現世の流れは風のように
=オレたちの国はとても小さい=
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「人数も集まっていることだし、今日はサッカーしようぜ!」
「今日はじゃなくて今日もでしょ。まったくもぅ、アレクったらホントにサッカーが好きね」
「まぁまぁカレンちゃん、楽しいからいいと思うよ私は」
「んもぉアリエス可愛いぃ!!アリエスがそうなら別に私はいいけど!☆」
「お前らまた一段と仲良くなってるな……ちょっと引くわぁ…」
「黙りなさいエリック、喋れなくするよ?」
「えぇ……」
オレはトリシューラ・ヴィルバルアヌス。今、友達たちの会話を側でかるーく聞いている。
毎日似たようなメンバーで遊んでいる。でも飽きない。楽しいんだ、すごく。
「シューラどうしたの?みんな行ってるよ?」
こいつはジーマ。どうしてかオレに懐くことが多くて一緒に話すことが多い。おとなしげな性格で可愛らしい一面がある。けど男だ。
「ああごめん、ちょっとぼっーとしてた」
ファーストネームが長いからこのようにオレは『シューラ』と略されて呼ばれる。
「よしやろーぜ。8人いるから4と4に分けよう」
着いた場所は広場でなく、でこぼこ地面の少し大きな道端。というよりそもそも、オレたちの国にスポーツができるくらいの大きな広場、言わばグラウンドという場所がないんだ。
「えー?私アリエスと同じチームが良かったんだけどぉ」
「ふふ、仕方ないよカレンちゃん。じゃんけんで決めたことだし」
いい感じの実力差で分かれた。
「シューラぁ、ボク下手だからあまり責めないでね?」
「何言ってんだよジーマ、オレも下手だよ」
このようにジーマはオレにベッタリなところがよくあるけど、別に嫌いじゃないし鬱陶しくも思わない。
「じゃ、エリック、いつものお願い」
「え~~?いつからか、ボクだけになってない?」
そう言うとエリックは自分の靴を両方脱いで、それらを2メートル間隔で置いた。つまりはそれをゴールと見立てているのだ。
ならもう片方のゴールは?ってなると思うが、もう片方は高さ約3メートルの塀にチョークでゴールを描いているから問題ない。
「みんな準備はいいかぁー?そんじゃあいくぞ~! ふぃー!!」
アレクがちょっとミスったかのような口笛を鳴らし、試合が始まった。
「あらあら、子どもたちは今日もサッカーかい?うふふ、楽しそうで何より」
「おーいお前ら~~、俺の店にボール当てんなよーーー」
「アレクは今日も3点かぁ~?」
周りの中年男性やおばあちゃん層の人たちが、オレたちの遊びを観て嬉しそうな顔をしている。
「おいおい!誰か俺を止めるヤツはいねーのか?」
やはりアレクの独壇場である。1点2点と、短時間でゴールを決める。しかし、
「うお!? ベラッティ、お前やるなぁ」
ベラッティは運動神経が良くて呑み込みが早いから、こんな遊びでもすくすく成長している。
「へっ、もうアレクの攻撃パターン見切ったぜ!」
「コノヤロー……てめぇ!!」
「えっ、すぐ取られたんですけど!?」
アレクは透かさずボールを取り返し、ドリブルで1人2人3人と抜いていき豪快にシュートを放つ。
「あちゃ~~~」
そのシュートは塀を大きく越え、ボールは奥にへと飛んでいった。
「ちょっとアンタ、キーパーいないのになんでそんな強く打ったの?バカじゃない」
「うっせーなー、好きにやらせてくれよ。
じゃあいつもの負けたら取りに行くじゃんけんやろうぜ!」
「えぇーー!? 今回ばかりはアレクくんが悪いよぉ。取りに行ってよぉ」
「なっ!?マルチナまで俺が悪者扱いか!? くそっ!
