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第六話

           第六話【Side.D】


今日は城跡でグレムリン討伐をおこなっていた。

僕達は上手く連携が取れるようになってきて、ハヤトが挑発スキルで敵の攻撃を引きつけている間に僕が隠密スキルで敵に近づき迎撃。

ジュンには援護射撃を任せている。


「俺達、なかなか良いパーティになってきたんじゃないか?」

「ハヤト、いつも壁役(かべやく)なんて危険な役を任せてごめんね」

「気にするな。それよりも素早く敵を仕留めてくれるおかげでこちらこそ助かる」


ハヤトはやっぱり現実世界の記憶が無いのだろうか。

もしもこの世界で死んだら、宮崎隼人という自分の本体も死んでしまうなんて、そんなこと思ってもいないんだろうな。


「ジュンも援護射撃ありがとうね」

「ふっ。この凄腕狙撃手(スナイパー)のジュン様にかかれば、この世に撃ち抜けないものなんてないぜ」

なんか言い出した。


「あれ、あそこいる冒険者、ちょっとやばいんじゃないのか」

そこには、巨大オークに苦戦する女冒険者の姿があった。

「俺が行く!!」

そう言葉にするや否や、ハヤトは一目散にその巨大オークに向かっていき自慢の剣撃をお見舞いした。

僕はまた一つ、この男の良いところを見てしまった。


「た、助けてくれてありがとう。あのままだったらアタシ、普通にやられてたかも……ってあれ?」

ハヤトの顔を見ると、女冒険者は急に険しい表情を浮かべた。

「ん? どうした」

「あ、いや、なんでもない。気にしないで」


「見た感じだと、あんたは戦闘向きの職業じゃないんだろ。他に仲間はいないのか?」

「アタシは職業:神官(しんかん)のスノウ。実はギルドのパーティ仲間と一緒に魔物討伐に来たんだけど、いつのまにか(はぐ)れてしまったみたいで……」


「それは災難だったな」

「まったく、こんな美女を一人にしちまうなんて、酷い連中だぜ」

ジュンが何か言ってる。


「あ、まって、来たみたい」

やって来たのは男二人だった。ハヤトがそいつらに言う。

「この女はあんたらの仲間か? ちゃんと付いててあげないと駄目じゃないか」


「おやおや、これはうちのパーティメンバーがご迷惑をおかけしました。私は錬金術師(アルケミスト)のジョーカーといいます」

ジョーカーと名乗る男は落ち着いており、穏やかな雰囲気だった。だがもう一人の男は、何故か僕を(にら)んでいるような気がした。


「こら、お前も挨拶をしなさい」

「……」

「すみませんねぇ。こいつは獣戦士(じゅうせんし)虎丸(とらまる)。少しばかり警戒心が強いもんで。ほら、そこのあなたも行きますよ」

「あ、うん。じゃあアタシ行くね。助けてくれてほんとありがと。またね」


神官(しんかん)のスノウ。なんだろう。近いうちにあの子の身に何かが起こってしまうような、そんな予感をこのときの僕は感じていた。



           第六話【Side.R】


なんかまた、いろんな人が出てきたな。

だんだん、この夢の世界から覚めた後も冷静でいられるようになってきた。

神官(しんかん)のスノウ。錬金術師(アルケミスト)のジョーカー。獣戦士(じゅうせんし)虎丸(とらまる)

この三人の存在がどうにも重要になってきそうだ。


学校ではもうすぐ文化祭ということで、各クラスから準備係が数人ずつやる事になった。

立候補者はいなかったので、帰宅部である僕と純平が勝手に選ばれた。

そして、その機を見計らったかのように水無月が立候補した。


突然だが、僕には片想いをしている女子生徒がいる。

白鳥由紀(しらとりゆき)という名前で、廊下で初めて見た時に一目惚れをしてしまった。

それから校内で見かける度に視線で追ってしまうほどだったが、クラスが違うので当然話すことすらできなかった。


しかし本日、思いがけないチャンスが到来した。

なんと白鳥由紀も別クラスの準備係になっていたのだ。


僕は放課後、作業中に少しでも白鳥由紀と親しくなれないか、

色画用紙を切りながら彼女の事を観察していた。


(あきら)ってさ、白鳥さんのこと好きなんだろ?」

「じゅ、純平!! 別にそんなんじゃ……」

「隠さなくていいって。一緒にいたら嫌でもわかるさ」

「き、気付いてたのか……」

「よし、そういう事なら俺に任せろ」


そう言うと純平は、白鳥由紀の方へと向かっていた。

どうやら白鳥は、木工用ボンドの蓋が固まって開かなくなっていたらしい。

それに気付いた純平は、代わりにボンドの蓋を開けに行ったのだ。


「あ、ありがとう。全然開かなかったら助かったよ」

白鳥は明るい笑顔で純平に礼を言った。

「別に大した事じゃないさ。それより、あっちで俺達と一緒に作業しないか? 画用紙を切るのに人数が足りないんだ」

そして何の違和感もなく白鳥由紀を連れて来た。

純平。さてはあなたは神でしたか。


白鳥由紀とは意外にも話が弾んだ。というのも、音楽の好みや

好きなドーナツの種類、好きな紅茶の銘柄など、僕と好みが同じだったのだ。


まさか、好きな女の子と自分の好みが同じだなんて思わなかったので、とても嬉しかった。近くに純平や水無月もいるというのに、周りが気にならないほど白鳥由紀と話すのに夢中になってしまった。


「二人はドーナツが好きみたいだし、もし良かったら帰りにみんなで駅前のドーナツ屋さんにでも寄らないか?」

そう言い出したのは純平だった。

「いいね! アタシは全然おっけーだよ」

白鳥は急な誘いにも嫌な顔一つ浮かべず、むしろ行くのを心から楽しみにしているように思えた。


「よし、それじゃあ水無月も来るだろ?」

「……私も? ……はぁ、仕方ないわね」

ずっと口数が減っていた水無月がつまらなさそうに答えた。


「なんだか楽しそうにしてるじゃねえか」

突然の人物の出現によって、僕達の会話は強制終了した。

それはハヤトだった。


「俺も混ぜてくれよ」

「宮崎、お前部活はどうしたんだよ。ついにサボりか?」

純平が喧嘩腰に言った。


「まさか。ほら、部長は死んじまっただろ? それに部員の何名かは原因不明の怪我とかで練習に参加できないらしくてよ。

残念ながら休みになったんだ」

「残念? それにしては随分と嬉しそうね」

そう言ったのは水無月だった。


ハヤトが来た事により、みんなの雰囲気が重くなってしまったが、なぜか白鳥が一番深刻そうな表情をしていた。

「おい、なにこんなやつらと楽しそうにしてるんだよ」

「う、うん……ごめん」

ハヤトの問いに、白鳥は僕達の顔を見ずに呟いた。


「……じゃあアタシ、先に帰るね。みんな本当にごめん」

僕は何が何だかわからず、ただ困惑する事しかできなかった。

純平と水無月も同様に、ハヤトに付いていく白鳥由紀の背中を黙って見ることしかできなかった。


「白鳥さん!!!」

僕は気がつくと、二人のところまで走っていた。


「白鳥さん、急にどうしちゃったんだよ」

「……ごめん、ちょっと用事が出来ちゃったから」

「そんな。だって、帰りにみんなでドーナツ屋に行くってなったとき、あんなに楽しそうにしてたじゃないか……」

僕が白鳥を呼び止めていると、痺れを切らしたハヤトがこう言った。


「あのさ。悪いけど俺達付き合ってるから」


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