第四話
第四話【Side.R】
――は!!嘘だろ。またあの夢を見てしまった。
僕は目が覚めると、思わず涙が出ていた。
まだ異世界の夢の余韻が残り、頭がクラクラする。
手の震えも止まらない。だって、オリーブが……。
いや、気にするな。たかが夢の中の話だ。
しかし、朝のホームルームで衝撃的な話を聞かされた。
艶島みどりが、寝ている間に突然死してしまったとの事である。
僕は全身が脱力し、激しい嗚咽感に襲われた。
オリーブ……。
昼休み、僕は図書室で純平と話していた。
「まさかよ。委員長が突然死の被害に遭うなんて思わなかったぜ。つうか、この学校では初めてなんじゃないのか? くそ、
なんでよりによって委員長なんだよ」
「あのさ……僕、またあの夢を見たんだ」
純平は、なんで今その話をするんだ、という表情をしたが耳を傾けた。
僕はあの夢で起きた事をすべて話した。
オリーブという女性が現実世界の僕を知っていた事。
そのオリーブの正体は艶島みどりだった事。
そして、オリーブが死んでしまった事。すべて話した。
「……暉、お前は夢の中で委員長の分身と名乗る女が死んだから、現実世界の委員長も死んだって言いたいのか?」
純平の問いに、僕は何も言わずに頷いた。
「そんな事あるわけ……」
「とても興味深い話ね」
言葉を遮るかのように突如背後から現れたのは、図書委員の水無月優子だった。
「うわ! いつの間に!!」
「もしも和泉くんの話している事が本当だとするなら、まずはある人物のところに行って、詳しく話を聞いた方がが良さそうじゃない?」
「ある人物?」
僕達は、宮崎隼人を探しに裏庭に行った。
「宮崎のクラスのやつの話によると、昼休みはいつもここにいるらしいが……」
「あ、まって、あれそうじゃない?」
そこには宮崎と、ある男子生徒の姿があった。
その男子生徒は、僕にとっては少し顔を合わせづらい相手だった。
小林大河。僕の中学時代の親友だ。
「お前、その生徒に何してるんだよ」
純平がハヤトを睨みつけながら言った。
「別に、何も」
「嘘つけよ」
小林の身体はびしょびしょに濡れており、ハヤトの手には、空になったコーラが握られていた。
そんな……ハヤトがそんなことをするわけない。
僕を何度も危機から救ってくれて、瀕死のオリーブを背負ってギルドに連れて帰った、そんな仲間思いのハヤトが。
「相変わらずね、宮崎くん。まだこんな知能の低いことをやってるのかしら?」
「水無月。なんだ、元カノ気取りか?」
「やめて。あなたみたいな人と一時期でも付き合ってたと思い出すだけで、全身に痒みが生じるわ。とんだ黒歴史ね」
「頭が良くてスポーツもできて男女共に人気がある。そういうところ、俺はお前に憧れるが、こういうところは今になっても吐き気がするぜ」
純平はハヤトの胸ぐらを掴み、眉間にしわを寄せていた。
だが、ハヤトはそれとは対照的に余裕の笑みを浮かべていた。
「お前、俺に勝ったことないくせに」
「た、大河……お前、いじめられているのか? 今度はハヤトに」
僕は声を震わせながら尋ねた。
「……」
しかし、小林大河は何も言わない。僕の顔なんて見たくないのかもしれない。それでも……
「大河!! 僕はお前を助けたいんだ!」
小林大河は僕を睨みつけた。髪からはコーラの水滴がポタポタと落ちている。
「……よくそんな事が言えたな、暉。中学の時、親友の僕を見捨てたくせに」
それは……。
あぁ、僕は本当に臆病者だったんだよ。
放課後、僕と純平と水無月の三人で図書室に集まり、話し合いをした。
「まずはそうね。和泉くんと小林くんに昔何があったのか、聞かせてもらおうかしら」
「俺もそれが気になっていた。暉はあの男子生徒を知っているのか?」
「……うん。僕と大河は中学時代、親友だったんだ」
気が付いたら、一緒にいる事が多くなっていた。
地味な余り物同士が引っ付いたただけかもしれない。
それでもいつのまにか、唯一何でも許せる存在になっていたんだ。
でもある日、大河はクラスぐるみのいじめを受けるようになった。
僕は、いじめに参加こそはしなかったが、見て見ぬ振りをし続けていた。大体の生徒はそんな感じだった。
臆病だったから、手を差し伸べてあげることができなかったんだ。
そして次第に、僕は他の生徒と一緒にいるようになった。
まるで、いじめられている親友から遠ざかるように。
「これが、僕と大河についてだよ」
「……なるほど。それで、和泉くんは今もその事を後悔しているの?」
「そんなの、当たり前だ。僕は本当に情けないやつだ。自分の安全のために、親友を見捨てたんだ。だから、もしも今あいつが困っているっていうなら、今回こそは手を差し伸べて助けてやりたい」
「確かに、和泉くんが中学時代にやったことは褒められたことじゃないかもしれない。今さら後悔してもそれはどうしようもない。でも、あなたは今ちゃんと前進しようとしている。それはとても立派な事だと私は思うわ」
「水無月……」
「だから、今回は必ず小林くんを助けてあげなさい」
「でもまだ、ハヤトが大河をいじめている確証は……」
「いえ、あの男はそういう人間なのよ」
水無月の言葉に、純平も静かに頷いた。
「私と宮崎は、中学時代付き合っていたの。あの男ね、成績も良くてスポーツもできて、人気もあるから、最初は魅力的な人だと思ってたんだけどね、裏の顔があったの。あの男、優等生の鬱憤晴らしとか言って、恋人である私に暴力を振るってきやがったのよ」
「あれを見なさい」
図書室の窓からグラウンドを見た。ちょうどサッカー部の練習中のようだ。なにやらハヤトが部活の先輩達と揉めている。
「表面上は優等生を装ってるんだけどね、昔から所々で素行が悪いの。高校に入ってからはさらに酷くなってるんじゃないかしら」
ハヤト。お前は、夢の中で何度も僕を助けてくれたヒーローじゃないのか?
少し素行が悪いだけで、瀕死の仲間を背負って走るような、本当は仲間思いの良いやつなんじゃないのか?
俺は窓から、先輩達と殴り合うハヤトを見て訴えかけていた。
なぁ、ハヤト……。