継ぎ、あなたはイスタリアの学院に入学、そして寮暮らし。私たちもう会う機会ほとんどないよ?」
「で、でも…ホントの愛っていうのは_______」
「もうっ!アルバートのばーか!キミのそういうところなんか嫌い!」
「ご、ごめん…」
「それじゃあ私行くね、バイバイ。でもさっきも言ったけど、本当に楽しかったよ」
クレハはそう言って去った。
そうだよな?もうほとんど会えないかもしれないし、これが普通だよな?
俺、すっげーショックだった。付き合った相手とは結婚まで関係が続くと思ってたから。
いや、それもあるけど違う。俺が強く彼女を想っていただけであって、相手側は俺に対する想いがその程度だったんだ。それに気づいたときが一番ショックだった。
「雪、降ってきた」
1人になって、雪も降って______悲しいな…
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「父さん………!」
目の前で倒れていたのは、胸を刺され意識のない父さんだった。
結局、どんな正しい選択を選んでも変えることのできないものは変えられない。
自由の手に入れ方を教えてくれ。生まれ故郷によって自由・不自由はもう決められるのか?
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こんなところで諦めてたまるか。少しでもいい、自らの手で何かを変えてやる。
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<イスタリア軍入団試験 不合格>
これで5回目か…
そもそも俺はバルチカ人だからマイナス点から採点されている。なんだよそれ、くそっ…!
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<イスタリア軍入団試験 合格>
涙が出た。
8回目のテストでやっと、
これで、夢にまた一歩…
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「イスタリアの皆さん、バルチカの皆さん、聞こえますか? 私は、バルチカ人にして初めてイスタリア大帝国の軍隊に入団を獲得した、アルバート・ヴィルバルアヌスです。
超空魔法が切れる前に手短に伝えたいと思います。
今、僕らの国はスラムと化しています。土地が狭く、食糧不足で悩まされ、医療に手が尽かず、経済が上手く機能しない。理由は簡単です。他からの支援がなく、円の中でしか自給自足ができないから。僕はイスタリアの皆さんに不平を投げ掛けます。
しかしバルチカも悪い。過去の歴史に何があったかは知らない。でも悪いことをしたのは確か。でなきゃバルチカが隔離される理由がない。
けれど今生きている人の中で、その歴史の事実を目にした人はいるでしょうか?そんな人はいません。1000年ほど前のことなんか誰も見たことありません。
もういいじゃないか。過去は過去、今は今、これで終わりだと思います。バルチカ人の立場だから言ってるのではありません。例え僕がイスタリア人だとしても必ずこう言うでしょう、「こんなくだらないことして何になるんだ?」と。
だからバルチカの皆さん、現状を変えるチャンスです。受動的な態度を取っても何も起きない。僕のように能動的になることで正式にイスタリア人と関係性を作ることができる。僕たちで改革を起こしましょう。
僕たちは精一杯の努力をする。だからイスタリアの皆さんも僕たちのことを快く歓迎してほしい。両者のため、国のため。
世を、変えてやる。
ご清聴ありがとうございました」
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「そのタバコください」
「お、おう… 8リラな」
「すいませんおばさん、あそこにいる老けた顔の人ってまさか…」
「そう、アルバート君よ。あの子、まだ30もいってないのにタバコや麻薬やらであんなにも堕ちた顔になったのよ」
「どうしてそんなことに……」
「約1年前に超空魔法での彼の演説あったでしょ?あのスピーチは心にグッときて一生忘れないわ。
でも何やらあのスピーチの後、軍隊内で彼に対するいじめが盛んになったらしいの。訓練でもあの子だけ厳しすぎることされて、嫌になって辞めたと噂で聞いたわ。
可哀想だよね…せめて慰めてくれる人いればね…」
「そんな…私、彼に何かしてあげなくちゃ…」
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辞めてからよく後悔する。
あの時、もっと踏ん張っていれば良かったと。
「久しぶり、アルバートくん」
後ろから急に声が聞こえビックリした。
「ク、クレハ…?勝手に家入んなよ…」
「元気ないね。中学の頃の明るさはどこにいったの?」
「あまり構わないでくれ…」
麻薬の方へ手を伸ばそうとすると、腕を掴まれた。
「だめ!麻薬なんかに手出したらいけない!もうこれは私が処分します。いい?」
随分と俺の世話するよなぁ…
***
「当時、みーんなキミのスピーチに感動していたよ。実際に頑張ろうって人も増えていたし」
「それはありがたいな。でも変えられなかった。それなりの影響力はあったけど、時間が経てば皆徐々に忘れていく。そしてイスタリアは歓迎なんか一切しなかった。結局アイツらはクソで俺もクソだった」
「アルバート……」
「全部中途半端に終わる。軍を脱退したのもそう、俺に成し遂げる意志が足りなかったから。俺とお前が別れたのもそう、曖昧な関係だったから。恥ずかしいことに俺だけ変に強く片想いしていたから」
「え、何言ってるの?」
「…は?何が?」
「私、付き合ってからずっと好きだったよ。今更言っても恥ずかしいけど、別れた理由はキミが他の女の子とよく遊んでいたから。それなのに私には好きだ好きだと言うからムカッとなっていた。私の気持ちも知らずに本当の愛とか何だとか恥ずかしいこと言ってるのに対して気が動転した。キミは無神経だったかもしれないけど私はすっっごく嫉妬していたんだよ?