じゃあ次からちゃんと行くから今回はじゃんけんしてくれ!いいな?」
「まあええけど…お前約束よく破るじゃねーか」
なんだかんだでじゃんけんした。
結果→アリエス
「ちょっとーー!!アリエスが可哀想でしょ! それに見つかったらどーすんの!!」
「それは知らねーよ、運が悪かっただけだ。それに見つかるだって?過去に一度もそんなことあったかぁ?」
「いいよいいよカレンちゃん。ボールそんな遠くまで飛んでないし行ってくるよ。待っててみんな」
と、アリエスが言う。
「あ、届かない…」
…でしょうね。みんな気づくのが遅かった。アリエスの身長と跳躍力と筋力ではその塀を越えられない。
「そこにあるタルを使ったら上まで届くと思うぞ」
「あ、ありがと。エヘヘ…」
親切に教えるオレ。
そしてアリエスは上に登り、塀を越え、ボールを取りに走り、数十秒後、
「みんなごめ~ん!少し遅れちゃったあ」
「おーー良かった良かった。続きやろうぜ」
「ちょっとみんな、アリエスが戻れないからタル向こうにやるの手伝って」
「へいへい」
よいしょっと…
「これで帰ってこれる?」
「うん、ありがとみんな」
「ふぅ、だから言ったろ、誰も見てないって」
「あ、このタルどうやって戻すの?私じゃ持てないよ……」
「あー、ボクが何とか戻しとくからアリエスちゃんはタルの上に突っ立ってないで早く戻ってきて」
「おい、お前、何をしている」
「え?」
2人組の警備官にバレた。
「お前、バルチカ国の人民だな?証明紋は?」
「………刻まれていません…」
「親を呼べ」
「そ、そ、それは……」
「親に迷惑を掛けるのは怖いか?なら選べ、親に迷惑を掛けるのか、それとも、名は伏せるがイスタリア大帝国にバルチカ人が無許可で入ったのが知れ渡るのか」
「うっうっ…う……ううぅ………親を……選びます…」
「ア、アリエス……」
***
「お前たちが親としての責任感を持っていないせいで、俺たちの国が汚れてしまったではないか。しつけが成ってないんだよ!しつけが!」
「も、申し訳ありません…」
「1回目のペナルティだ。ワシが教育をしてやる。お前ら親の前でこの娘を公開教育の刑に処す。お嬢ちゃんはお父さんお母さんが授業参観に来たと思えばよいぞ」
「や、やめてください!!」
ドカッ ドカッ
「あぁぁ!!」
「な、何が教育ですか…!ただの暴力ではありませんか!」
「お前たちに人権などありゃしないんだよ」
ドカッ ドカッ
「よーし、今回はこれで許してやろう。2回目のペナルティを先に言っておく。王都に報告だ。分かったか?」
「はっ、はっ、は、はい……分かりました」
きゅぅぅ…バタンっ
「大丈夫アリエス!?今すぐ手当てするわ!!!」
「ごめんな……!ごめんな……!お父さんがこんな人で…ごめんな……」
「ううん…、全部私が悪い。ごめんなさい…
う…うう…うあぁぁぁぁぁ!!!ごめんなさい!!!!」
***
夕日が街を照らし、すっかりとオレンジ色の空へと変化した。
きゅぅぅ…
ドアの開く音が聞こえた。
「アリエス!!その顔!!!」
酷い顔だ。見る人を虜にする美少女の顔は、今や逆にあまり見てはいけない顔になっていた。
「アレク!!!!アンタのせいで!!!!」
「ま、待てよ!確かに俺が一番悪かった!ごめんなさいアリエス!! だけどカレン、お前仲いいだろ!じゃあなんで一緒に行ってあげなかった?もっと簡単に、なんで代わりに行ってあげなかった?」
「おいアレク、ここで仲間割れかよ……お前、痛いヤツだな」
「くそっ!なんで俺ばっか…」
ああ……そうだ、
だから言っただろ、
=オレたちの国はとても小さい=
チョークでゴールを描いたあの塀は、国と国を分ける国境、『区切り』の象徴だ。
オレたちの国の領土は、円型にそびえ立つあの塀の中だけだ。