第二話
第二話【Side.D】
ハヤトに連れられ少し歩くと、僕はギルドに到着した。
「ここが俺が所属している冒険者ギルドだ。ここでクエストの
依頼を引き受けたり、パーティに入ってくれる仲間を集めたりする」
「クエスト? パーティ?」
「ま、詳しい話は中に入ってからにするか」
扉を開けると、中から急に出てきた男とぶつかった。
その反動で、僕も相手も尻もちをついた。
相手の男はその拍子に銃を落とした。
「いてて……おっと、君大丈夫かい? いきなり飛び出してごめんよ。ちょっと急いでてね」
「いえ、こちらこそ。それよりもその銃、壊れたりしてないですか?」
僕は男の銃を拾い、丁寧に渡した。
「心配ないよ。ていうか君、もしかして新入り?」
「俺が連れてきた」
「……へぇ、お前がねぇ」
「はじめまして。僕はアキラっていいます」
「そうかそうか。俺は狙撃手のジュン。そんじゃ、クエストに遅刻して仲間待たせるんで俺はこれで」
そう言ってジュンは手を振って去っていった。
ギルドの中に入ると、人がたくさんいた。
なんとなく、居酒屋みたいな場所だなと思った。
「よし、まずはギルド加入の申請が必要だ。あそこに栗色の髪をした女がいるだろ? あの人がこのギルドのギルドマスターだ」
そして僕は、ギルド加入の申請を行った。
「はい、これで申請手続き、終了したからね」
ギルドマスターのマロンという女性が、優しい笑顔をしながら、
僕をギルドに入れてくれた。
「よし、それじゃさっそくクエストだな。マロンさん、初心者向けの案件、なんかないか?」
そして僕達はマロンさんに紹介されて、
ゴブリン討伐クエスト、というものに行くことになった。
「あの、ハヤトさん。これ大丈夫なやつなんですか?」
「おっと、俺の事はハヤトでいいよ。あとタメ口で構わない。それと、そんなに怯えるな。安心しろ。俺が付いてる」
「でも、ごまプリン……じゃなくて、ゴブリンっていったら、
さっき僕がやられそうになったあのモンスターで」
「はぁ、仕方ない。そんなに不安ならもう一人仲間を入れるぞ」
「私に何か用?」
ハヤトが紹介してくれたのは、緑色の髪をした女性だった。
「実は今からこいつとゴブリン討伐に行くんだが、まだまだ駆け出したばかりなもんで、俺だけじゃ不安らしいんだ」
「なるほど、それで私もパーティに入って一緒に討伐を手伝ってくれないかってこと?」
「そういうことだ」
「ふーん、まぁいいわ。ちょうど暇だったし」
そして、その女性は僕の顔を眺めると不思議そうに言った。
「……あれ、あなた」
「え、なんですか」
「いや、なんでもないわ。私は魔術師のオリーブよ。よろしくね」
「僕は暗殺者のアキラです。こちらこそよろしく。オリーブさん」
数十体以上いたゴブリンを見た時は、正直二人を置いて逃げようかとさえ思っていた。しかし、その必要はなかった。二人は僕の予想以上に強かったんだ。
オリーブさんは地面から巨大な木や蔓を出す魔法を駆使して
ゴブリンの群れを一掃し、ハヤトは華麗な身のこなしと豪快な剣さばきで敵を一網打尽にした。
しかもハヤトは戦いながらも、盾で僕を守ってくれた。
「二人とも、ありがとう。ていうかごめん。なにもできなくて」
「気にする事ないわ。今は私達の戦い方をしっかりと見学しておきなさい」
「そうそう。それにお前はちゃんと、隠密スキルを使いこなしてたじゃないか」
隠密スキルとは、暗殺者に与えられたスキルで、自身の存在を敵から認知されにくくなるというものだ。
「あ、ありがとう」
ハヤトは皮肉のつもりで言ったのかもしれないが、ひとまずそう答えておいた。
ギルドに帰る途中、不思議な事が起きた。
謎の仮面の男が、いきなり僕達の目の前に現れたのだ。
「なんだお前は!」
ハヤトは剣を抜き、僕達を庇う姿勢になった。
そしてそいつは、ハヤトをしばらく見つめると、
ハヤトの額を手で覆った。わずか数秒程度だった。
そして、仮面の男はその場を去っていった。
ハヤトに怪我はない。ただ、額を手で覆われただけだ。
一体、何を意味していたのだろうか。
第二話【Side.R】
はっ!なんだ今のは!!
目が覚めた僕は、夢の中の内容を思い返し、まだ興奮していた。
リアルすぎる夢だった。
出てくる人達も、景色も、森の匂いも、風の暖かさも。
はっきりとしていて、まるで現実世界にいるかのようだった。
学校に行く途中、僕は夢の中で起こった事を、仲のいい友達に話していた。
「へぇ~、リアルすぎる夢ねぇ。もしかして、睡眠の質が悪くなってるんじゃないのか?」
僕の友達、高坂純平はそう言った。
「え、夢と睡眠の質って関係あるの?」
「いや、夢をはっきり見てる時ってなんとなく脳が完全に休んでないから、眠りが浅くなってる感じがしないか?」
「ああね」
「そういえば睡眠で思い出したが、お前知ってるか? 最近頻繁に起きている睡眠中の突然死の事件。このへんの学校の生徒は結構被害に遭ってるみたいだぞ」
「なにそれ」
「お前知らないのかよ。まぁ、被害とか事件とかいっても、
寝ている間に起こる原因不明の突然死だから対策のしようもないんだけどさ。だからこそ奇妙すぎて噂があちこちに広まってるんだ」
くだらない。
どうせ、誰かが面白半分で流したデマだろうに。
この時の僕は、まだそう思っていた。