つまりね、好きじゃなくなったのは違うくて、好きなままだけど嫌いになったって感じ」
凄い言われようだ。
「エヘヘっ、やっぱ本音で話すの恥ずかしいなぁ…」
今考えれば分かる、全部俺が悪いって。
でもクレハ、そうだったのなら言ってくれれば良かったのに。俺は分からなかったよ。
「アルバートはまだ私のこと好き?」
「え、あ、うん、好きだよ…」
「実は私まだフリーなの。何人かに告白されて交際もした。優しい相手だったし楽しかった。でも何か違うと感じていた。だから結婚話も避けてきたし、最終的に別れた。
そのときは何が原因なのか分からないまま悩んでいた。でも気付いた。最初から知ってたはずなのに、やっと気付いた」
そう言って彼女は笑顔になった。
「今もキミが好き。この初恋は、頭から離れられないよ。だからキミを抱き締めたいよ。キミの意志、聞きたい。聞かせて?」
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「よく笑う人は生きている幸せを実感しているから。よく泣く人は過去に苦しみをたくさん味わってきたから。両者であるアナタは思い出がいっぱいある証拠だよ。私も、アナタを追い越したい。これからも止まらず、たくさん思い出作っていこうね」
この世界に1人の男の子が生まれた。
名を、トリシューラ
大した由来はない。個人的にカッコイイと思ったから。
いや、カッコイイ人生を送ってほしい、それがこの名前の由来なのかもしれない。
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「ほれほれ、ボーッとしてないで手を動かさんかい。分け前減らすぞ?」
「す、すみません…」
こんな朝早くからの仕事が続き、嫌になったことなんていくらでもある。
なけなしの給料、食糧、環境。しかし俺たち仲間はこの思いを味わいながらも、歯を食い縛って頑張っている。
それに俺は家族という支えがある。だから頑張れる。アイツらに夢いっぱいの飯を食わせてやるんだ…!
俺が家族の支えになる。そう決めたから。
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これまでの経験1つ1つに意味があった。
楽しさも悲しさも嬉しさも悔しさも、それら感情を兼ね備えているから人間っていうのは素晴らしい。
俺の人生は平凡ながらも、幸せだった。
これら全てを孫に知ってほしい、だから父も母も必要なんだ。『家族』が必要なんだ。
それを壊したくないから今まで通りの日常であってほしい。
だから戦争は嫌いだ。哀しみの連鎖しか続かないから。死んでしまったらもう、思い出は消えてしまうから。
:道はもう1つしかない:
「お父さん、帰ってきてね」
あぁ、帰ってくるさ…
終わったら、家族皆で海に行こう。そして釣りでもしよう。昔、親父が俺にそうしたように。
………帰ってくる…!
例え、この命が途絶えたとしても_____________
未来への導きは、途絶えない_________________!!
ズガザザガズザズガズガガザガザザザ
ブォォオオオオオアアアアオォォォォ!!!!
<オマエタチ二オシエテヤル、コノイタミヲ>