表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

第五話

           第五話【Side.D】


「なぁ、マロンさん。何かいい案件ないか?」

「それなら、これなんてどう?」

ハヤトがギルドマスターのマロンさんに紹介してもらったのは、

洞窟内でのスケルトン討伐、というクエストだった。


「でも、人数が足りなくない? 僕とハヤトだけだよ」

「そういう事なら、俺が仲間に加ってやろうか」

そう言ったのは、狙撃手(スナイパー)のジュンだった。


「ジュンさん! そういえば、ギガプラントの時はありがとうございました! 無事で本当に良かったです」

「そんなかしこまらなくていいって。まぁ、気楽に行こうや」

ジュンは馴れ馴れしく、僕の肩に手を回した。


「よし、それじゃあ出発だ! 洞窟までは馬車を使うぞ。水と食糧は充分に積んでおくように」

ハヤトが命令した。

「いや、なんかノリノリだな、ハヤト」


洞窟に向かう馬車の中で、僕達はパンを食べた。

「あ、このパン美味しい」

「いいな、俺にも分けてくれよ」

ジュンはそう言うと、僕の食べかけのパンにかじりついた。

「ちょっと!」

「まぁまぁ、気にするなって。俺のも分けてやるからさ」

「お前達、いつの間にそんなに仲良くなったんだ。ちょっと気持ち悪いぞ」


しばらくすると、馬車が止まった。

「ん? どうした。まだ目的地には着いてないはずだが」

ハヤトが御者(ぎょしゃ)にそう言おうとしたが、前を見ると、なにやら争い事が起こっているらしかった。

といっても、盗賊集団の中に一人囲まれているという、ほぼリンチに等しい光景であった。


そして、その中心にいた人物は、あの謎の仮面の男。

僕が初めてこの世界に来た日、ハヤトにまるで攻撃するような素振りを見せ、何もせず去っていったあの謎の男だった。


仮面の男は圧倒的に不利な状況であるのにも関わらず、盗賊集団を蹴散らした。

そして、これは僕の見間違いだろうか。むしろ、そうであって欲しい。

盗賊の親玉のような人物が仮面の男に腹を貫かれ、そのまま消えていったような気がしたのだ。


その後、洞窟に辿り着いた僕達は無事にスケルトンを討伐し、クエストを完遂した。

ギルドに帰ってマロンさんに報告して、報酬もしっかり受け取った。


「やった! 二人とも! こんなにたくさん報酬を貰えたよ! 今日はみんなで美味しいご飯を食べようよ!」

先に外で待っているという二人のところへ、僕は弾む気持ちで駆け寄った。


……って、え。

僕が見てしまったのは、ハヤトに銃口を向けるジュンの姿だった。



           第五話【Side.R】


いや、マジかよ。

夢から覚めた僕は、真っ先にその言葉を口にした。

ジュンは、なんとなく純平に似ている。

もしも本当にそうだとしたら、まさか、純平はハヤトに……。


朝のホームルーム、今回も悪いニュースが続いた。

サッカー部の部長が、睡眠中に原因不明の突然死をしたらしい。


「まさか二日連続で、この学校の生徒が被害に遭うなんてね」

「サッカー部といえば昨日、宮崎は部員達と揉めて殴り合いをしてたな」

もぐもぐ。

「ちょっと和泉くん、ちゃんと聞いてるの?もぐもぐしてる場合じゃないのよ」


「あぁ、ごめん。このパン美味しくて」

僕達三人は食堂で、購買部で買ったパンを食べながら話していた。

「お、そのパンそんなに美味いのか? 良かったら俺にも分けてくれよ」

純平はそう言うと、僕の食べかけのパンにかじりつき……

とかはさすがになく、まだ口をつけてない部分をちぎって食べた。


「それにしても、和泉くんが見た夢の世界の話を聞いて思ったんだけど、あっちの世界の自分が死ぬと、こっちの世界の自分も

死んでしまうっていう事になるんじゃないかしら?」


「やっぱりそうなるのかぁ」

艶島(あでしま)みどりは、いわゆる自分の分身(アバター)的存在であるオリーブが夢の中で死んだ直後に、本人も死んでしまった。

そしておそらく今回は、サッカー部の部長の分身(アバター)が夢の世界で死んだのね。原因はわからないけど」


「そうなると、今回は宮崎が怪しいんじゃないのか?」

「ハヤトが?」

「高坂くんはもしかして、宮崎が夢の世界でサッカー部の部長の分身(アバター)を殺害したんじゃないか、って言いたいの?」


「夢の世界と現実の世界で死がリンクしているなら、そういう事もできるんじゃないのか?」

「もしも本当にそうだとするなら、恐ろしいわね。だってそれ、

現実では証拠を一切残さずに、殺したい人を殺せる完全犯罪ができるってことじゃない」

「まぁ、殺したいやつが夢の中ではどの分身(アバター)なのかを把握しておく必要があるが」


「ハヤトはそんな事しない!!」

僕は少し強い口調で言った。

「和泉くん、まだそんなこと言ってるの?」

「いや、よく考えてみてほしい。ハヤトに犯行は不可能だと思うんだ。なぜなら、昨日僕はずっとハヤトと一緒に行動していた」

「なるほど、アリバイがあるという事ね」


いや待て。そういえば一度だけあったじゃないか。僕がクエストの報酬を受け取っている間、ハヤトはギルドの外で先に待っていた。だが、あの時はジュンも一緒で……。


「なぁ、純平。純平は夢の世界とは無関係なのか?」

「……何が言いたい?」

「夢の世界にジュンっていう仲間がいて、なんというか、純平に雰囲気が似てるんだよ」


「つまり、そのジュンってやつは俺の分身(アバター)なんじゃないか。そう思ってるんだな?」

「どうなんだよ」

僕が低く言うと、水無月も純平の顔を見た。


そして純平は少し考えてから答えた。

「いや、俺はジュンじゃないよ」

「そうか。それなら良いんだけど」


「ただもしかしたら、(あきら)のように夢の世界の事をはっきり覚えているやつだけじゃないのかもな」

「え?」

「あくまで俺の仮説だが、仮に俺がジュンだとしよう。だが、他のやつと違ってジュンには現実世界での記憶は反映されないし、

俺にも夢の世界の記憶は受け継がれない」


「確かに、その仮説が正しければ、宮崎が夢の世界のことを知らないのも納得がいくわね」

記憶が共有されない者もいる。

「そういう事だったのか」


話し合いが終わると、僕はトイレに行くと言って先に出た。

ちなみにこれは口実だ。本当は職員室に用があった。


「栗山先生、ちょっといいですか?」

「和泉君。どうしたのかな?」

「実は、宮崎隼人という生徒から小林大河くんがいじめを受けているかもしれないんです」


この男、栗山義雄(くりやまよしお)は僕のクラスの担任だ。

「えっと、その二人はどちらも別クラスの生徒なんじゃないかな」

「いやまぁ、そうなんですけど、他に誰に言えばいいのかわからなくて……」


「そういえば、宮崎達のクラスの担任は、新任の若い女性教師だったな。確かに彼女には荷が重いかもしれない。

よしわかった。先生に任せておけ」

「あ、ありがとうございます!」


その時、栗山先生のパソコンのデスクトップに設定されている二次元の女の子キャラが目に止まった。

栗色の髪……。それは、どこかで見覚えがある容姿をしていた。


そして教室に戻る途中、僕はある光景を見てしまった。

純平と水無月が、互いに表情を強張らせ激しく睨み合っていたのだ。何か言い争いでもしていたのか。


僕はとりあえず、遠回りしてから教室に戻った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