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第九話

           第九話【Side.R】


担任の栗山義雄(くりやまよしお)が死んだ。

奇妙なことに、死体の頭部はすでに首から切断されていたという。


「やっぱり、栗山先生の分身(アバター)はギルドマスターのマロンさんだったのね」

「やっぱりって、水無月は知ってたのか?」

「夢の世界と現実世界の関係性は、だいたいリンクしているっていう事に気付いたの。現実世界では和泉くんのクラスの担任なら、

夢の世界ではアキラが所属するギルドのマスターって感じじゃない?」


「え、ちょっとまって。水無月ってまさか、夢の世界に分身(アバター)がいたりするのか?」

「ふふ、どうかしらね。ただ、今まで和泉くんが話してくれた内容だけでも充分に推測する事ができるわ」


水無月は夢の世界とは無関係。そう思ってもいいのだろうか。


「そういえば僕は今日、会って詳しく話を聞かなきゃいけないやつがいたんだった」

「ひょっとして、宮崎?」

「いや、違う」


小林大河だ。


「財布の盗難がまだ起こってるみたいだから、貴重品はズボンの中にでも入れて行けよ」

僕が教室を出る前、純平がそう忠告してくれた。


大河のクラスに行ってみたが、残念ながら教室にはいなかった。

そういえば、白鳥由紀(しらとりゆき)も大河やハヤトと同じクラスだったはずだ。

僕は次に白鳥(しらとり)を探したが、結局そちらも見つからなかった。


それから生徒に聞いてまわると、ハヤトと白鳥(しらとり)が二人で裏庭に行くところを見たという情報を手に入れたので、即座に向かった。


裏庭に到着すると、思いのほかすぐに見つかった。

なにやら話をしているようだったが遠くから雰囲気を見ただけでも、決して楽しい話をしているわけではないのだろうと察した。

僕は曲がり角に隠れて二人の会話に耳を傾けた。


「ねぇ、本当にどうしてくれるの……」

「まさか、こんな事になるなんて思わなかったんだ」

「普通に考えたらわかるでしょ」

「でも、お前だって承知の上だったんだろ?」


一体、二人はなんの話をしているんだ。

「おい」

背後から突然声をかけられたので、僕は思わずびくついた。

声の主は小林大河であり、手には財布が握られていた。


「あ! それ、僕の財布!!」

いつの間にかズボンから抜き取られていたらしい。

「ほらよ」

そう言って大河は、僕の方へと財布を投げた。


「まさか、例の財布の盗難事件っていうのは大河の仕業だったのか?」

「もしそうだとしても、(あきら)だって今、人の会話を()()聞きしているじゃないか。同じ()()だ。同罪だ」

「いや、それとはなんかちょっと違うだろ」

こんなふうに、こいつとくだらない会話をするのは、一体いつ以来だろう。大河の方も、気のせいか少し嬉しそうだった。


ちなみに大河から返された僕の財布の中身を確認してみると、すでに千円札が数枚ほど抜き取られていた。


正直聞きたい事はたくさんあるが、ひとまず順を追って質問した。

「どうしてギルドマスターのマロンを……栗山先生を殺したんだ」

「……宮崎に脅迫されたんだ」


「脅迫?」

「言う通りにしないと、夢の世界で僕を殺すって」

「ちょっと待て。ハヤトは夢の世界と現実世界で記憶の共有はされているって事か?」

「え、何を言っているんだ」


以前、純平達と話した時、夢と現実で記憶が引き継がれない人もいるんじゃないかと推測した。

そしてハヤトもその一人だと。だが、その推測は違っていたのか。


そうなると、なぜ現実世界のハヤトは夢の世界の事を知らないんだ。

それに、二つの異なる世界ではまるでまったくの別人のような性格だったのも不可解だ。

駄目だ。なんだか混乱してきた。


「まぁいい。ところで、あの二人は一体なんの話をしてるんだ?」

僕はハヤトと白鳥(しらとり)の方を向いて大河に聞いた。


「あぁ、あの二人が付き合ってるっていう事は知ってるだろ? それでまぁ、なんというか……」

大河は歯切れ悪そうに話し、そして小声で言い切った。

「あいつら、どうやら一線を超えてしまったみたいなんだよ」


僕は一瞬何のことかわからなかったが、理解するのにそう時間はかからなかった。

まるで、心臓を直接握りしめられるような感覚になった。


この感情は誰に対してのものだろう。

ハヤトだろうか。白鳥(しらとり)だろうか。それとも自分自身に向けてだろうか。


「話が済んだなら、僕は教室に戻るけど」

「……いや、もう一つ聞かせてくれ」

まだ心の中では衝撃を受けたままだったが、どうしても大河には聞かなければいけない事があった。


「夢の中の最後、お前は誰かを殺すつもりだと言っていた。途中で運悪く目が覚めたせいで知る事はできなかったが、

あれは一体誰の事を言っていたんだ?」 


大河はしばらく黙っていたが、背を向けて歩き出しながら答えた。

「……お前と、いつも一緒にいる男だよ」


そして僕はある一人の、いや、二人の顔が思い浮かんだ。




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